第8話 仲間を探して三千里(2)
予期していた不吉なものが的中したようだ。
演習場に着いた私は、鍛錬中の騎士達を見るが、そこにラルフの姿はなかった。
まさか、まだ魔の森の入口に倒れているのではないかと焦ってしまったが、とりあえず誰かに聞くことにした。
そこで、本来ならラルフの立ち位置である場所に立つ、背が高くて体格の良い男性に声をかけたのだ。
「すみません」
声をかけた人はラルフと同じ鎧を身に着けていることから、騎士団の偉い立場の人なのだろう。角刈りのような白髪頭に、顔には大きな傷を負った男性だ。課長よりも年上だろうが、体つきは会社の人間よりも良い。
鎧のせいで体格が良く見えるのかも知れないが、こんなゴツくて重そうな鎧なのだ。外しても、良い身体付きだろうと予想される。
会社の人間と比べるのは、申し訳ないくらいだ。
その男性は私に気付くと、驚いた顔をして身体ごと私に向けてきたのだ。
「おぉっ、貴方様は救世主の松子殿ではないですか!!」
そう言うと、大きな身体で直角を描くようにお辞儀をしてきたのだ。
「部下より聞きましたが、山賊どもを
男性はそう言い終わると、演習場に響き渡るほどの大きな声で笑った。鍛錬中の騎士達が驚いて、手を止めるほどだ。
現実世界にいたら、体育教師とか似合いそうだ。だが、それよりも言いたいことがある。
「あのですね!!私を松子って……」
「そう言えば、自己紹介がまだでしたな。私はレンダース・シュミラーゼと申します。騎士団団長を務めております。以後、お見知りおきを!!」
私の話を
(レンダース……シュミラーゼ????)
私はぽかんと口を開けて、シュミラーゼと名乗る男性に目が釘付けになった。
相手は私の話を遮ったと気づいたようで、少し慌てていた。
「いやー、すみません!!いつもこんな感じなので、聞き逃してしまって……もう一度伺えますかな??」
私は、開いた口を動かそうと力を込める。もしかしたらの可能性……緊張が走る。
「もしかして……リーく……リヒト君の……????」
その言葉を放った後、私は
一瞬の沈黙が走ったのだ。
「いやーまさか、松子殿から
心配そうな顔で、私を見つめる騎士団長……いや、リーくんのお父さん……いや、お義父様は、太陽のように
「はて……そう言えば、先程何か……」
「はい!!殿なんて付けずに、松子とお呼びください!!お義父様!!!!」
私はまるで、小学校の授業参観に来た親に良いところを見せようと張り切る子どものように、手をピンッと上げて返事をしたのだ。
そして、お義父様を見つめる私の瞳は、天使のように
「……はっはっはっ!!!!松子殿は冗談がお好きなようですなー。救世主様を呼び捨てになんてできませんぞ」
そう言うと、お義父様は子どもをあやすように私の頭をポンポンと
「異界から来られたのだ。独り身で寂しいのでしょうな。いつでも我が家に遊びに来てくだされ」
そう言って、お義父様は元の位置に立ち直り、騎士達の指導を再開したのだ。
(これはチャンスかもしれない……)
私はラルフのことなど忘れて、お義父様の仕事が終わるのを待ち、一緒に家に帰宅したのだ。
「えっ??何でいんの??」
驚きのあまり、私は声に出してしまった。
お義父様のご厚意で夕食に招待された私は、リーくんのいる家に来たのだ。
お義父様の後ろについてダイニングルームに入ると、リーくんの声が聞こえたのだ。
神はまだ私を見捨てていなかったのだと、感激しつつお義父様の影から顔を出すと、リーくんが居たのだ。
ただ、その向かい側には、またしてもモブが居たのだ。
モブを見た瞬間、嫌な顔とともに言葉を発してしまった。慌てて口を
「いや、それはこっちの
またしても言い返すことができずに、ぐぬぬと悔しがっていると、お義父様は大声で笑ったのだ。
「いやーまさか松子殿は、私の倅達と知り合いとは本当に驚いた。これもなにかの縁ですぞ。今日は楽しんでくだされ!!」
結論から言おう。
夕食は最高だった。何を食べたかは覚えていないが、リーくんの食事シーンを
ナイフで肉を切る
その肉を口に運ぶときに少し目を細める
苦手な野菜を食べるときに
目を
グラスに口をつけるところ、
ゴクゴクと美味しそうに飲む姿と
もう、
感動して目を
私の隣の席に座ってるモブに、肉を奪われていたのだ。だが、お腹いっぱいの私は怒ることなく、澄んだ目でモブを見つめてやったのだ。
食事が終わったリーくんは、挨拶もそこそこに自室へ戻ってしまったのだ。
そこからはお義父様の長話に付き合わされて、
扉をノックすると、はいっと言う
「あーっ救世主の松子様だっけ。
「いや、様なんていりません!!まっ松子と呼んでください!!それに敬語も不要です!!!!」
緊張して言葉が震えているが、笑顔だけは
「んっ……わかった。で、どうかしたの??松子」
その言葉にクリーンヒットを受けた。
松子ーー
何と良い響きなのだろうか。このまま死んでも悔いはない。初めて自分の名前が松子で良かったと思えたのだ。
感動で身震いをしてしまい、言葉を出すことができなかった。少し沈黙が長かったのだろうか。リーくんが困った顔でこちらを見つめている。
「あの……さ、申し訳ないんだけど、明日早いからもう寝たいんだけど……」
「あっ、ごめんなさい!!あの……その……」
心臓が今にも飛び出しそうなほど、ドキドキが止まらない。
攻略対象のイベントとは異なっているが、お義父様が出てくるくらいだしリーくんの裏ルートの可能性もある。
私は、この運命の再開にすべてをかけた。
「私、リーくんのことが好きです!!!!」
言ってしまった……ゲームと違う展開だから、どんなリアクションがくるかわからない。
リーくんは驚いた顔をして、固まっていた。その後、悩む姿をしていた。
「……えっと……ごめんね。俺、年上が好きなんだ」
リーくんは最初、主人公は年下なので妹のようだと可愛がるのだ。だが、大丈夫。私は年上だから。
「リーくん、私……年上だから」
キラキラとした瞳で、リーくんを見つめる私。リーくんは少したじろいだ後、困った顔をしていた。
「怖いから。だよね」
後ろから、声が聞こえてきた。振り返るとモブが笑ってみていた。
リーくんに振り返ると、気まずそうな顔をしながら扉を締めたのだった。
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