第15話 最後のクリスタル(2)
「さぁ、着いた……けど」
楽しみの村に辿り着いたはいいが、ここも喜びの村と同様にお祭り騒ぎだ。これが日常なのか、それとも本当にお祭りをやっているのかわからないが、村が
だが、ここでも問題だ。この村は本来、魔物に襲われて壊滅状態となる。何とか逃げ切った村人の何人かは魔物の液体がかかって、
魔炎病は教皇が清めた聖水でなければ治せない。その病にかかったまま死んでしまうと、死体から
そんな状況で、主人公は死者へ祈りを
それなのに、今回は魔物はすべてリーくんが倒してしまったし、村人も無事だ。喜びの村のように、また何か力を示さないとクリスタルを献上してくれないかもしれない。
「いいよ」
「えっ⁇」
踊り
激しく踊り狂う村長を止めて、クリスタルの話をすると
「クリスタルは村の中央広場に飾ってあるから。それより、良い⁇踊りに戻っても」
「あぁ、はい」
そう言うと、村長は激しい踊りをしながら、また村人の中央へ戻って行った。
「なんか……よかったな⁇」
モブも
「まぁ、ささっともらって帰りましょ」
そう言うと、私達は中央広場を目指した。
中央広場へ行くと、クリスタルの前に一人の男が座っていた。まるで紙のようにペラペラのひょろ長い男だ。服装は
「あのー⁇」
「あん⁇」
ひょろ長いわりに、声は図太い。声だけを聞いたら、怖いおっさんとしか思えない。
「その後ろにあるクリスタルを取りたいんですけど……どいてくれません⁇」
「ダメだ」
「私、村長から許可をもらってそのクリスタルを取りに来たんです。だから、どいてください」
「ダメだ」
おっさんはそう言うと、そっぽを向いた。体調が悪いとか、見張りだからとその場所に座っているならまだ良い。だが、コイツは明らかに違うだろう。ここは一発、神の裁きでもお見舞いしてやろうかと目を光らせた時だった。その思いに気付いたのかわからないが、私とおっさんの間にモブがサッと割り込んできた。
「おっさん!!村人はお祭りみてぇに騒いでるのに元気ねぇな⁇なんかあったか⁇」
「……お前には関係ないだろ」
何、モブの言葉に照れて顔を背けているんだとキレたい。今すぐに神の裁きを
「もしかしたら、俺らがおっさんの悩みを解決できるかもしれないぜ⁇」
モブはおっさんの隣に座って、おっさんの肩を
「いや……あのな、今年は魔物が多かったりで綺麗な水が手に入らなくてな。そのせいで、今日みたいな日に飲む酒を造れなくてな……」
なるほど、コイツは密造酒を作るのか。
「おぉっ!!おっさんは
そう言いながら、モブはうーんと悩み始めた。どうやら、酒造りをする人のことはこちらの世界でも蔵人と言うのだなと感心していた。
すると、モブはパッと目を見開いて私を見つめた。
「松ー!!お前なら、解決できるよな⁇」
「はぁ⁇」
「おぉっ、松子よ。よく戻ったな」
「はい。こちら、楽しみのクリスタルになります」
私はさっさと王様の元へ行き、楽しみのクリスタルを渡した。
あの後、私は蔵人のおっさんの為に、綺麗な水を大量に精製させられた。
おっさんは勢いよく立ち上がり、水の入った
「さて、すべてのクリスタルが集まったのだ。ここに、我が秘法を使って」
そう言うと、王様は四つのクリスタルを手に持ち、念じ始めた。すると、ゆっくりとクリスタルは宙を浮いて輝き始めたのだ。
「おぉっ、すげぇ」
ゲームでは一瞬のことで何をしたのか知らなかったが、こうやって実演してくれると王様の
輝きながら、段々と小さくなってペンダントになったのだ。四つのクリスタルが付いた綺麗なペンダントに、私は声を失ってしまった。
「ほれ、魔王を封印する際にこれを使うがよいぞ」
「はい!!ありがとうございます!!!!」
私はルンルンと城を出てくると、城門にモブが立って待っていた。
「おっまたー!!てか、王様のところへ行くとき、一緒にいてくれてもいいじゃーん」
ご機嫌な私を見て、ハハッと笑いながらモブは答えた。
「いやいや。王様のところへ行ったら、騎士になれって
モブの話を聞いていると、モブって昇進とか出世が面倒なタイプなんだろう。王様に対してそんなことを思うなんて、不敬な男だがそれは私も同じだ。
「まぁ、このペンダントを受け取ったことだし、目指すは魔王城よ!!」
私はそう言いながら、王様から手渡されたペンダントをモブに渡した。
「えっ⁇俺が持つの⁇」
「そう。もし元の世界に戻った時に持ってっちゃったら、持って帰ってこなそうだからね。いざって時に出してちょうだい」
そう言って、私はモブに手渡した。その直後、私の身体が光に包まれ始めたのだ。
「えっ、もしかして初めてまともに戻れるパターン⁇」
「えぇっ⁉じゃあ、気を付けて!!!!」
モブが私に手を振ってくるので、私は笑いながら手を振り返した。
そして、全身が光に包まれて消えたのだった。
元の世界へ戻ると、私は未だに課長の前にいたようだ。確か立っていたはずなのに、正座をしているのだ。
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