第20話 静かな帰還(2)
城に帰ったら、話はスムーズだった。
魔王を封印した勇者のモブに対して、城の人間すべてが歓声を上げて喜んでいた。
――魔王を倒したのは、私なのに⁇
そう思いながらも、大騒ぎする城内の人々に対して、私は何も言うことは無かった。
王様から何か言われるのかと思って待っていたが、王様は宴会を始めやがってその日は自室に戻って寝る羽目になった。
朝を迎えて王様のいる王の間へ行くと、謁見はできた。だが、王様は二日酔いで顔色が紫色になりそうな状態だった。
「おぉぉっまつこよ」
今にも死にそうな声を出しながら、王様は私の名を呼んだ。
そんな状態なら謁見はまた後日でも良かったのに、なんでやっちまったんだ。そしてそんな状態で私の名前を呼ばないでほしい。
「おぬしには、とってもかんしゃ……しておる」
「はい。とりあえず、もう帰還の儀式ってできるんですかね⁇」
私がそう言うと、王様は小さく頷いた。多分、あまり頭を揺らすと中身が出てしまうのだろう。仕方がない。
「これより……まちはへいわさい……をおこなう」
魔王を倒したら、国の平和が訪れたと称してお祭りが開催されるのだ。その祭りでは攻略対象とデートに行けたり、恋人になるイベントだってあるのだ。
だが、攻略対象のいない私にはそんなもの無意味である。
それに、これ以上この世界にいたら、変な気になりそうで嫌だ。
「まつこも……だれか……と……でかけると……ええぞ」
そう言うと、王様はがくりと玉座に倒れ込んだ。周りの騎士達も王様と同じ状況だ。倒れた王様を助けようとするが、まっすぐに歩けずフラフラとしているのだ。
私はため息をつきながら、王様達に頭を下げて王の間を後にした。
大きな山、エリターナ山は城の裏門から行ける大切な場所だ。
他の場所から行くと、道が整備されていないので崖や崩れやすい足場ばかりだ。
だから、基本は裏門からしか行くことのない場所なので、魔物が棲み着くにはもってこいの場所だ。
だが、魔王が封印された影響なのかわからないが、魔物は一匹も出ないのだ。
サクサクと進んでしまい、もう頂上に辿り着いてしまった。
頂上から見る景色はとても綺麗だ。
城の先に少しだけ町が見えるのだが、本当にお祭りをやっているようだ。
家の屋根に飾りがたくさん付いているのが見えた。
「はぁー……楽しかったなぁ」
私はため息をつきながら、帰還の儀式の準備ができている祭壇に足を進めた。
最初はどうなることかと思った。……いや、常々どうなっちまうんだと焦っていたが、なんだかんだ終わることができた。
それだけでも良いかと私は笑った。
「よし……『帰還』」
私がそう言うと、魔法陣ゆっくりと地面に現れ、ぽつぽつと光の粒が出始めた。
この魔方陣が完成すると同時に私は元の世界へ帰れる。
つまり、もう居眠りしようが、扉を開けようが、何をしたってこの世界へは飛んでこないと言うことだ。
楽しかったことはすべて思い出にして、明日からはまた課長との戦いが待っている。
――勇者、課長に勝てぬ!!
そんな阿呆なことを思いながら、私は一人でフフッと笑っていた。
「おーい!!」
魔方陣がほとんど出来上がった頃、人の声が聞こえてきた。
声のする方へ振り返ると、汗だくになりながらモブが走ってきたのだ。
「えっ、モブ⁇」
私は驚いてしまった。
主人公が帰還するとき、ここに来るのは攻略対象だけだ。
王様が行こうとすると、ぎっくり腰になったり、何か事件が起きてしまい、絶対に来れないのだ。
それだから、モブも同様に来れないと思っていたが……来てくれたのだ。
「はぁ……はぁ……なんで何も言わないで言っちゃうんだよ⁉」
モブにしては珍しく怒っているようだ。
「ごめん。ここには来ないって思ったからさ」
「いや、まだ時間あるじゃん⁇お祭り終わってからでもいいじゃん!!」
モブは何と言うか……悲しそうな顔をしていた。
「せっかく旅した仲間なんだし……最後くらい楽しい思い出作りたかったよ」
モブは優しいやつだ。
こんなに良い人に、今後会える気がしない。
ゆっくりと身体が消え始める私に、モブはあっと声を出すが、悲しそうな笑顔を私に向けた。
「ちゃんと、元の世界でも元気にやれよ」
「うん、頑張るよ」
まるで、今生の別れみたいだ。確かにそうなんだが……
本当はサッと帰還して、次の日からは何事もなかったようにしたかったのに……涙が出てきそうだ。
「松、しっかり働けよ⁉真面目にやるんだぞ!!」
「当たり前じゃん。私、これでも立派な社会人なんだから」
モブは社会人と言う言葉がわからないようで、混乱しているようだ。
そんな姿を見ながら、私はフフッと微笑むしかなかった。
「あっ、後最後に!!」
「何⁇」
もうだいぶ声が聞こえにくくなっていた。それがわかったのか、モブが大きな声で私に言った。
「次はもっといい恋愛しろよ⁇」
その言葉に、私はもう怒りしか出なかった。
「うっさい馬鹿!!!!」
そうして、私の異世界への旅は
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