十四.教会に行ってきます
初めは面倒臭そうに付いて来ては、嬉々と雑草を採取していたジャンヴィエだが、ある日を境に変わった。
いつもは私が準備を終えてから、たたき起こして連れて行かなければならないくらいやる気がなかったのだが、最近は私が朝食を食べている最中に遅いと
きっかけはエスト地区で見つけた
図鑑にすら載っていない雑草を見つけたジャンヴィエは、興奮して騒いだのだ。
だが、この少年を知っている人からすればドン引きものだ。
アヴリルの引っ込み思案に
五歳の誕生日に、母親から貰った人形を屋敷内の人間に自慢して歩くくらいには、アヴリルは明るい少女だった。
だが、それをジャンヴィエに自慢したところ、大きなため息とともに、冷たい視線をアヴリルに向けたのだ。
ーー良い年をして、人前で騒ぎ立てるなど恥ずかしい
ーーそんな役に立たない物を持って何が嬉しいのだ??
ーーそれがアヴリルに似ているって周りのやつらが言ってるだと??……それは役に立たないところがということか??
ジャンヴィエはそう言ったのだ。
そのせいで、アヴリルはショックを受けて引きこもりがちになってしまったのだ。
小説では書かれていなかったが、ゲームではジャンヴィエの幼少期の話が追加されていたのだ。
幼い頃にアヴリルを傷つけてしまったのが心残りだったと、ジャンヴィエが主人公に話をするシーンがあった。
推しじゃなかったせいだろう
……だからなんだよ
って思っていたが、ファンからしたら心の内を話してくれて嬉しいと思うのかもしれない。
ゲームでは軽くしか話は出ていなかった。
なぜ、私がその話を詳しく知っているかというと、夢に見たからだ。
夢なら現実ではないと思うだろう。
だが、私は本人に確認したから間違いない。
アヴリルの悲痛な
まるで少女のような可愛らしい寝息を立てるジャンヴィエを揺らして起こした。
寝ぼけたままの状態で、はいかいいえで答えさせたのだ。
覚えていないかと思ったが、私の見た夢よりも詳しく覚えていたおかげで、話はスムーズだった。
最後に、どうしてそんな
ーーそんなことをまだ根に持つなんて……
私はジャンヴィエを深い眠りにつかせた。
もともとアヴリルは病弱だが、ジャンヴィエのせいで引きこもりがちになってしまい、さらに体力が無くなってしまったのだ。
そのせいで、今の私は非常に苦労している。
父親といい、どいつもこいつも性格に難ありだ。
そいつらのせいでアヴリルは小さくなるしかなかったのだと思うと、同情してしまう。
だからこそ、雑草ごときではしゃいでいるジャンヴィエを見ると、自分は良いのかよと
聖珀草を見つけたジャンヴィエは世紀の発見だと騒いでいたが、クトプルの一言でジャンヴィエは
ーーそれ、エスト地区ならどこにでもありますよ??
あれは良い攻撃だった。
クトプル様バンザイと言ってもいいくらいだ。
そして、聖珀草の効能や抽出についてクトプルが話すと、屍になったはずのジャンヴィエが再び生き返ったのだ。
「はぁー。まさかこうなるとは……」
今日も急かされながらエスト地区に来たのだが、ジャンヴィエはクトプルと楽しそうに話をしているのだ。
雑草がどうとか、抽出の圧力とかなんかそんな感じの話を二人で盛り上がっているのだ。
今までジャンヴィエの研究について討論するのは、大人か年の離れた研究生くらいだった。
そのせいなのか、年が近そうなクトプルと雑草について語れるのが嬉しいようだ。
クールキャラはどこへ行ったのかと聞きたくなるくらい、目を輝かせながら楽しそうに話をしていた。
「ねぇぇぇえええ??ちゃんと初恋傷の研究してる??」
雑草
まるで二人の世界にいるよう……って、最近どこかで言っていた気がするような……
私など眼中にない二人に、私はため息をつくしかなかった。
話し相手もいない上に、初恋傷を消す方法を探す人達は別次元に飛んでいる。
そんな環境下で、私は待っているなどと
現世のようにゲームや小説があれば、人がいようがいまいが関係ない。
私一人の楽しい世界が構築されるのだ。
「あっ……そっか!!」
私は
この世界にゲームはないけど、本はある。
ジャンヴィエのような好き勝手するやつを信じて待つより、自分ができることをすれば良いのだ。
「ねぇ。教会に行って、本に何か書いていないか調べてくるね??」
二人に声をかけるが、聞こえていないようだ。
わざと無視しているのではないかと疑ってしまうが、面倒なのでこのままにしておこう。
私はこの雑草畑の近くにある教会に向かった。
東京ドームみたいな円を書くような形に、白い壁の間にはステンドグラスがいくつも存在している。
陽の光を浴びて、教会の外もキラキラと照らしているので、中はきっと幻想的な世界であることは間違いない。
早速、教会の中に入ろう……と思うのだが、いかんせん体力切れのようだ。
エスト地区へは、ジャンヴィエが使用する魔塔の馬車を使った。
魔力で動く馬車なので、
先日、頭領に言わないで家の馬車を使った際は、帰宅後にかなり怒られた。
何をしに行ったのだと言われて、ロアとチェンバールの仲裁と言ったら、鼻で笑われてお説教は終わった。
今思うと、頭領は私が婚約の取りやめてもらうよう直談判しに行ったと気づいていたのだろう。
後日、クオン達が帰った際に追いかけようと馬車の準備をお願いしたら、頭領の許可が必要だと言われたから。
そのせいでジャンヴィエの馬車を使ったのだが、馬車に小細工をしているようで動かすことができなかったのだ。
まだ子どもとはいえ、アヴリルは魔力があるはずだ。
だから動かせるはずだと、ジャンヴィエを真似て馬車に手をかざしたが扉すら開かなかったのだ。
馬車に乗ることを
結果はこのざまだ。
前よりは体力が付いたものの、今にも地面に張り付いて寝転がりたいほどの疲労に襲われている。
足は生まれたての子鹿のようにぷるぷると震え、身体はまるで老人のように曲がっている。
子どもだけど、杖が欲しい状況だ。
「あっ……後少し……」
支えのない状態で、必死に教会の入口へ向かっている。
教会にさえ入れば、
そこまでは頑張ろうと必死に震える足を動かしていた。
ギィーー
突然、教会の扉が開いた。
そこには、私と同じくらいの背丈の子どもが立っていたのだ。
目が
「助かっ……」
そのまま、私は意識を失ったのだった。
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