オマケ~新年は続いていたよ~

 ワシ、長月ながつきの母親は……いや、我が家は代々、有角ゆうかく族の者から母をもらう習わしになっている。もし、有角族として産まれれば、そちらの里へ。角が出なければ、ワシのように人の里で暮らすという習わしだ。しかし、今どき人間の間でも異種族交流が進んでいるというのに、有角族のほうはまだ古い考えの者が多い。


 それはそうと、母上の笑いはさすがに目に余る。

 今須います殿が来ていたというのに、家中に響きたるような笑い声は、なんとかしてほしい。

 仮にもお寺の裏屋敷。

 まだ松がとれる前だというのに、客が来るかもしれないというのに恥ずかしい。

 父は住職として、檀家を回っているときで忙しいときだ。お手伝いさん達も、年末年始の忙しさが一段落して今は家にいない。


 それが油断しているのか、大声で笑うなんて。恥ずかしい。


 今須殿は疑っていたであろうな。母がいわゆる鬼であることを――。

 それに節分の話の丁度いいタイミングで、高笑いしていたのだから。


『来年のことを言えば鬼が笑う』


 何てことを真に受けられては、有角族の血が流れる神としてのワシの品格も疑われてしまう。

 確かに、旧暦の正月は節分だ。

 今の元旦は太陽暦に合わせて無理矢理変わった事は歪めない。


「人間達が勝手に暦を変えた! 由々しき事態だ!!」


 大昔、日本の神達が騒いだことがあったが、一番上が、


「今までの暦が面倒くさかったからいいじゃない。ちゃんと1年は12月に固定されるし、何年かに一度の数日しかない閏月に、1ヶ月分余分に配給しなくてもいいんでしょ」


 と、鶴の一言であっさりと太陽暦を採用してしまったそうだ。


 それはそうと、母の笑いの原因は台所だ。


「母上! もう少し声を慎んで下さい!」


 母上は割烹着姿で、ヘッドホンを付けて小さなテレビを見ていた。

 テレビの音は洩れないように配慮はしているが、自分の笑い声は止められなかったようだ。


「だって面白いのよ!」


 母上はお笑い好きだ。

 年末年始にやっていた漫才やコント、落語などをため込んでいた。

 そして、手がようやく空いた日に一気に見ていただけ。


『鬼はやっぱり来年のことで笑うんだ』


 と、今須殿に勘違いされなければ―― 

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年明けこそ鬼が笑う~ここでは禁句? 大月クマ @smurakam1978

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