勝利の余韻と大賢者の条件

「エドゥアルド……本当にあの大賢者なのか」

「ええ、間違いなく。今は詳しくお話できませんが、これからお力になりますよ」


「マジか……」

「ええ、マジです」


 すげぇ真剣な眼差し!

 冗談を言っている顔ではないな。

 とはいえ、なかなか表情の変化に乏しいので真意が読み取れないけど。ひとまず、敵意はなさそうだ。



 話し合っていると、林の方から皆が駆けつけてきた。



「ラスティさん! とても心配しました」


 一番早く抱きついてくるスコル。これはオッケー。



「兄上ぇ……よくぞ生きていた!」


 なぜかハヴァマールも抱きついてくる。可愛いので、まあいいか。



「ラスティ様ぁん! あの第一皇子に勝ててしまうなんて!」


 ストレルカ! 君もか……。でも、褒めてくれて嬉しい。



「ぼっちゃん、さすがですぞぉ……!! ぬおおおおお……!!」


 最後に大泣きで背中から抱きついてくるアルフレッド。鼻水が垂れてやがる!! うわ、ヤメロォ!!




「み、みんな! 重いって!」




 ああもう、しっちゃかめっちゃかだ。身動きが出来ないし、困ったなぁ。とにかく、エドゥアルドを迎えるべきか話し合わなくちゃ。



「自分の事はおかまいなく。その間に、ドヴォルザーク帝国の戦艦には帰って貰いますから」



 急にテレポートして姿を消すエドゥアルド。なんだか掴みどころがないっていうか、本当に不思議な女の子だ。


 海に浮かぶ戦艦を見守っていると、いきなり引き返し始めた。……帰った。本当に帰ってしまった。恐らく、あのエドゥアルドが命令を下したのだろう。副団長だから、それくらいの権限はあるわけだ。という事は今回、騎士団長は不在か。



 しばらくしてエドゥアルドが帰還した。

 テレポート、便利だなあ。


「おかえりっと」

「話は終わりましたか?」

「いやぁ、ご覧の通り。まだくっ付かれていてね。とりあえず、家へ行かないか」

「家……ですか。この島には家があるのですか」

「ああ、俺が作った。招待するよ」

「よろしくお願いします」



 ようやく動けそうだな。



 ◆



 家へ帰り、広々としたリビングへ。

 俺、スコル、アルフレッド、ハヴァマール、ストレルカ……そして、エドゥアルドと大所帯となったが、まだ余裕がある。


 家も改造済みで部屋も増えたし、住人が増えた所で問題はない。



「エドゥアルドさんと言うのですね」

「はい。貴女は、エルフの国ボロディンの聖女スコル・ズロニツェ様ではありませんか。こんな場所でお会いできるとは光栄の極みです」


「い、いえ……わたしなんてたいした事ないですから」

「聖女でしょう? そんなはずはないのですが……むぅ」



 エドゥアルドは、顔を近づけスコルの瞳を見つめた。うわ、なんか距離が近いし……微妙に艶めかしいのは何だ。



「え、あ……あの?」



 当然ながら、スコルは困惑。

 焦って俺に助けを求めてくるが、そう視線を向けられてもなあ。害があるわけでもないし。



「なるほど、聖女スコル・ズロニツェ様……どうやら、大神官アルミダ様から“制限”を受けているようですね。だから、大魔法を覚えられない」


「え……どうしてそれを?」

「自分は、大賢者ですからね。その制限を取っ払う事も可能ですが」

「ほ、本当ですか! お願いします。わたし、強くなりたいんです!」


「では、等価交換としてラスティ様を自分にください」


「へ……」


 唐突な条件に、スコルは石化する。

 しかも、じわじわと涙目になってるし、おいおい!


「やはり、ダメですよね。ごめんなさい、冗談です」

「……よ、良かった。それだけはイヤです!」


「では、一日だけ貸していただけませんか。それだけで十分です」

「い、一日ですか。う~ん……それなら、分かりました」



 最後まで悩ましかったようだが、妥協したようだな。てか、スコルが大魔法を覚えられるようになる!? それって、凄い戦力になるぞ。支援職は、高位レベルにならないと大魔法はそう扱えない。


 使えるようになれば、今後、自分の身を自分で守れるようになる。それに、ダンジョンなどの攻略も楽になるだろう。


 エドゥアルドの目的がよく分からないけど、味方なのは分かった。これはターニングポイントとなりそうだな。

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