一撃必殺の聖槍

 冷静に押し返そうとしたが、ゲイルチュールが吹っ飛ぶ。遠くの地面に落ち、今は回収が難しい……クソッ!


 やべぇなとあせっていると、ハヴァマールがなぜか『聖槍・グングニル』を俺に手渡してきた。



「ほい、兄上」

「って、お前が投げるんじゃないのか!!」

「いやいや、戦うのは兄上だ。余はサポートするだけ」

「なんだそりゃ!!」



 まさかの俺任せかよ。

 ええい、仕方ない。

 無駄に光る槍を手に取る。

 重量感はなく、かなり軽い。



「がんばれ! 兄上なら、あのエクスキューショナーを倒せるのだ!」

「応援ありがとう、我が妹よ!」



 俺は、聖槍を投げつけた。

 超高速で飛翔する槍は、瞬間でエクスキューショナーの体に命中。凄まじい閃光が広がり、敵を瞬殺した。


 ――って、まて、なんだこの高火力。ありえねー! 一撃必殺かよ!



「やったな、兄上」



 サムズアップして褒め称えてくれるが……俺はなんだか釈然としなかった。いやでも、勝てて良かったけどさ。ドロップ品として『剣(未鑑定)』を手に入れた。どうせ鑑定できないので、今のところは倉庫送りだな。


 そういえば、他の未鑑定アイテムも放置したままだ。何とかしたいけどなぁ。



「力を貸してありがとな、ハヴァマール」

「いやいや、妹として当然の事したまでで」

「でもさ、自分で投げろよ!」

「余は戦闘タイプではないのだ」

「じゃあ、何なんだよ」


「う~ん、職業ジョブで例えるなら『ソーサラー』かな」



 つまり、魔法使いか。

 確かに槍は魔法で生成されたものだ。それに、俺の知識だがソーサラーは、そういう補助的な魔法が扱えるのだという。でも、人任せだなんてなぁ。……まあいいか。


 ゲイルチュールを回収し、担ぐ。



「兄上、兄上。この辺りの岩なら、鉄鉱石が採れるかも」

「本当か。よし、試してみるか」



 少し離れた場所に岩があった。

 そこを削ってみる事にした。

 どれどれ……と。



 ガンガンと“穂先ピック”を打ちつけ、岩を削っていく。すると『石』ばかり回収されたが……お? 稀にだが『鉄鉱石』が入手できぞ。



 鉄鉱石×3



 少量をゲット。なるほど、低確率で出てくるらしい。洞窟内の岩は山ほどある、どんどん掘っていくか。



 ◆



「お疲れ、兄上。もう休憩にしよう」


 あれから、ずっと集中して掘りまくった。ハヴァマールには重量オーバーとなった『石』を任せ、荷物持ちポーターをしてもらった。だから、ほとんど見守っていたな。


 腹の具合からして、もう夜も遅い。何か食いたい気分だ。一度帰宅して、明日にしよう。



「今日はこんなモンだろ」

「鉄鉱石が86個。これだけあれば『鉄』を作れる」



 結構頑張ったつもりだったが、鉄鉱石はそれだけだった。石の方が1221個と凄い数になった。この分ならしばらくは石集めはしなくて良いかもしれない。



 洞窟の外は、もう満天の星空。

 流れ星があんなに……願い事叶うかな。



「兄上……疲れたのだ」

「おいおい、ハヴァマール。お前はほとんど立っていただけじゃないか」

「あ、あんまり遠出した事がないから……」

「そうか。じゃあ、おんぶしてやる」

「お、おんぶ?」



 俺はハヴァマールの目の前に腰を下ろす。上に乗れと指示した。おそるおそるハヴァマールは密着。俺はそのまま持ち上げた。



「ほいっと」

「うわ……兄上」

「お前、軽いなぁ」


 あまりの軽さに驚いていると、背中のハヴァマールは妙に大人しかった。いつもの威勢はどこにいったんだかな。


「兄上……。あのね、余の本当の名ケニングは“真実のもサズの”なのだ。そう呼んでくれると……嬉しい」


「そうなのか。でもなあ、ハヴァマールはハヴァマールだろ。今更変えられないよ」

「えー…。じゃあ、いつか必ず呼んでね」

「お前、たまにキャラが崩れるな」

「う、うるさいのだ!」


 バタバタと暴れ、ハヴァマールを落としそうになる。危ないな~。けどまあ、本当の名前があったとはな。“サズ”か、そっちの方が女の子らしいな。そうだな、いつか呼んでやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る