大物!? を釣り上げた

 ――手紙はそこで途切れていた。



「終わり? なんて半端はんぱなところで!」

『ユウシャ、イソガシイ』



 忙しいからって、そこで終わるのかよ。続きが気になるぞ……てか、地味にブラームスがボコられていたけど。帝国ではとんでもない事が起きているようだな。


 一体、世界聖書を巡って何が起きている……?


 そんな事を考えながら、釣りを楽しんでいると“ピクッ”と反応があった。おぉ、エサに食い付いたな。



「フクロウ、悪い。今は釣りで忙しいんでな。また後だ」

『ソウカ。デハ、サラバダ』



 飛び立つフクロウ。もしかして、逐一帝国の状況を教えてくれるのだろうか。

それはそれで、有難迷惑なような。向こうの情勢を知る数少ない手段でもあるけれど。



「――って、うわぁっ!」



 釣り竿を持っていかれそうになった。なんて力だ。いったい、何が食い付いたんだ?


 力を込め、釣り上げようとしても魚の抵抗が強すぎて引っ張り上げられない。釣り竿が壊れるんじゃないかとヒヤヒヤするが、丈夫な釣り竿なだけあって、今のところ耐久値に変化はない。



「おぉ、兄上。なんだか大物な予感だな」

「これはデカイぞ。危ないから、スコルもハヴァマールも離れていろ」


 二人に離れてもらい、俺は釣り竿を必死に引き寄せた。すると、俺の筋力が勝ったのか魚の影が浮き始めた。



「あっ、ラスティさん! 影が見え始めていますよ。すっごくデカいですっ」



 スコルの言う通り、海面には人間の身長ほどある巨大な魚がうごめいていた。なんだ、ありゃ……! 怪物級かよ。


 とにかく、釣り上げてしまおう。

 俺は更に力を込めて、釣り竿をグッと上げた。ドンッと突き上げるように巨大な魚が打ち上がる。――こ、こいつは!



「……え、人間?」

「……うう」



 俺が釣ったのは“人間”だった……? あまりの事態に茫然ぼうぜんとなっていると、ハヴァマールが驚いていた。



「兄上、これは“セイレーン”だ」

「セ、セイレーンって、あの人魚の!?」

「そうだ、そのセイレーンだ。上半身は人間で、下半身はあの通り魚。胸が不必要に大きく、その歌声を聞くと状態異常【睡眠】を受けるほど」



 確かに可愛らしい女の子の人魚だなぁ。金髪で水着らしきもので胸を覆っている。まさか、人魚を釣り上げてしまうとは。



「ごめんね、君」

「いえいえ、お腹が減っていたのでつい……」

「君、話せるんだね」

「はい、これでも『グラズノフ共和国』のギルドに所属していますから」

「そうだったのか。共和国の人なんだ」


「ええ、普段はいろんな種族の方と冒険に出ているんです。でも今日は、行方不明になった姫様の捜索をしていて。あ、そうだ、ブレア様を見かけませんでした!?」


「ブレア? この船にいるぞ」

「ほ、本当ですか! ぜひ、合わせて下さい」



 俺は船内からブレアを呼び、人魚さんと引き合わせた。



「な、何事だ。ラスティ……って、ケイトじゃないか。どうしてこの船に」

「さっき釣り上げられちゃったんです。というか、ブレア様! 本当にブレア様ではありませんか! 心配しましたよ!」


「目的は果たしたのでな、今から共和国へ帰るところだ」

「そ、そうなんですか。ギルドの皆さん、心配していますよ」

「随分と迷惑を掛けた。でも、国の為だったんだ、許してくれ」

「そ、それならいいですけど……。ところで、この人達は?」


「そこの甘そうなクリーム色の髪をしている少年は、ドヴォルザーク帝国の第三皇子ラスティ・ヴァーミリオンだ。金髪のエルフが聖女スコル、あちらの銀髪の猫耳の方は、ハヴァマールというラスティの妹さんだ」



「へ、へぇ~…って、帝国の第三皇子ぃ!?」



 セイレーン、ケイトは俺を見てびっくりしていた。



「俺たちは、ブレアを共和国へ送り届けている最中だったんだ。ケイト、君も乗っていくといい」

「は……はい。というか、皇子様とか初めてお会いしました。か、かっこいい」

「君の方こそ、美しいね。人魚ってこんな美貌の持ち主なんだ」

「え、えへへ……褒められると照れちゃいますって」



 なんてやっていると、スコルが手で俺の目を覆った。



「ん、スコル?」

「こ、これ以上、ケイトさんを見ちゃダメです!」

「あ、ああ……」



 どうして目隠しを??

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