いつか小説になるモノ
彼岸キョウカ
彼女との、最後の夜
「手に入らないのなら、いっそのこと、殺してしまいたかった」
ぽつり、と、彼女は嘆いた。
彼女は容姿端麗で、運動も、勉強も、何事も器用に人並み以上にこなすタイプだった。そんな彼女が、殺してしまいたいほど手にいれられなかったナニカが何なのか、あたしはこれっぽっちもわからなかった。
「あなたはこれ以上何を望むのよ?」
あたしが問いかけると、キッとあたしを睨み、手にしていた缶ビールをごくりと飲みほす。
「そういえば、私とあんたは、ずっと一緒にいたけど、友達ってほどじゃないよね」
彼女は酒にとても強いわけでも、弱いわけでもなかった。ほんのり頬が朱に染まっている。
「そうかもね」
彼女とは小学校高学年からの付き合いで、もうその付き合いは十数年になる。
「私はあんたのこと恨んでるけど、一緒にいて嫌じゃなかったわ」
彼女に恨まれることなど、身に覚えがなかった。
いつも彼女は持ち前の明るさと器用さで、クラスの誰からも好かれていたけど、あたしは人と関わるのが苦手なので、いつも教室では本を読んでいただけなのだ。
「あたしはあなたの、皆に好かれているのに少しも自分を見せない所、好きよ」
彼女はいつも誰かと喋って明るく笑っていたけど、その笑顔はどこか空っぽに見えて。切なさと儚さが入り混じった彼女の雰囲気が、触れたら壊れてしまいそうな線の細さが、あたしは好きだった。
「…………」
否定も肯定もせず、あたしをただ見つめる。
「でも、」
「??」
「手に入らないのなら、いっそのこと、殺してほしかった、かな」
あたしの言葉の意味がわからず、2、3秒目をパチクリさせてから、「あっはははははっ」と、急に笑い出した。
「そうねぇ、殺してほしかった、わね」
新しい缶ビールを手にし、ちびちびとビールを飲みながら、ここではない、どこか遠い所を見つめる彼女の横顔が、たまらなく、綺麗だった。
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