第15話 最後のクリスタル(1)

「断る」

「お・ね・が・い」

 冷たいお断りの言葉を放つリクルンに対して、私・名川松子は可愛らしい声を出して、お願いをしている。

 そんな可愛らしい声を聞いているとは思えないような渋い顔で、リクルンは私をにらんできた。

「王族の装飾品は、軽々しく渡せるようなものではない」

 リクルンはさも当然のように言っているが、私は知っている。リクルンは主人公に自分の代わりとして装飾品を渡すイベントがある。だからこそ、私でも貰えると思っていたのだが……

 っと言うか、リクルンの口調が段々とキツく冷たい声になっている気がするのだが、気のせいだろうか。

「まったく。王族から物をもらうなら、それなりの功績を立てる必要がある」

「あっ、はいはーい!!私、山賊を改心させましたー!!」

 その言葉を聞いて、あっと言いそうな顔でリクルンは私を見てきた。


「いや、それくらい我が騎士団でも……」

「今までずっと放置されてましたけど⁇」

 私は嫌味をボソッと言うと、リクルンは無言でこちらを見てきた。

「……んんっ!!だが、山賊ごときでは……」

「はいはーい!!私、奴隷商も捕まえましたー!!」

 その言葉を聞いて、あっと言いそうな顔でリクルンはまたも私を見てきた。


「我が……」

「近くの村でも被害があったみたいですけどー騎士団、何やってました⁇」

 とぼけたような顔で私が言うと、またリクルンは無言でこちらを見てきた。


「ねぇねぇ⁇ねぇ⁇リクルーン⁇ねぇ⁇」

 ぐぬぬと言いだしそうな顔をするリクルンに対して、私はニヤニヤとした顔でツンツンとつついた。

「……えぇい!!!!やる!!やればいいのだろう!!!!」

 そう言うと、リクルンは右手に着けていた指輪を外して机に力強く置いた。

「……これは⁇」

「王子である私の魔力を調整する指輪だ。これなら、問題ないだろう」

 そう言いながら、リクルンはさっさと消えろと言うように、私の方に手を向けてしっしと払ってきた。

「これ……駄目だよ」

 まるでダイヤモンドのようにキラキラと輝くこの結晶石、これはサマライドと言う名称だ。硬度が高い石で加工が難しいのだ。それなのに、加工しようとすると綺麗に割ることができない。だから、神レベルの職人が王族のためだけに長い年月をかけて加工して装飾品に付属させるのだ。

 取り扱いが難しいこの石は、魔力を吸収する。そして、その魔力を解放して攻撃したり、身にまとって魔力を回復させることができる優れモノなのだ。

 ただ、この指輪はリクルンが魔力を込め過ぎたがために、暴走してしまうのだ。その暴走を止めることで、リクルンと主人公のきずなが強くなるイベントだ。


「何がダメなのだ⁇」

「これ、もうじき暴走するから、リクルンが持ってないと。……あっ」

 その言葉に、リクルンはジトッとした目で私を見てきた。

「ほぅ……暴走すると⁇そして、その暴走に巻き込まれろと言うことか⁇」

「いやぁ……ありがとうございます!!いただいてきまーす!!ではでは!!!!」

 待てと言うリクルンの声を無視して、私は指輪を持って執務室を後にした。


「あっ、おかえりー」

 城門に辿り着くと、そこにはモブが待っていた。

「おっまたー。これ、もらったよ」

 そう言って、私は右手の薬指にはめた指輪をモブに見せた。モブは驚いていたので、私はどや顔をした。

「じゃあ、また異界に戻るまで、無くさないようにしないとな」

「やめてよ、変なフラグを立てないでくれる⁇」

 そう言いながら、私とモブは最後のクリスタル、楽しみのクリスタルがある村へ歩き始めた。


「あっ」

 道中でモブが突然、声を上げて立ち止まった。そして、空に向かって手を伸ばした。すると、その手に式神の鳥が止まった。足についている文を取ると、式神は風と共に消えた。

「それって、リーくんの⁇」

「そう、定期的に連絡をくれるんだ」

 そう言いながら、モブは手紙を読み始めた。そう言えば、リーくんが遠征に行って結構な日数が経ったのだろう。何かあったのだろうか。

「おぉー、現地でめっちゃ魔物が大量発生したけど、全滅させたから安心しろだって」

「へぇー、さっすがリーくん!!」

 そう言うと、モブはだろっと言いながら笑った。

「でもさ。あの時、捕まえといてよかったな」

「えっ⁇誰を⁇」

 私が不思議そうな顔で首をかしげながら質問すると、モブも不思議そうな顔で首を傾げた。

「えっ⁇この前、松と一緒に捕まえた奴隷商だよ。アイツらが目指していた先がリヒト達の居るところだよ。んで、そこが今の俺達が目指している村だよ」

「ほぇ……んっ⁇」

 私は感心と共に、疑問が頭によぎった。

 確か、ゲームで訪れる最後の村、楽しみの村は壊滅していて跡形もなかったはずだ。村付近にはたくさんの死体や壊れた馬車、魔物の残骸ざんがいが落ちているのだ。

 そんな光景を見ながら、主人公は死者へのとむらいとして祈りを捧げるのだ。そこで、主人公は祈りの力を発揮するのだ。

「遠征へ行ったのは、奴隷商を捕まえるためだったんだけど、まさか魔物が現れたとわな……俺だったら、じゃねぇか」

 そう言って、モブは笑っていた。


 ――そうか!!謎は全て解けた!!!!


 本来なら、山賊が人攫いをして奴隷商に捕まえた人間を売る。だが、私が山賊を倒してしまったがために、人間を売る山賊が奴隷商の元へ来なかった。そのせいで、奴隷商はすぐに移動せずに、あの場所で待機していた。そこに私とモブが現れて捕まえたから、現地に奴隷商が現れることは無かったと言うことだ。

 そして、本来ならリーくんが怪我をしてしまい、代わりにモブが部隊長として行くことになるはずだった。そうなっていたら、魔物と戦えないモブは苦戦をいられるし、そんな中、奴隷商が来てしまったら、捕まっている人間を救うためにモブは無理をするだろう。

 だが、リーくんを襲った不審者は私がしっしと追い返してあげたし、奴隷商は旅立つ前に捕まえた。そして、リーくんは人間相手は弱いけど、魔物相手なら最強だ。今回の遠征は圧勝だったのだろう。


 そう考えると、モブは本来なら楽しみの村で命を落とす設定だったのか。多分最後の逃げる手段であろう導き石も、他の人に使ってしまうに違いない。


 私はため息をついて、モブの顔を見た。

「どうした⁇」

「モブ……あんた、私のおかげである命なんだから、私に感謝しなさいよ」

「えっ⁇あぁ……ありがとう!!」

 満面の笑みで私にお礼を言うモブを見ながら、私はえらそうに頷いた。

 モブからすれば、ゲームの内容も知らなければ、今回のもしもストーリーなんて知るよしもない。

 まるで私はダークヒーローのようだ。誰も知らないところで、すべてを解決するような……誰も知らない私の救世主物語とか悲しすぎるわ。

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