6.田舎者の扱い
男たちが去ったことを確認して、俺は腰に剣を戻す。
予定外の戦闘、しかも相手はよわよわだったが、一先ずちゃんと自分の身体が動いてくれることは確認できた。
自信の成長を肌で感じながら、何事もなく終えたことにホッとする。
すると後ろから、申し訳なさそうに女の子が話しかけてくる。
「あの……ありがとうございました」
「え、ああ」
戦闘で気が高ぶった所為か、彼女のことを忘れてしまっていた。
元は彼女を助けるために身体が動いたんだっけ?
自分でも無意識で、正直驚いた。
俺は案外、正義感の強い人間だったようだ。
「気にしないで良いよ。俺が勝手に割り込んで邪魔しただけだから」
「いえ、助けてもらって嬉しかったです」
彼女はニコリと微笑む。
改めて見ると、青い瞳がキラキラ輝いていて、肌も白くやわらかそうで。
遠目に見たら男の子っぽい見た目なのに、こうして近づくと見間違えることなんてないくらい女の子だ。
今さらながら、女の子と話すのは久しぶりなことを思い出す。
そう思ったら緊張して、変にドキドキしてきた。
「あ、えっと、道に迷ってるんだっけ? どこに行きたいの?」
「王立魔術学園です」
「学園に? もしかして君も試験に?」
「はい。君もって……」
どんな偶然か、俺たちは同じ目的で王都に訪れていたようだ。
目的地が同じなら一緒に行かないか?
と提案して、彼女もそれが良いと了承した。
俺たちは路地を並んで進む。
「私はハツネ、西のほうにあるクロタマ村から来ました!」
「俺はグレイス。クロタマ村ってかなり遠いよね? そんな場所からわざわざ試験を受けに来たんだ」
「はい! 私も魔術師になりたくて。グレイスさんもですよね?」
「グレイスで良いよ。同じ歳だし、敬語もいらない」
俺がそう言うと、ハツネはホッとしたほうな顔を見せる。
「ありがとう。実は敬語って苦手で」
「はははっ、俺もあんまり好きじゃないんだ」
「そうだったんだ。グレイス君も外から来た人なの?」
「うーん、まぁそうだね。俺はブロッケンからだよ」
本当は王都出身で、除名されてなければ今も貴族の一人なんだけど。
別に話す必要はないから黙っておこう。
「そうなんだ~ でも良かったよ。このままじゃ学園にたどり着けない所だったから」
「俺は驚いたよ。知らない男の人に平気で声をかけてることもだけど、俺以外の外からの受験者に出会えるなんてレアだ」
「え? そうなの? 外から来る人も多いんじゃなくて?」
「そうでもないよ。受験資格は誰にでもあるけど、誰でも気軽になれるわけじゃない。特によそ者とか庶民は白い目で見られるんだ」
魔術師はこれから国を支える者たち。
学園に入学出来た者たちは等しく、成功の将来を約束される。
故にエリートが集まる場所とされ、貴族や時には王族も試験を受けに来る。
「歴史ある学園だからね。制度上、学園内では身分格差はないのだけど、どうしても貴族のほうが優遇されるんだ」
「そ、そうなんだ……」
「ああ。だから覚悟はしておいたほうがいいよ。試験はもちろん、入学できても当たりは強いから」
それを知っている者は試験を受けたがらない。
よほど魔術師に対して強い憧れでもない限り、三年間も耐えられないから。
「……それでも私は、魔術師になりたい」
「そっか」
どうやら彼女には、不要な気遣いだったようだ。
理由は知らないけど彼女にも、魔術師になりたい強い意志が感じられる。
「俺もだよ」
偶然で気まぐれでしかなかったけど、案外良い出会いだったのかもしれない。
そう感じながら、二人で並んで学園を目指す。
◇◇◇
受付開始時刻ピッタリ。
俺とハツネは学園の入り口に到着した。
「ここが……ソロモン?」
「ああ」
初めて見る人は驚くだろう。
王都の街並みは華やかで明るくて、色で言えば白い。
対して魔術学園は黒。
建物の色合いは暗く、言ってしまえば地味だ。
引き込まれそうな怪しさすら感じる。
なまじ建物が王城とかわらないくらい大きくて、敷地も広いから余計にだろう。
「入ろうか」
「う、うん」
門をくぐり、受付の会場へと足を運ぶ。
他にも受験者たちがゾロゾロ集まっていて、自然と流れが出来る。
そこに俺たちも加わって、受付まで足を運んだ。
会場に入ると長蛇の列が出来ている。
「す、すごい人だね」
「だな。毎年万を超える受験者が来るって話だ」
「そんなに……受付も時間がかかりそうだね」
「いや? 俺たちはそうでもない」
なぜなら、と俺は指をさす。
受付の中に一か所だけ、列も出来てない窓口がある。
端っこの席にこじんまりと。
「王都に住んる人以外はあそこが受付だ」
「え?」
「言っただろ? 外から来る人間の扱いは酷いんだ」
受験前から格差がある。
俺たちが窓口に向かうと、それを見ていた人たちから声が聞こえてくる。
「お、外からの受験者だぜ?」
「二人一緒なんて仲が良いのね~ 田舎者同士気が合うのかしら?」
「遠路はるばる不合格通知を貰いに来るなんて、物好きな人たち」
事情も何も知らない癖に、言われたい放題だ。
知っていたとは言え、気分が良いことじゃないな。
「こんなに酷いんだ……」
「ああ。でも、試験そのものは公平だ。ここで試されるのは魔術師としての素養、力だけ。立場や権力なんて関係ない。だから、見せつけてやろうよ俺たちでさ」
「グレイス君?」
「生まれも才能も関係ない。俺たちが誰よりも魔術師だってことを、この試験で証明してやろう!」
そうだ。
俺はこの日のために、このために努力してきた。
ヘイトが高い方が有難い。
もっと俺を見ていろ。
恵まれたやつらなんかに負けないくらい、俺が魔術師らしく戦う所を。
「なりたいんだろ? 魔術師に」
「うん!」
なら、やることは同じだ。
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