7.試験開始
試験は午前と午後、筆記と実技の二部構成。
午前中に開催される筆記試験はそこまで難易度は高くない。
魔術師にとっては常識といえる知識の確認だ。
真面目に勉強しているかどうか。
それを確かめふるいにかけるのが筆記試験の目的とされている。
だから筆記は通って当たり前。
合否の決め手となるのは、午後から開始される実技試験だ。
午前の筆記試験が終わり、会場からぞろぞろと受験者が退出していく。
俺とハツネは隣の席で、終わった途端氷が解けるようにだらーんと崩れるハツネがいた。
「ふぁー、終わったー」
「お疲れさま。どうだった?」
「もちろんバッチリだよ!」
一応聞いてみたら、ハツネからブイサインが返ってきた。
俺も難なく問題を解くことが出来たし、真面目に魔術師を目指している者なら当然のこと。
聞くだけ野暮だったな。
「さて、昼の試験開始まで時間があるけど、ハツネはどうする?」
「うーん、お弁当はあるしどこかで食べようかな。グレイス君は?」
「俺も作ってきたよ」
「じゃあ一緒に食べようよ!」
「ああ」
俺たちは一緒に部屋を出て行く。
ついさっき出会ったばかりなのに、彼女と話していると妙に落ち着く。
同じ外からの受験者だからか。
それとも他に理由があるのか。
自分ではわからないまま、なんとなくで一緒にいることを選んでいた。
学園の建物を出て、庭にある木々の片隅で腰を下ろす。
人通りも少なく、他に人の気配はない。
ゆっくりできる場所を見つけて、お互いにお弁当を広げる。
「グレイス君って料理できるんだ」
「まぁね。俺の師匠はそういうの苦手だから、俺がやらないといけなくて」
「お師匠さんがいるの? 良いな~ 私は周りに魔術が使える人がいなくて、全部一人で勉強しなくちゃいけなかったよ」
「俺もそうだよ。師匠っていっても魔術の師匠じゃないからね」
「そうなんだ?」
「ああ」
それでも師匠のお陰で学べたことは多い。
最初こそ苛立ちもあったけど、今は感謝しかしていない。
「そういえば気になってたんだが、ハツネはどうして魔術師になりたいんだ?」
「え? 私? うーん、そんなに凄い理由じゃないけど、知りたい?」
「まぁ気になるかな」
なんとなく、聞いてみただけ。
それでも一度口にしたら、答えを聞きたいと思ってしまった。
彼女は恥ずかしそうに話し出す。
「えっとね~ 私の家ってとっても貧乏なんだ。弟と妹がいて、お父さんが早くに死んじゃったからお母さんが一人で頑張ってて……毎日仕事してた。それでも生活はギリギリで、お母さんはいつも辛そうで」
語りながら優しい目をする彼女を、俺はじっと見守る。
「だから、私もお手伝いしたいって思ったんだ! 魔術師になれたら仕事が受けられるし、お金もいっぱい入るでしょ? そんな理由だよ」
「……凄く良い理由じゃないか」
「そ、そうかな? 結局はお金のため、なんだけど」
「それも家族を守りたいからだろ? 立派な理由だ。少なくとも……俺の理由よりずっと」
家族のために努力して、家族を守る為に魔術師を目指す。
なんて優しくて温かい理由なんだ。
「グレイス君は?」
「俺は……」
彼女の後に話すのが恥ずかしくて、俺は空を何気なく見上げる。
尋ねられたからには答えなくては。
そう思って、呼吸を一回。
「見返したいんだ。俺には才能がなくて、期待されなくて、見放された……それでも魔術師になりたくて、家を飛び出して師匠の所に弟子入りしたんだ」
「家を……」
「俺は自分のために魔術師を目指してる。理由だけで言ったら、本当にくだらないよ」
俺はどこまでも自分のため。
最初は憧れだけだった。
絶望して、後悔して、それでも諦められなくて。
見限られてもどうにかしようと足掻いた。
才能がなくたって魔術師になれると証明したい。
俺はここにいると、あの人たちに知らしめたいんだ。
ほら、自分のことしか考えていないんだ。
「私も同じだよ」
「え、いや違うだろ? 君は家族のためじゃないか」
「ううん、半分は自分のためだから。私は……」
何か言いたげに、意味ありげに沈黙を生み出す。
彼女が語った理由以外にも、他の理由があるのだろうか。
「ハツネ?」
「なんでもない。そろそろ午後の試験が始まるね!」
「あ、ああ、そうだな」
もうそんな時間になっていたのか。
話に夢中で気付かなかった。
俺より先にハツネが立ち上がり、パンパンとお尻についた草を払う。
「行こう! ここからが本番だよ!」
「ああ」
理由の続きは気になったが、彼女の言う通りだ。
ここからが試験本番、気合いを入れよう。
◇◇◇
午後の実技試験、その内容はポイント争奪戦。
学園内にある疑似訓練場は、空間だけでなく生物も生み出す特殊な魔導具を用いている。
仮想の魔物を訓練場内に放ち、受験者はそれらを討伐してポイント集める。
ポイントは受験者が装備するブレスレットで管理され、魔物を倒すとポイントが自動的に加算される。
受験者が受験者を倒すと、相手のポイントをそのまま奪うことが出来る。
ブレスレットは微弱に魔力を吸収し続ける仕組みで、もし魔力切れになったら失格。
ブレスレットを破壊されたり、気絶しても失格となる。
終了条件は、失格者が七割を超えるまで。
それまで戦い続け、生き残らなければならない。
「それ以外にルールはない。協力、妨害は不正にはならない。相手を殺さない限り何をしてもいい」
「とにかく最後まで生き残れってことだね」
「ああ」
最後のルール確認を終えた時、開始のベルが鳴り響く。
「さぁ、運命が決まる時間だ」
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