六.死亡フラグのお知らせです

「なんでぃチビ!!そんな緊張しおって!!」

 そう言うと、大男はクオンの頭をスパンッと良い音を立ててはたいた。

「いってぇっ!?もー父さん!!何度も叩かないでよ!!」

 涙目のクオンは、勢いよく大男へ振り返った。


(父さん……と言うことは、この大男がクオンの父親!!??)


 あまりにも似ていない二人の顔を、交互に顔を見ていると頭を鷲掴わしづかみされた。次は魔法ではなく、手で押さえられているようだ。人の顔をジロジロ見るのは失礼だと言わんばかりの圧を、後ろから感じる。


「んっ……チビ、そのデコの……」

 クオンのおでこにキラキラと光る初恋傷ファラッドに、大男は気づいてしまったようだ。

 初恋傷は常に光っている訳ではない。初恋傷が出来た当初のみ輝いており、その後は通常のあざと見分けがつかなくなるのだ。だから、気づかれなければそのまま一生誤魔化ごまかせると言うのに……


「あわわわっ!!」

 私は慌ててクオンの父親の視線をらさせようとするが、クオンのおでこをまじまじと見つめる姿を見て、手遅れだと悟った。

「ほぉー⁇どうやらチビは嬢ちゃんにれちまったらしいな」

「なっ⁉とっとっとと父さん!!⁇なっなっなっ何を言ってるんだ……す……か」

 クオンは顔を真っ赤にしながら、父親に反論しようとしていた。だが、こちらに顔を振り向き、さらに顔を真っ赤にしてしゅんと小さくなっていた。

 どうやら、父親の言葉を私に聞かれてしまったと気づいたようだ。まぁ、他人に自分の想いを伝えられるものほど悲惨ひさんなものはない。しかも、それを悪びれもなく大声で父親が言ったものだから、かなりショックを受けているのではないだろうか。少しだけ、同情してしまう。


「んーっ、なぁ……ダーナ地区の統領さん……いや、よ⁇」

 クオンの父親は何かを悩んだ後、統領の方に振り返った。そして身の毛もよだつほどのぶりぶりとした声を出したのだ。

「ウィン……ちゃん⁇」

 私は恐る恐る統領の顔を見ると、統領の顔は物凄ものすごく青ざめていた。どうやら統領のことをウィンちゃんと呼んでいるらしい。統領はプルプルと震える手を上げて、頭をグッと掴んだ。

「……コロンの統領よ。場をわきまえろ」

「えーん、儂とウィンちゃんの仲なのにー」

「黙れ、ザンマ!!!!」

 鬼のような形相に鋭い眼光が光った。どうやら統領の怒りが爆発しかけているようだ。

 それにしても、統領とクオンの父親はどんな関係なのだろうか。……まさか、私が知らないだけで、作者のあの子が禁断の愛でも取り入れたのだろうか。なんて世界なのだろうかと驚きながら統領を見ていると、統領が私の視線に気づいた。

「……違う、違うからな⁇」

 慌てた様子の統領を見て、私は笑ってしまった。出会ってから怖いイメージしかなかったのに、こんな弱点があるとは……何かおどしに使えるかもしれない。


「ゴホンッ……で⁇頼みごとはなんだ⁇」

 統領は平静を装いながら、クオンの父親に問いかけた。どうやら、頼みごとをするときはいつもあんな感じなのだろう。私は絶対に伝わらないし、理解したくない二人の合図なのだろう。

「うちのチビ、お前さんの娘っ子に惚れちまったみたいなんだ。ほれ、このでこの痣」

 そう言うと、クオンの父親は、クオンを統領の前に押し出した。押し出されてクオンは驚いていたが、統領を前にして怖いのだろう。気を付けのポーズを取って、ガチガチに固まっているのだ。

 そんなクオンに対して、統領は顔を近づけておでこの確認をしているのだ。

「ふむ……確かにこれは初恋傷だな」

「だよな⁉なら、うちのチビを思って、お前さんの娘っ子とさせてくれねぇか⁇」


 こ・ん・や・く……だと!!⁇


「反対、反対、反対ー!!!!」

 未だに宙を浮く私は、手足をバタつかせながら、大きな声で叫んだ。

「私には初恋傷なんて無いんだから、そんな無理矢理の婚約なんては・ん・た・い!!!!」

 騒いでいる私の方に顔を向けた統領は、大きなため息をついてじっと見つめてきた。

「……誰がこの痣をつけたかわかっているのか⁇」

 確かに、蹴飛けとばしたのは私だ。だが、蹴飛ばしたのは顔面ど真ん中だったはずだ。なのに、なぜ原作通りの位置に初恋傷ができているのだ。

「……おっ男は傷が勲章くんしょうのはず!!そんな傷、どーってことないじゃない!!」

「はっはっはっ!!!!ちげぇねぇ!!傷は男の勲章だな。なぁクオン⁇」

 私の言葉に同調して、クオンの父親は私に近づいてきた。クオンの父親に引っ張られながらクオンは私の前へとやってきた。

 クオンは私の顔を見るなり、顔を真っ赤にして下を向く。そのくせ、また私の顔を見ようとしてくる。

「まぁ、お嬢ちゃんがくれたのは痣だが、それでもこんなに立派な勲章をさずけたんだ。嬢ちゃんも折れてやってくれねぇか⁇」

 そんな死亡フラグ、絶対にいらない。何としても回避せねばならない。


「私、こんな小さい子なんて好きじゃないもん!!」

「……僕、大きくなるから!!!!」

 私の言葉に反応したクオンが反論してきた。突然のクオンの声に、辺りは静まり返った。


 その沈黙を破ったのは、私だ。

「おっ大きくなったって、そんなひょろひょろの身体とか好きじゃないし!!」

「うっ、が……頑張って誰よりも強くなる!!剣をも通さないくらい身体をきたえるから!!!!」

 確かに大人になったクオンは良い体つきをしていた。騎士が身に着けるよろいのせいで、ムキムキに見えるだけかと思っていた。だが、ゲーム内で鎧を脱いでいる姿を見た時に細マッチョであることを確認しているので、これでは言い負かせない。

「えっと……僕って子どもっぽくて嫌なのよね!!」

「えっ、あっ……俺!!これからずっと俺って言うから!!!!」

 なんでも言い返してくるクオンに負けそうだ。クオンの隣で、クオンの父親は感激して号泣している。

「私、初恋傷に感情を流されるような弱い人は無理!!!!」

 その言葉に、クオンは驚いて言葉を失ってしまった。

 そりゃあそうだ。初恋傷は人の心に作用する。寝ても覚めても相手を想い、相手を見るだけで幸せになるのだ。例えそれまでに好きな人が居ても、その想いを忘れるくらい初恋傷は強力なのだ。

 これなら、クオンも言い返せないだろう。


 うつむいたまま動かなかったクオンは、何かを決意したかのように顔を上げた。そして、真剣な眼差しで私を見つめた。

「……この痣じゃなくて、ぼ……俺の本当の想いだったらいいの⁇」

「……へっ⁇」

 予想外の言葉に、私は口をぽかんと開けてしまった。そんなのどうやって証明するのだと。何を言っているのだと言い返そうと思ったとき、嵐でも来たのかと言うくらい大きな拍手はくしゅが聞こえてきた。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!感動的だ!!!!純愛、最高だ!!!!」

 私の言葉をさえぎり、クオンの父親は号泣しながら私とクオンを強く抱きしめた。

「ぐぇ⁉」

 クオンはまだしも、宙に浮いている私を抱きしめるとは……首が締まって死にそうだ。

「……じゃあ、ダーナ地区の統領、これで婚約でよいかな⁇」

 その言葉に統領は深く頷いた。

「あぁっ。正式な決定はまた後日にしよう」

「うぉぉぉっ!!!!よかったなぁクオン!!!!」

 勝手に感動的話で終わらそうとしているが、待て……勝手に決めるなと言いたい。だが、クオンの父親にわざを決められている私は言葉を出すことはできず、話が勝手に進んでいってしまうのだった。

 これは死亡フラグのお知らせだ……

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