四.祈り石を受け取りました!!

 ガタンガタンと言う音を立てながら、馬車はゆっくりと城に向かっている。

 そんな馬車の中に、私とアヴリルの父親は座っていた。何も話すことは無いし、下手には喋れば中身が違うとバレてしまう。とりあえず、バレないように足元に視線を落として沈黙をつらぬいているのだ。

「……アヴリル」

「はっはいぃぃぃっ⁉」

 突然、声をかけられた私は声が裏返ってしまった。大変だと口を押さえるが、アヴリルの父親は私を鋭い目つきでにらんできた。まるで警察に自白を迫られる犯人のような気分だ。

「私に何か言うことはないか⁇」


 言うこと……それは先ほどのことだろうか。アヴリルの兄であるジャンヴィエが風邪を引いて寝込んでいるところで騒いだことだろうか。

 折角せっかく、早起きをして準備も完璧かんぺきだったのだ。アヴリルに似合う花をイメージしたドレスを着て、髪もいつもよりたくさん巻いたのだ。ふんわりではなく、ふっわふわの髪型にしたのだ。薄いピンクとオレンジの混ざったリップを付けて、星型のネックレスを身に着けた。今できる最大限のお洒落をしたのだ。

 鏡の前に立ち、自分の姿を見た私は恋してしまいそうだった。こんなにも可愛らしく、綺麗な女の子がいるなんて……本当に神様は不公平だと思う。歩くとひらひら後を引くリボンに、なびくスカート部分は風に靡く野花を連想させるのだ。

 立っているだけで、そこに妖精がいると言われても、おかしくないくらいの存在感を放つのだ。これで、王子もイチコロだと私は確信したのだ。

 すべてにおいて準備を完了させた私の前に、ジャンヴィエがあんな状態だったのだ。暴れてもいいじゃないか。……少しくらい。


「先ほどは失礼いたしました。あまりにも驚いてしまい、取り乱してしまったのです」

 そう言って、私は悲しそうな顔をした。アヴリルならきっとこう言うだろう。

「……アヴリルは謝りはしないぞ⁇」

 その言葉に、私は驚いてはっ⁇と言ってしまった。これこそアヴリルが言わなそうな言葉だ。

「アヴリルはジャンにあのようなことは言わないし、声も出さない」

 そう言うと、アヴリルの父親は私の目の前に手をすっと出してきた。何かあるのかとじっと見たら、手に虫がついているのだ。

「あれ⁇これって……テントウ虫⁇」

 そう言った瞬間、テントウ虫のような虫ははねばたかせて、馬車から飛び出していった。

「……やはりな」

「えっ⁇」

 アヴリルの父親は、私をまじまじと見つめていた。先ほどから疑われているが、ヘマはしていないはずだ。

「……まぁいい。王都では、病弱で可憐な令嬢として皆に認識されている。イメージ通りにしろとは言わないが、先ほどのように暴走だけはしないよう気を付けなさい」

 そう言うと、アヴリルの父親は目を閉じて黙り込んだ。


(まさか……バレたんじゃないよね⁇)


 その後はどちらも話をしない、沈黙状態だった。早く王都に着いてほしいと心から祈ったのだ。


「わぁーっ!!ここがパシュクルゴード城ね」

 馬車から見えるお城は、要塞のようだ。だが、門を潜ればメルヘンのように花が一面に生えているのだ。

 どのくらい走ったかわからないが、馬車が止まったのだ。ここで降りるのだろうと思ったら、アヴリルの父親は動かないのだ。

「……あのー、お父様⁇着いたみたいですが⁇」

 私がそう言うと、アヴリルの父親は力強く目を開いた。私は驚いてビクッとしてしまった。

「ふぅ……アヴリル。一つ言っておく。今後は私を、と呼ぶよう気を付けなさい」

 アヴリルの父親……統領は立ち上がり、馬車を下りた。手を伸ばしてきたので、私はその手を取り、ゆっくりと降りた。

 城内に入る扉の前には、一列に兵士が並んでいた。私達がその横を通り扉に近づいていくと、ゆっくりと扉が開いたのだ。


(おぉーっ!!現代の自動ドアって感じね!!)


 扉が開くのに驚いて、感動している私を見てなのかわからないが、統領は大きめの咳払いをした。

「さぁ、アヴリル。王の間へ向かうぞ」

「はい!!ちゃちゃっと行きましょ!!」

 統領の言葉に、私は元気に返事をした。周りにいた兵士や場内でお辞儀をしていたメイドらが、一斉に私の方を見た。


(やっべ……大声出しちゃった)


 統領はまた大きな咳払いをして、歩き始めたのだ。私も後れを取らないよう、統領に着いて行った。


 王の間に着いた私と統領は、王の前でひざまずいたのだ。そして、王への挨拶をして何やら軍事の話を始めたのだ。まるで本題に入る前の前座として、世間話でもしているつもりなのだろうか。もし世間話のつもりなら、内容としては微妙な気がする。本題が祈り石なら、もう少しラフな話をしてほしいものだ。


「……さて。統領の娘よ」

 統領との話が終わったのだろう。王は私に話しかけてきた。

「国王陛下に挨拶を申し上げます。アヴリル・D・タルジュアースと申します」

 私は王様に挨拶をしてお辞儀した。これから、祈り石を受け取るのだろう。

「ふむ……アヴリルよ。精霊の儀では、そなたが精霊と親和になれるよう努めなさい。精霊と絆を深めることにより、そなたは様々な経験をすることとなるのだ」

「はい。儀の成功を収めるため、全力で務めさせていただきます」

 王様の言葉に返答後、王様の元に来るよううながされて、私は玉座の近くまで歩いて行った。そして、私は王様の前に跪き、両手を王様に向けて伸ばした。王様は侍女が持ってきた宝箱から祈り石を取り出し、私の手のひらに置いたのだ。

 私は受け取り統領の横に戻ると、統領が王様に礼を言った。そして、私もそれに合わせてお礼を言い、お辞儀をしたのだ。

「では、儀式が成功することを祈っておる」


 王の間から出ると、統領は私の手から祈り石を取り、箱の中に閉まった。

「これで、謁見えっけんは終わりだ。このまま屋敷へ戻るか」

「いいえ!!まだ、お茶会は行けるはずなので、行きたいです!!」

 統領は私を諦めの悪いやつだと、そう思っているような目で見てきた。

「もう終わりの時間のはずだが⁇」

 そう言って統領は首をかしげた。お茶会に参加したいのではなく、王子に会いたいのだ。王子はお茶会に最初から参加しているのではなく、最後に顔を出すのだ。だから、タイミング的には良いくらいなのだ。

「ほんのちょっと出るだけなので、少しだけ待っててください!!」

 私は手のひらをパンッと音を立てて、統領にお願いをした。統領は少し悩んだが、まぁいいだろうと言ったのだ。許可をもらったので、走りだそうとした時だった。

「おぉーっ!!ダーナ地区の統領ではないか」

 統領に声をかける大男が現れたのだった。

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