第19話 こんなはずでは……(2)

『まっ魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!』


 ゼフの叫ぶ声が聞こえてきた。


 何があったのだろうか……


 あっ、そうか。


 私、魔王にツッコミを入れて吹き飛ばしちゃったのか。

 ツッコミを入れた瞬間、魔王は魔王の間をまるでボールのようにバウンドしまくり、最後は地面に埋まってしまったのだ。

 やってはいけない気がしたのだが、どうやら油断してしまったようだ。

 魔王は口から泡を吹きながら、その場から動かなくなってしまった。

『そっ、そんなぁー!!!!魔王様までこんなことになるなんて……終わりだ!!もう終わりだー!!!!』

 しゃべらなくなった魔王とは対照的に、先ほどまで言葉を知らないのかと思うくらい喋れなかったゼフが泣きながら魔王の元へやってきた。

「あーやっちまったなぁ」

 私は首をゴキッゴキッとらしながら、ため息をついた。

 これでは、私の計画は上手くいかない。そうなると……後は帰還しかやることが残っていないのだ。


「うっ……あれ⁇」

 魔王が気絶したことにより、モブを拘束していた魔法が解けたようだ。気絶ループが断たれたモブは目を覚ました。

「あっ、起きた⁇」

 私はそう言ってモブの顔をのぞき込んだ。

「うぉっ⁉」

 逆から覗いたせいか、モブは驚いて身体を半回転させて起き上がった。

 本当にモブはアクロバティックな奴だ。

「魔王はどうしたんだ⁇」

 モブは今がどんな状況かわからないようだ。辺りを警戒しながら私に近づいてきた。

 だから私は、ゆっくりと床に指を差したのだ。

「えっ、なんでそんなとこに穴が開いてんの⁇」

 気絶している間にボロボロになった魔王の間を見るだけでも、奇怪な状況だろうに穴も開いているのだから摩訶まか不思議。


「……えっ⁉魔王!!⁇」

 モブが穴を覗きこむと、魔王が地面にめり込んで気絶しているのだ。先ほどまで死闘を繰り広げた相手がこうなっているのだ。そりゃあびっくりするのも仕方ない。

「まぁー、終わったみたいだし帰ろっか」

 私はそう言うと、帰りの扉に体の向きを変えた。そして、ゆっくりと歩き始めると目の前をさえぎる人影が見えた。


「……あんたは」

 私の前を遮っているのは、モブと一緒に助け出したあの女の子だった。

 あの時とは異なり、傷や怪我は治っている。何より綺麗な服装をしていた。

 真っ黒なドレス……まるでお姫様のようだ。

『ひっ姫様ー!!!!危険ですから、そのようなことはなさらないでください!!!!』

 ゼフの言葉を聞いて、私はゼフに視線を向けた。すると、ゼフはいつも通り、ヒッと奇声を上げて震えていた。

 どうやら、本当にこの女の子はお姫様のようだ。何がしたいのかわからないが、帰るのには邪魔だ。

「あのね……」

 私が声を発した瞬間、女の子は勢いよく私に突っ込んできた。そして、胸元に持っていた封印のペンダントを奪っていったのだ。

「えっ、ちょっと!!!!」

 あの女の子は姫と言うよりは、コソ泥と言う方が正しいのではないだろうか。

 本人を目の前にしてスリを働くとは……


 私が振り返ると、女の子は封印のペンダントをモブに渡していた。

『お願い!!兄さまをこれで封印して!!!!』

「えっ⁇」

 モブは困った表情をしていたが、私も同じだ。何を言いたいのかがわからないので、困惑している。

『おぉっ!!そうでしたな。……人間!!いや……勇者よ。どうか私からもお願いします!!!!魔王様を封印してください!!!!』

 ゼフはそう言い終えると、モブに向かって土下座をし始めた。何だこの状況は……


「えっ⁇封印されちゃ困るんじゃないの⁇」

 モブはあせりながらも、二人のお願いに対して真っ当な質問を投げていた。

 そりゃあそうだ。封印なんてされたら、魔王はまた長い時間の眠りにつくことになるのだ。

『いえ、このままだと魔王様は消滅してしまいます!!そうなると、魔王に勝ったものが次の魔王に……』

 そう言うと、ゼフは私に視線を向けてきた。私がゼフを見ていると気づくと、ヒッと奇声を上げて私の方に向きを変えて土下座で祈り始めた。

 ゼフは確か、重傷の怪我をしているはずだ。それなのに、こんな俊敏しゅんびんに動けるなんて……なんかムカつくから、一発殴ってもいいかなとぼんやりと考えていた。

『このままだと兄さまが死んじゃうの!!お願い、勇者様!!!!』

 今にも何だしそうな声を出しながら、女の子はモブに切願していた。

「……よし、任せろ!!」

 そう言うと、モブは女の子から封印のペンダントを受け取り、魔王のいる穴の中へ飛び込んだ。


「……松ー⁇」

 穴の中から私を呼ぶ声がする。蚊帳かやの外にいた私は、ため息をつきながらモブのいる穴のそばへ歩いて行った。

 穴の中を覗くと、モブと倒れている魔王がいた。

 魔王は身体が半透明となり、お腹辺りまで消えかかっていた。

「なにさ」

 不満そうな顔をしながら、私はモブに声をかけた。

「いや、このペンダントってどうやって使うのかなーって」

 そう言ってモブは、苦笑いをしていた。そりゃあモブは私が王様に謁見えっけんする際は、城門で待っていたのだ。

 このペンダントの使用方法なんて、聞いているはずがない。まぁ、無駄に知識が豊富なモブさんだから、それくらい知っていてもおかしくないとは思うのだが。

「へぇー⁇知りたい⁇」

 私がモブに向かって不敵な笑みを浮かべると、モブを両手をパンッと合わせて祈るように頭を下げた。

「すまん!!お願いだ、教えてくれ!!」

『私からもお願いです!!!!』

『ヒッ……オネガイシマス!!!!』

 モブが頭を下げたのを真似して、女の子とゼフは私に頭を下げた。ゼフに関してはロボットのような喋り方になっていた気がするが……仕方ない。

「モブー⁇やることは簡単よ。魔王に目掛けて封印のペンダントをかざして『封印』って言うだけ。ちょー簡単」

「あぁっ、ありがとう!!!!」

 そう言うと、モブは私に頭を下げた。


 どうして魔王を封印するのに、長ったらしい台詞セリフをつけなかったのだろうか。そう言ったものが考えられない……もしくは予算の都合だろうか。

 そう考えると、このゲームって予算かつかつだったのかと思う。

 だから、モブが途中廃棄されてしまったんだろう。


 魔王の身体はもうほとんど見えなくなり、残すところ後は首だけとなっていた。

 モブは魔王にペンダントをかざして、息を吸い込んだ。

「魔王……俺、お前のことそんなに嫌いじゃなかったぜ。次に復活するときは、一緒に冒険へ行こうな」

 魔王が次に復活するのは、百年後だ。

 どうやらモブはよぼよぼのおじいさんでも、まだ現役だと言って冒険へ行くのだろうか。

「じゃあ……またな!!!!……『封印』!!!!!!」

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