そして、イスタンブール
塚本タカヲ
第1話 “小説家”
小説を初めて書いたのは、四十代半ばになってからだった。
事前に書き方を学んだわけではなく、ただ思うがままに自己流で書いてみた。自己表現の方法として。
敬太郎は40歳を過ぎてから“小説家”になった。小説の中の世界は自由で、何でも自分の思いどおりに動かせるところが魅力的だった。
現実の世界で自分の思いどおりになることなんて、本当の意味であるのだろうか。現実の世界は、不平等で、理不尽だ。
敬太郎は小説と出会うまで、お笑い芸人を目指すも下積み生活が長く、バイトで食いつないで暮らしていた、などという日陰の生活を送っていたわけではない。大学を卒業してすぐに地元の市役所に入って20年以上が経つ中堅の地方公務員だ。
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