聖女スコル

 船は港に入っていく。

 もちろん、攻撃は受け続けているので非常に危険だ。だけど、上陸するには、これしか方法がない。


「スコル、ちょっと持ち上げるぞ!」

「……は、はい!?」


 俺はスコルを小脇こわきに抱えた。

 あたふたして慌てまくるスコルだが、俺はお構いなしに船からジャンプ。港へ降りて向かっていく。



「とりゃ~!」

「えっ、えええええええええええ~~~~ッ!!!」



 まるで時をかけていく気分だ。

 実際は空を飛んでいるんだが!


 眼下にはエルフが百人ほど。

 船に対し、尚も攻撃をしているが関係ない。俺は共和国で買った『ボーンシールド』を展開した。



 [ボーンシールド]

 [盾]

 [効果]

  防御力:50

  オークスケルトンの盾。

  物理攻撃をガードする。



 投石や矢くらいながら、この盾で十分防御できた。ついにボロディンの港に着地し、俺はそのままエルフ達の方へ歩いて向かう。



「帝国の人間が何の用だ!」「不法入国者め!!」「この少年は何だ?」「船から飛び下りて来てきたぞ」「いったい、何なんだ」「誰かを抱えている?」「構わうもんか、やっちまえ!」「そうだ、リンチにしてやる」



 再び敵意が向けられる。今だ!


 俺は、シールドを捨てスコルにお願いした。



「スコル、出番だ。名を名乗ってくれ」

「な、なるほど! その手がありましたね!」



 息を深く吐くスコル。

 俺から離れ、エルフ達の方へ歩き出す。



「な、なんだ……」「ん!? エルフだぞ」「攻撃停止! 同胞っぽいぞ」「あの女の子……」「うわ、美人なエルフだな」「むむ!? どこかで……」「ありゃあ……まさか!」「ちょ、ウソだろ!」



 ちらほら気づき始めたエルフもいた。あとは名を名乗るだけだ。スコルは決心がついたようで大声を上げた。



「皆さん、わたしは行方不明になっていた『スコル・ズロニツェ』です! ただいま戻ってきました!!」



 あまりの声量に“シ~ン”となる。

 そして――




「うおおおおおおおお!!」「スコル様だ!」「マジぃ!?」「本物だぞ!!」「間違いねぇ! あの顔は本物だ」「お、お美しい……」「服装が違うけど、あのオーラは聖女様だ」「なってこった! 俺達は聖女様の乗る船を攻撃しちまっていたのか」「うわぁ、申し訳ない……」「ご、ごめんなさーい!」



 騒然となる現場。スコルの知名度すげぇな……ここまで顔が広かったとは。さすが聖女だ。だけど、人々の顔色は直ぐに変わった。



「後ろの少年は何だ!」「帝国の人間だよな」「スコル様を人質に!?」「うわ、帝国のヤツ、そこまで堕ちたか!」「帝国には血も涙もねぇのかよ」「スコル様、直ぐこっちに!!」「スコル様を守れ!!」「あの船だって怪しいぞ。帝国船だし」



 なんかヤバいぞ。

 また攻撃されたらかなわん。


 仕方ない、事情を説明しよう。と、俺は一歩前へ出ようとしたのだが――突然、スコルが抱きついてきた。何事!?



「こ、この人は元々は帝国の方ですが、もう手を切っているので、わたしの味方です! というか、旦那様ですっ!」


「え……ええッ!!」



 スコル、なに言ってるんだ!?

 エルフ達も愕然がくぜんとして……次の瞬間には――




「な、なんだってえええええ!!」「スコル様に旦那様が!?」「うそおおおおおおおお」「そ、そんなぁ……」「おぉ、いつの間にご結婚を!」「これは喜ばしいニュースですな」「なんだ、そういう事か」「しかし帝国の人間と?」「まぁ、手を切っているならいいんでね」「でもなぁ」「どうやら味方のようだな」



 なんだか賛否両論だけど、割と祝福されてるな。さぁて、こりゃどうしたもんかね。

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