10.俺の魔術道

 俺が自作した魔剣の総数は、覚えている限りで一二六本。

 実際に作成したのはこの三倍はある。

 ただ、成功したのがこれだけで、他は魔剣とは呼べない失敗作ばかりだった。

 既存の術式を付与するだけでも一苦労。

 新しく開発した固有術式を付与しようと思ったら、難易度はさらに跳ね上がる。


 俺が挑戦して、失敗した魔剣のうち七割以上は固有術式の付与。


 数百を超える失敗の果てに成功した七本は、俺が独自に開発した固有術式を付与されている。

 つまり、この世に二つとない魔剣。

 

「【千変】、これが俺にだけ許された固有魔剣。そのうちの一振りだ」

「固有……魔剣だと? なんだそれは」

「聞いたことないって? それはそうだろうね。だって固有魔剣なんて名称は俺が勝手に呼んでるだけだし。わざわざ固有魔術を剣に付与しようなんて奴がいないから、試したのも俺くらいじゃないかな?」


 ただでさえ生み出すことが難しい固有魔術。

 それを、さらに難易度が高い魔剣に使うなんて効率が悪すぎる。

 俺みたいに術式に適応がない人しか、考えることすらない方法だろうね。


「作るのに苦労したんだ。まぁ、言っても理解してもらえないだろうけど」

「さっきから何だ? ブツブツと……その魔剣は一体なんなんだ! どういう能力だ!」


 ネハンは汗を流しながら叫び問う。

 目の前に理解できない代物があって、切っ先が自身に向けられている。

 恐怖を感じている表情だ。


「あれ? まだわからないのか?」

「いいから答えろ!」


 彼は声を荒げる。

 俺は大きくため息をこぼし、飽きれ顔でぼそりと呟く。


「答えろって言われて答えるのもおかしな話だが……まぁいいか。知った所で関係ない。良いよ特別だ。教えてあげよう。この魔剣の能力は、一言で表すなら……そうだな。あらゆる事象に対応することだ」

「……は?」


 ネハンの反応を見る限り、どうやら理解できなかったようだ。

 少し抽象的過ぎたか。

 のんびり説明するのも時間がもったいないんだが、取り巻きの四人も動く気配はないし、まだ大丈夫だろう。


「火を消すには水、氷を溶かすには炎、風を防ぐなら厚い壁。あらゆる状況に対応できるのが、魔術の良い所だ。それと同じように、この魔剣は自由自在に姿と力を変化させるんだよ」

「なん……だと……?」

「さすがに理解できたか? どんな攻撃にも、どんな防御にも、どんな手段にも対応して形を変える。故に千変と名付けた」

「そんな力……ありえない。自在に力を、姿を変える? そんなの……無敵じゃないか!」


 激昂するネハン。

 その声はここ一番に大きく響く。

 彼だけではなく、取り巻きも動揺を隠せない。

 後ろにいるから顔は見えないけど、ハツネも驚いているかな?


「無敵……か。その通りだよ」

「くっ」


 俺が一歩踏み出すと、彼は怯えて一歩下がる。

 能力に驚き、恐怖し、身体が負けを認めてしまったか。

 無敵とは言ったものの、実際はそんなことはない。

 対応できるのは一つの事象までだから、同時に複数の異なる攻撃を加えられたら、全てには対応できない。

 もっともそこまで教える義理もなし。


「く、くそ!」

「お前は言ったよな? 術式が使えず、魔剣を使うだけの俺は魔術師じゃない」


 彼は恐怖しながら後ずさり、次へ次へ攻撃を放つ。

 炎を放つなら、千変は水を放つ。


「俺もそう思う。ただ魔剣を使うだけなら、それは剣士の延長線上だ」

「くそっ、来るな!」


 雷には大地の壁を、風邪の刃は同じく風の刃をぶつける。

 あらゆる攻撃に一つずつ、丁寧に対応していく。


「魔術は自由で、魔術師も自由でなければならない。だから俺も、そうなれる方法を模索した。その結論がこれだ」

「なぜだ……なぜなんだ? お前は落ちこぼれなのに」

「そうだな。俺は落ちこぼれだよ。でも、そんな俺でも……自由自在に魔術を使う方法が見つかったんだ」


 まぁ、そうは言っても意見は分かれるだろう。

 どれだけ凄い能力を開発しても、結局は魔剣なしじゃ魔術が使えない。

 その事実だけはぬぐえない。

 だからこそ示すんだ。

 俺自身の手で、俺の力を世界に知らしめよう。


「この世の全ての術式を魔剣に変えて、俺が自在に使いこなしてみせよう! あらゆる魔剣を生み出して、この世の誰より自由に魔術を使ってやる!」

「そんなこと……出来るわけがない!」


 すでに剣が届く距離。

 彼は苦し紛れに氷の壁で身を護る。

 そんな柔い壁なら、拳一つで簡単に壊せるよ。

 千変はガントレットに変化し、握った拳で壁を破壊する。


「それを証明するために戻ってきたんだ!」

「なっ……」

「よく見ていろよ。俺が、才能のなかった俺が誰より自由な魔術師になってみせる。俺にしか出来ないやり方で、必ずそこへたどり着く」

「ふざけ――」


 魔剣を装備していない左手を握り、思いっきり彼の顔面を殴り飛ばす。

 彼に対して、というより全てに対しての宣戦布告だ。


「険しくても辛くても関係ない! これが俺の選んだ道だ! 他の誰にも真似できない……俺だけが進める魔術道だ!」


 見せつけてやるんだ。

 世界に、人々に。

 魔術師の才能がなくても、他の方法で補うことは出来るのだと。

 可能性は途切れないのだ。


 諦めない心さえあれば――


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