十.侵入不可能な二人の世界
ロアとの一件が終わり、私は家に戻った。
帰宅して早々に私は倒れてしまい、目覚めたのは次の日のお昼だった。
転生したことに驚いて忘れていたが、アヴリルは道に生えている草に引っかかって気を失うくらいか弱い設定を持っているのだ。
お茶会の日、クオンの父親である大男に首を絞められたから気絶したと思っていたが、この現状を見る限りは体力の限界だったのだと推測される。
あの時は、王子に会いたい一心でアドレナリンが出ていたから、あんだけ動けたのかもしれない。
このままでは、王子を見かけても追いかけることも、目の片隅に映ることすらできずに終わってしまう。
王子との恋愛イベントを起こせなければ、私はバットエンドまっしぐらだ。
そうなってはいけないと思った私は、前世の私がやっていた朝のランニングを、今世でもやろうと意気込んだ。
数十歩くらい走ったところ、まるでハーフマラソンでもしたのかと言うくらい息切れをしてしまい、また倒れてしまったのだった。
これでは通常の生活すら難しい……
そう思った私は身体を動かすことに慣れることから始めようと思い、庭を散策することにしたのだ。
リザには止めた方がいいと言われたが、
屋敷を出て庭へ辿り着いたところ、思った以上に広かった。
バラの庭園に果実の木々、薬草や魔力草の栽培場に馬術場や池などがあり、現時点のアヴリルでは何年経っても庭を一周できない広さだ。
今日も必死に庭を散策していると、別のメイドが私とリザのところへやってきたのだ。
メイドが言うには、クオンが私に会いに来たので、客間に通しているそうだ。
面倒だから断りたかったが、もし統領の耳にこの話が入ったら後々が怖そうなので、リザに運ばれながら部屋に戻った。
急ぎ
よく、貴族はコルセットや針金のようなドレスを着るイメージだが、この世界ではそう言った服装は
ドレスは羽のように軽い素材を使ったものが多く、とにかく軽くて動きやすいのに豪華なのが
だが、今は流行りとかそう言うお洒落は関係ない。だって、客間にいるのはクオンだ。
リザが別のドレスにするよう騒いでいるが、無視して客間へ向かった。
扉をノックしてから、私は部屋に扉を開けた。
「お待たせしました」
そう言いながら部屋の中を見ると、
私の声が聞こえて、クオンは私の方に振り返った。
私はクオンへ近寄ると、クオンは椅子から立ち上がろうとした。
だが、クオンの横から頭が二つ
一瞬、何が起きたのかわからなくて固まってしまったが、二つの頭はスッと椅子から立ち上ったのだ。
「あら……ロア様とチェンバール様」
私は驚いて固まってしまった。
先ほどメイドから聞いた話では、クオンが来ているとだけ伝えられた。
決して他に人がいるなんてことは言っていなかったはずだ。
だが、目の前にはクオンのほかにロアとチェンバールがいるのだ。
二人は私の姿を見ると、ぱぁっと明るい笑顔になった。
「先日はありがとうございました!!」
二人は私の前まで小走りでやってきた。そして、お礼を言いながら頭を深く下げた。まるで双子かと聞きたくなるくらい、息がぴったりだった。
「いえ……こちらこそ」
私は混乱しつつ二人に返事をした。
「あっあの!!……アヴリル様!!」
「ふぇ⁇」
突然、ロアとチェンバールは私の名前を同時に呼んだのだ。
アヴリル様って……どうして突然、様付けし始めたのだろうか……私は混乱するほかない。
「あっあの!!アヴリル様のこと……
ロアは顔を真っ赤にしながら、そう言うとチェンバールと目配せをして床に
「はいぃぃぃっ!!⁇いやいやいや、なにやってるの!!⁇」
二人の
「お願いします!!」
「いやいや⁇何があったのさ⁇」
私は驚きすぎて、敬語を使うことを忘れていた。
だが、二人はそんなことは気にも留めないようだ。むしろ、それで良いと言うような瞳で私を見つめてくるのだ。
「あの後、チェンと二人で悪党退治を始めたんです!!今までは一人を捕まえるだけでも大変だったんですけど、チェンの作戦をやったらめっちゃ悪党を捕まえられたんですよ!!」
「俺が考えた包囲網作戦を、ローが
二人は肩を組みながら、にこやかに報告をしてきた。
数日の間で、二人には何が起きたのだろうか。
お互いあだ名で呼び合っているし、チェンバールが自分のことを『俺』と言っているではないか。
少しは仲良くなればいいなとは思っていたが、こんなに仲良くなるとは予想外だった。
「あの日、アヴリル様が俺の間違えについてご指摘くださったおかげで、目覚めたんです。それに俺、ローとやるこの活動が天職だと気づきました」
「ねっ!!チェンが親父を説得してくれたおかげで、退治屋の活動を表立ってできるようになったんですよ!本当にチェンは頭が良いよな!!」
「ははっ!!それを言うなら、ローは向かうところ敵無しの腕っぷしは最高じゃないか」
先日の時は、二人の世界でケンカをしていた。だが、今は二人の世界で仲良しすぎて話についていけない。
勝手にどんどんと盛り上がる二人に、私はその場に取り残されるだけだった。
「……なので、アヴリル様のことを
「お願いします!!」
二人の世界が終わったと思ったら、またその呼び名の話に戻ってきたのだ。
どこでそんな呼び方を知ったのだろうか。
それよりも、讃えるって……私、そんな
「姐さん!!これからもご指導のほどよろしくお願いします!!」
二人はまたも声を合わせて私に頭を下げた。本当に双子なのではないだろうか……と言うか、呼んで良いと言っていないのに、いつの間にか二人は私を『姐さん』と呼び始めてしまった。
「姐さん好みのにぃになるよう
ロアがクオンの肩をパンッと
クオンは肩を痛そうに
つられて私も頭を下げたが、ハッとした。
「えっ⁇ちょっと待って⁇話が勝手に進んでない⁇」
私が疑問を口にしたが、もう時すでに遅しだ。
ロアとチェンバールは二人の世界、クオンは一人の世界が出来上がってしまっていた。
もう、私の言葉は誰にも聞こえない状態だった……
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