第2話 公務員

 市役所に就職したのは、地元に恩返しをするため、なんていう胸を張って言えるような動機があったわけではなかった。就職活動をするのが面倒くさく、その必要のない就職先という消去法で選んだのが市役所だった。

 市役所に入るには試験に受かる必要があったが、試験勉強はあまり苦ではなかった。

 

 立派な志を持って市役所に就職したわけではなかったけれど、敬太郎は生活に必要なお金を稼ぐために、人並み以上に仕事をこなした。敬太郎はやると決めたらとことんやる性格で、任された仕事には妥協をよしとせず、自らの納得がいくまで取り組んだ。社会ってこんなものなのか、それともこの組織がおかしいのか、と思うような理不尽さや、組織内にはびこる事なかれ主義に反発を感じながらも。

 敬太郎は、市役所内では“できる職員”という評価を得ていたが、敬太郎の心は仕事では満たされなかった。表面的な充実感や達成感はあっても、真のそれらを感じることはなかったからだ。それでも仕事は続けた。妻や娘たちがいる家庭を養うために。

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