エルフの国・ボロディンへ突入せよ

 目覚めの良い朝を迎えた。

 寝ている間にも船は動き続け、エルフの国を目指していた。揺れもなくて快適だったな。さすが“海に愛されし船”だ。


 ベッドから起き上がると、ちょうど扉をノックする音が響く。


「ん~、この感じはスコルかな。入っていいよ」

「起きられていましたか、ラスティさん」

「うん。今起きたところ」


 ゆっくりと扉を開け、部屋に入ってくるスコル。結局、昨晩は隣の部屋で寝て貰った。というか、二人が寝れるほどのスペースもないし、無理があった。



「おはようございます。ついにボロディンに到着したようですよ!」

「マジか。こんなアッサリ着くなんてね。そうだ、せっかくだし、一緒に甲板へ行ってみようよ」

「わぁ、本当ですか。わたしと一緒に行ってくれるんですね?」

「もちろんだ」



 そう言うと、スコルは嬉しそうに俺の手を引っ張った。なんか上機嫌だな。



 そのまま甲板へ上がっていく。

 段々見えてくる風景。



 大きな港がそこにあって、既に活気づいていた。……おぉ、あんなに奥まで街が広がってる。あれ、こんなにデカい建物あったっけ。

 十年も経過しているんだ、変わるだろうけど、ここまで発展しているとは――!



 これがエルフの国『ボロディン』かぁ。



 などと感心していると――突然、港から攻撃を受けた。



『こっちに来るな!!』『不法侵入するな!!』『帝国の船じゃねぇか!!』『ふざけんな、クソ共!!』『帝国はボロディンに入ってくるな!!』『沈んでしまえ!!』



「ちょ、え……ええッ!?」



 投石や矢まで降ってくる始末。

 やべえ、やばいって。


 異常を察知したストレルカが上がってくると、青ざめた。



「な、なんですこれ!!」

「俺も分からん。とにかく、歓迎はされてないぞ!」

「……くっ! いくらテテュス号でも沈む時は沈みます。いったん、引き返しましょう」

「分かった。そうしてくれ」



 船は港に入らず、ボロディンから逸れていく。……おいおい、やっと到着かと思ったのにこれかよ。



「お、おかしいですよ。こんなの! エルフは、あんな風に怒ったりしません」

「けどなぁ。石とかゴミまで投げられたし……」

「うぅ……ごめんなさい」


「スコルが悪いわけじゃないだろう。う~ん、原因はなんだろうな」



 思い返してみる。

 確か……『帝国』というワードが飛び交っていたような気がする。って、まさか、ボロディンと帝国で何かあったというのか。



 あ……あったわ!!



 思い当たる節が目の前にあった。




 スコルだァ!!!




 ――そう、今やエルフの国『ボロディン』は国の象徴とも呼べる聖女を失っていた。スコルが行方不明となって、恐らく帝国が疑われているとかそんなところだろう。



「どうしましょう……」



 すっかり涙目のスコル。

 俺は彼女の肩に手を置いた。



「スコル、安心しろ。多分、入国できる」

「え……?」



 本人が一番分かっていない。

 キミ、エルフで聖女だよね!?


 まあいいや。

 俺は、ストレルカに指示した。



「ストレルカ、もう一回、ボロディンへ向かってくれ」

「で、ですが……攻撃を受けたら沈没しますよ!?」

「俺を信じてくれ」

「分かりました。ラスティ様にはお考えがあるようですね」


 手動で舵を切るストレルカ。

 船は再び、ボロディンを目指す。


 船体は激しく揺れ、方向転換。そんな中、ハヴァマールが起きて来た。



「な、何事だ……兄上!」

「事情は後で話す。ハヴァマール、船にしっかり掴まっているんだ」

「うにゃ!?」



 ドンッと突き上げるような揺れが襲う。――って、砲撃を受けている。まてまて、どんだけ歓迎されていないんだ。完全に敵認定されているじゃないか。


 衝撃で転がってくるスコルとハヴァマールを受け止めた。



「大丈夫か、二人とも」



「は、はい……!」

「う、うん……」



 二人ともケガはないようだな。

 よし、このままボロディンへ突入する――!!

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