魔王と勇者

 勇者ルドミラ・・・・・・より……?


 俺は手紙を最後まで読み切って、ハテナが頭上に浮かんだ。最後の名前は記憶にあるぞ。……いやまさか、そんな馬鹿なと思いたかった。



「ル、ルドミラ!?」



 ルドミラといえば『聖魔伝説』に登場する『勇者』の名前である。まさに伝説の人だ。そんな勇者がドヴォルザーク帝国の騎士団長をやっているって、なんの冗談だよ。


 てか、俺の知っている騎士団長は“男”だった気がするんだけどなぁ。子供の頃は、親父にそう聞いていた。いつの間にか団長を交代していたのか。そもそも、大賢者のエドゥアルドがいる時点で相当に違和感があるけど。



『リカイ、シタカ、ニンゲンヨ』


「まだいたのか、フクロウ。この手紙の差出人が騎士団長なのは理解したよ。でも、勇者ルドミラだって? 意味が分からないんだが」



『セカイ、ガ、ホロブゾ! セカイ、ガ、ホロブゾ!』



 フクロウのヤツ、壊れた人形のようにそう連呼した。なんでいきなり、そんな恐ろしい警告を発する。怖いってーの。



「おい、フクロウ。ルドミラは島に来るのか?」

『セカイ、ガ、ホロブゾ! セカイ、ガ、ホロブゾ!』



 もうこれしか言わない。

 ダメだ、このフクロウ。


 手紙の返事は書いた方がいいのだろうか。いや、ルドミラ自ら来るって書いてあるし、そのうち会えるだろうな。でも、その前に『ボロディン』へ旅立つからなぁ。入れ違うかもしれない。エドゥに手紙の事を共有しておくか。




 ――家へ戻り、エドゥに手紙を見せた。




「こ……これはルドミラちゃんの直筆じゃないですかぁ~★ 相変わらず、丸い字でカワイイー!」

「へ?」

「あっ……。いえ、なんでもないのです」



 今、一瞬、すげぇテンション高かったぞ……。エドゥの性格が変わったような。手紙でもそんな雰囲気が見て取れたし、まさか猫被っているのか?


 いや、それよりだ。


「勇者ルドミラが島に来るかもしれない。でも、俺はボロディンへ行くから、万が一入れ違ったら対応して欲しい」

「分かりました。その時はお任せください」



 情報共有が終わったところで、飯となった。今夜は、久しぶりのイノシシ肉とラズベリーパーティとなった。そういえば、食糧確保も進んでないなぁ。


 それにしても、なんだか最初の頃を思い出す食材だな。


 すっかり調子を取り戻したスコルが調理してくれて、お皿に良い焼き加減の肉と瑞々みずみずしいラズベリーが盛り付けられていた。


「そろそろイノシシも倒さないとな」

「そうですね、お肉の在庫ももうありませんから」


 こう住人が多くなると食糧難に陥りやすくなったな。いくらストレルカからの支援物資もあるとはいえ、頼ってばかりも悪い。旅立つ前に食糧を溜め込んでおこう。少なくとも、アルフレッドとエドゥが残るわけだから。



 ◆



 塩胡椒の利いたイノシシ肉をゆっくりと味わい――完食。やはり、調味料があると香りや風味も段違いだ。しかも、スコルの料理スキルはシェフ並み。素晴らしい腕前だ。


 食事を終えた所で、俺は手を鳴らす。スコル、ハヴァマール、アルフレッド、そしてエドゥが俺に注目する。


「みんな、聞いてくれ。明日は一日通常通り過して、明後日にはボロディンへ向かう。それでいいかな」


 元気よくスコルは手を挙げ「わたしは賛成です」と言った。続いてハヴァマールも。それからアルフレッドとエドゥも呆気ない程に同意してくれた。


「明日は、余も付き合おう」

「おぉ、助かるよ。そろそろ『糸』の作成とかしたかったんだ」

「尚更だな。じゃあ、決定で」


 ご機嫌なハヴァマールは、嬉しそうに猫耳を動かしていた。……あれ、動くんだ。


「私もラスティ様に貢献こうけんしたいのであります。なので、明日は食糧確保へ参りたい次第なのです」

「それは助かるよ。それじゃあ、アルフレッドに一任する」


「ありがたきお言葉。セーフリームニルを狩りつくしてご覧に入れましょう」

「いや、狩りつくすな! ほどほどにな!」



 狩りつくしたら絶滅しちゃうじゃないか。さて、後はエドゥだが。



「エドゥ、例のマッピングをするのか?」

「そうですね。この島はまだ未知が多いですから」



 ――と、エドゥは、ハヴァマールを意味有り気に見つめた。見つめられたハヴァマールは困惑というか焦っていた。


 そういえば、二人とも初対面っぽいな。聖魔伝説では、ハヴァマールは魔王側。エドゥアルドは勇者側として認知されている。つまり、敵対関係のはずだが……そんな憎しみ合うような感じもなければ、少し警戒している程度。



 ……ふむ、明日になったらハヴァマールに聞いてみるか。

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