あなた・桜・涙
満開の桜が並ぶ丘に女性が1人。
艷やかな髪、細くすらっとした体のライン、目は冬の空の様に映る者全てを吸い込んでしまいそうな程深くて。
桜が散る時の様に切なく、けれど桜より少女で儚かった。
彼女は今にも消えてしまいそうな笑顔で桜を見つめていると、ざあと風が吹いた。
はらはらと丘中の桜から花びらが舞っていく。
一面の桜吹雪——。
綺麗。本当に綺麗だ。
「ここの桜はいつも綺麗ね、姉さん」
彼女が振り返り、言う。
「えぇ、そうね。あなたととても合っているわ」
「……ありがとう、姉さん」
彼女——妹は、少し悲しそうな顔で言った。
「私ね、皆に言われるの。花のように綺麗だって」
彼女は一番近くにある桜の木に近づいていく。
「でも花って、綺麗なのは咲いている一瞬だけでしょう?」
桜の枝から蜘蛛が一匹、糸を垂らしてぶらぶらと風に揺れていた。
「咲いてもすぐに花は散って、枯れる」
妹は蜘蛛の糸に手を伸ばし、引きちぎった。
「私ね、私も自分のこの顔や身体はとても綺麗だと思っているわ。恵まれたと、感謝してる」
地面に落ちた蜘蛛を、ぶち、と踏み潰した。
「でもきっと、この美しさも今だけなの。すぐに年老いて、枯れるわ」
彼女は怒っているのだろうか。蜘蛛は執拗に踏みにじられていく。
「嫌なんです。枯れるのが。ずっと綺麗でいたい。でもそれは無理ってわかってるんです」
ぴたっと、踏みにじるのをやめた。
「だから私、綺麗なままで死にたいんです。そうしたら、私は永遠に綺麗でいられるから」
彼女は満面の笑みで私を見た。その笑顔は優しさと希望に満ち溢れていた。
「姉さんなら、わかってくれますよね」
わからないわ。私はあなたと違って、何もかもキレイじゃないから。
次の日、彼女は死んだ。
練炭自殺だった。
もう死んだと思えない程に、彼女はいつも通り綺麗だった。
私は彼女の死体を台車に乗せ、あの丘へと運び出す。
昨日、彼女が蜘蛛を踏み潰した桜の木の下に、穴を掘る。
全く、死ぬ前に自分が入る穴ぐらい用意しておいてほしかった。まぁ、彼女はとても小柄だし、ここは私たち以外は誰も知らない、秘密の場所だもの。多少浅くても文句はないでしょう。
ざくざく掘り終えて、彼女を穴に落とす。せっかく掘り出した土を、また穴に戻していく。どんどん彼女は見えなくなっていった。
本当にこれで良かったんだろうか。
彼女が手伝って欲しいと言うから、私はこうして彼女を埋めたのだけれど。花は枯れても、また生まれ綺麗な花を咲かす。桜だって、一度散ったら終わりじゃないのにね。
まぁ、彼女はもういないから今更何を言っても意味はないわ。
さようなら。
どうぞ永遠に綺麗なままで。
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友達に貰ったお題。
人が死んだからボツになりやした……。
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