グラズノフ共和国

 船はついに『グラズノフ共和国』へ入った。もうすっかり夜にはなってしまったけど、なんとか到着。


 夜でも共和国は明るく、ネオンに包まれていた。魔導式の街灯か。帝国にも同じようなものが設置されており、夜でも視界良好。あれなら、安心して夜を歩ける。


「ここまでありがとう、ラスティ」

「いや、俺は何もしていないし、船はストレルカのだから彼女に言ってやってくれ」


 俺はそう視線をストレルカに流した。


「そうだったな。ストレルカさん、遠回りをさせてしまって申し訳ない。この礼はいずれしたいと思います」

「お構いなく。ですが、ラスティ様の手助けはしてあげて下さい」


 ナイス、ストレルカ。

 もし共和国と取引できれば、島がどんどん発展していくだろう。食料問題も完全に解決するだろうし、便利な道具も増えるはず。



「分かった。ラスティ、こちらの件が片付いたらまた島へお邪魔しようと思う」

「おう、そうしてくれ」

「それでは、皆さん……お世話になりました」


 最後には頭を下げ、礼を述べてブレアは行ってしまった。ちなみに、ケイトは人魚なので途中で別れ、専用の水路から国へ入ったらしい。


 ブレアと別れ、今日は船で寝泊まりする事になった。ストレルカが部屋に案内してくれた。船内は思った以上に広く、中の方には部屋が四つあった。



「ラスティ様、スコルさん、ハヴァマールさん、お好きな部屋を使って下さい。少し休憩して戴き、その間に食事の準備を進めておきますから」


「いつもすまないな、ストレルカ」

「いえ、わたくしに出来る事といえば、これくらいですから」


「いやいや、ストレルカの召喚スキルには、とてもお世話になっているし、船だって出して貰ってる。感謝してもしきれないよ。ありがとう」


「……はぅっ! い、いいんです。ラスティ様に喜んで貰えるなら、わたくしは幸せですからっ」



 ストレルカは、なんか両手で顔を覆って逃げ出すように去ってしまった。……あれ、俺なんか言ったかな。そして、やっぱりスコルが膨れる。



「ラスティさん……」

「え、あの、スコル。ちょっと顔が怖いよ?」

「そ、それより、部屋へ参りましょう」

「??」



 よく分からないけど、部屋へ向かった。

 中へ入ると完全な個室。


 ちょっと狭いけど、ベッド、机や椅子が綺麗に並べられていた。おぉ、これが船内の部屋かぁ。初めて経験するな。



「ふむふむ、シャワールームもあるのかぁ。便利だ」

「そうですね、ラスティさん」

「って……うわッ! スコル、君は隣の部屋だろ!?」

「はい? わたし、ラスティさんと一緒の部屋ですけど」


 さも当然のようにスコルはそう口にした。俺とスコルが一緒の部屋……? マジ?


「だ、だめだろ。着替えとか見えちゃうし」

「構いません! もう構わないんです!!」


 なんか大事な事なので二回言ったね。ていうか、自棄やけになってないか? さっき、ストレルカと話してから、スコルの様子がおかしい。


「けどなぁ」

「けども何もないんです。ラスティさん、わたしと一緒はお嫌ですか?」

「何言っているんだ。スコルは可愛いし、魅力的だよ。嫌なわけない」

「うんうん。では、問題ありませんね」


「え?」


 ……う~ん。まあいいか。島では散々一緒に生活していたし、今更、プライベートも何もないか。俺とスコルの仲じゃないか。



「ちょっと時間がありますし、ボロディンのお話でもしましょうか」

「おぉ、いいね。到着する前に知識を増やしておきたい。スコル、エルフの国について教えてくれ」


「はいっ、お任せください」



 スコルは機嫌を取り戻してくれた。弾むような声でエルフの国の内情を教えてくれた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る