第20話 静かな帰還(1)
キラキラとした光が穴から天井へ。
そして、天井を破壊して空にまで輝くとてつもない光魔法だ。
「あれ⁇……モブ、死ぬんじゃね⁇」
私・名川松子は目の前の光景に、ただただぼんやりと見るしかできなかった。
モブが魔王の封印を行ったら出来上がった光の柱、それは光魔法でできているのだ。
何を隠そう、モブは魔法耐性の無い最弱人間だ。こんな強い魔法を
――それは……困る!!!!
「ちょっ、モブー!!⁇」
私は光の柱ができている穴を
だが、圧倒する威力に、強い圧迫感を感じて光の柱に近づくことができない。
……と言うか、主人公は魔王を封印する時に、こんな威力のある魔法を使っていただろうか。
もっとこう……キラキラ的な。幽霊が成仏する時の映像のように、スッと消える魔法だったはずだ。
それなのに、現実ではこんなに凄まじい威力を発揮するなんて……実は、王様が魔王じゃないだろうか。こんな危険なものを私に渡していたなんて、本当に恐ろしいやつだ。
少しずつ光の柱が小さくなり、穴の中が見えるようになってきた。
「モブー⁉生きてるー!!⁇」
モブを探しても、どこにもモブの姿が見えないのだ。本当にモブは消えてしまったのだろうか。
こんな終わり方をしたかったわけではない。
魔王ルートが望めない以上、普通にモブと城に帰ってさっさと帰還しようと思っていたのに……
「モブぅ……」
変なことばかり言うモブだが、この世界で誰よりも親身になってくれたのはモブだ。
面倒な奴だと思っていても、一緒に旅をするのは割と楽しかった。
できるなら、途中抜けたりなんてせずに一緒に旅ができたら、きっとモブともっと仲良くなれたに違いない。
「……」
後少しで消えそうな光の柱を見ながら、私は悲しみに暮れていた。
ふと、光の柱からゆっくりと下に向かって何かが落ちているのに気が付いた。
私は上を見上げて、光の柱をじっと見つめた。
落ちてきているもの……それは白い羽だ。
「白い羽って……天使⁇」
ゲームでは、こんな演出は無かった。だって幽霊のようにスッて消えるから。
「……!!」
一瞬、声が聞こえた気がした。私は反射的に穴の中に顔を向けた。
後少しで光の柱が消えそうなとき、モブの姿が見えたのだ。
魔法にやられて消滅したのかと思っていたが、元気そうにこちらに向かって手を振っていた。
「モブ!!!!」
私は感動のあまり、
魔王が開けた穴は割と深かったが、先ほどの光の柱のせいでさらに穴が深くなっていた。
飛び降りた瞬間、やっちまったと気づいたがもう遅かった。
私が飛び降りたことに焦ったモブは、急いで私が落下する場所に走ってきたのだ。
――こんな状況で抱きかかえるとか、本当に馬鹿でしょ。
そう思いながら、私は下で私を受け止めようとするモブに向かって抱きついた。
その瞬間、私は風魔法を使って身体を空中に浮かせた。
そしてゆっくりと穴の外に出るように上昇し始めた。
「もー!!なんでこんなヤバい封印方法なのかな⁇モブって王様に嫌われてる⁇」
「いやいや⁇封印は本来なら松がやることだったんだから、嫌われてるのは松と思うぞ⁇」
相変わらず憎たらしい返答だ。だが、今はそれでも良いだろう。
生きていた。それだけで、とりあえずは良い。
穴から脱出すると、私達を出迎えるように女の子とゼフが立っていた。
「封印完了しましたー!!」
モブがそう言って笑顔を向けると、女の子は涙を流しながらモブに抱きついた。
私の二番
『勇者様ー!!!!本当にありがとうございました!!!!この恩は一生忘れません!!!!』
ゼフも大泣きしながらモブに抱きついていた。
何だこの状況は……と言いたくなる。先ほどまでの感動を返してほしいものだ。
「じゃあ、俺らはこれで帰るから」
魔王城の前でモブが城門の方に振り返った。
すると、
『勇者様、ありがとー!!!!』
『ありがとうございます!!』
『ありがとですニャー!!!!』
魔物達は次々と合唱のように、感謝の言葉をモブに伝えていた。
「これからは人間とも仲良くしてくれよー!!」
そう言いながら、モブは元気よく手を振っていた。まるで世界を救ったような光景だが、別にそう言う訳ではない。
モブは魔王を封印したのだ。逆に悪いやつと思われても仕方がないと言うのに、魔物達からは勇者と呼ばれて感激されまくっているのだ。
私がいると怖くて魔物達が出てこれないと女の子に言われて、少し離れたところから見ている。
――何が怖いだ!!!!
私が一体、何をしたと言うのだ。
魔王の嫁になろうとして、ちょっと失敗して魔王様を消しかけただけだと言うのに……こんな扱いは悲しくてしょうがない。
「よっ!!お待たせ」
モブは魔物達とのお別れをし終えたようで、私のところまで帰ってきた。
「……なんかムカつく」
私は不貞腐れながら歩き出すと、モブが頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「なんでぃ!!せっかくh世界が平和になったんだし、良しとしようぜ⁇」
モブは満面の笑みを私に向けてきた。
まぁ……こんな終わりでもいいか。
何となく、諦めのような……なんて言うんだろう。まぁいっかって気になった。
もうこれで本当に終わりなんだし、さっさと城に戻ってサクッと最後を決めればいいのだ。
私達はゆっくりと城に向かって帰って行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます