第9話 旅に出る準備はオワタ(1)
リーくんに逃げられた私・名川松子は、悲しみに暮れていた。だが、それと同時に怒りが
涙を
「……何が怖いのよ」
「えっ⁇今にも襲いかかりそうなギラギラした目で、じっとりと見られたら怖くない⁇遠目から見ても、リヒトの身に危機が
そう言うと、モブはハハッと笑った。
そんな
「なぜ!!??」
私は力強く声を
ゴホンッ――
大きな咳払いが聞こえたのだ。咳払いをした人へ視線を移すと、そこにはお義父様が立っていた。
「……いやー若いのは良いことですが、人前では気を付けていただきたいですな」
「はぃ⁇」
私は驚いて、力が抜けてしまった。その瞬間、モブは私の囲いを抜け出して、部屋に逃げてしまった。
「あっ!!ちょっと!!!!」
後を追いかけて扉を引っ張るが、鍵をかけたようで扉が開かないのだ。ガチャガチャと言う音だけが虚しく、廊下に響くのだった。
「いやー。
「ちがっ!!誤解です、お義父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
私の言葉なぞ聞こえんと言うくらいの笑い声を上げながら、お義父様は部屋に戻られたのだ。堪えていた涙が、
「まぁ……なんだ。旅に連れてってくれるなら教えるよ」
扉の向こうから、モブの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。私は涙を流しつつ、扉を睨んだ。
「ぜっっってぇぇぇ連れて行かねぇからな!!!!!!!!」
私は涙ながらに、リーくんのいるお家を後にした。もう夜も遅くなってしまい、ラルフのところへ行くには時間が遅い。
リーくんは……リーくんは明日、遠征に行ってしまう。私のことなど気に留めず、旅立ってしまうのだ。これまでゲームをしてきた中で、こんなに冷たい対応をされたことがあっただろうか。女性に優しいリーくん。主人公を可愛がるリーくん。
彼は……彼はどこへ行ってしまうのだろうか。
「……そっか」
私は立ち止まり、真っ暗な空に浮かぶ月を見て、ニヤリと笑ったのだ。
「魔王退治なんて辞めて、明日……リーくんに着いて行けばいいんだ」
そう言うと、私はフフフッと笑いながら歩き始めた。こんなに壊れたゲームのシナリオ沿って、馬鹿みたいに魔王退治なんて行く必要はないのだ。魔王退治なんて、城に残っているあの阿呆どもがわちゃわちゃ頑張ればいいのだ。私じゃないのだ。
「リーくん……待っててね」
そう言って私は、今日のリーくんを思いだしていた。ご飯を食べるだけで、あんなに感情豊かな彼の顔を思いだしながら……ただただうっとりとしていたのだった。
「えっ……⁇」
早朝、まだ日も出ていない時間に、私はリーくんの家に再び訪れたのだ。スキップしながら家の入り口前に辿り着くと、お義父様がいらっしゃったのだ。
お義父様に朝の挨拶をして、リーくんの所在を
「申し訳ない。少し前に出発してしまいましてな……松子殿から
そう言うと、お義父様はとても悲しい顔をされたのだ。
「いえ、大丈夫です!!皆……様……の、無事を祈っております……」
この言葉以外、返すことができなかった。まるで捨てられた子犬のような顔をして、お義父様は私を見送ろうとしていた。私も予定外過ぎる展開にショックを受けていたので、そのまま立ち去ろうとした。
「……松子殿⁇どうされましたかな⁇」
少し離れたところで、私は足を止めた。リーくんの道が閉ざされた以上、目指すべき道は一つしか残されていないのだ。
私は急いでお義父様の元へ戻り、目をカッと開いて問いただしたのだ。
「お義父様!!副団長のラルフは今、どちらにいらっしゃいますか!!⁇」
日が昇り、町は活気に溢れている。裏道を元気に走る、子ども達の声が聞こえてくる。
「いやーすみません。こんなところまでいらっしゃって戴けるなんて光栄です」
そんな男、副団長のラルフは私が突然の訪問に驚いていたが、
「いえいえ。それよりも、腰は……良くなりました⁇」
「はい!!明後日には、騎士団に復帰する予定です」
そう言うと、ラルフは微笑んだのだ。
彼は私と魔の森へ旅立ったのだが、魔の森の直前に山賊に襲われて倒れてしまったのだ。そう、すべては山賊が現れたせいなのだ。決して、私のせいではない。
「しかし……松子殿はやはり凄いですね。あの山賊らを壊滅させるだけでなく、改心させてしまうとは……私はまだまだですね」
そう言って悲しむラルフの顔を見ながら、私は思ったのだ。ラルフは強いのだと。魔王戦でも壁になり、主人公を守り続けるほど頑丈な盾になれる男なのだと。
ただ、そんな頑丈な男なのに、腰だけは打たれ弱いと言う弱点が惜しいのだ。まだまだなのは腰だけなんだと言ってやりたいが、心の内にギュッと押し込めておいた。
「そうしましたら、これから魔王を封印するのに必要なクリスタル集めの旅に出るのですか⁇」
「はい。四つのクリスタルを集めて、魔王退治をする予定です」
いつもの調子が出ないように、まっさらな心でラルフを見つめた。今なら誰がどう見ても、私は主人公であろう。
「そうなんですね……松子殿」
そう言うと、先ほどまで微笑んでいたラルフの顔がキュッと締まり、真面目な顔をしていた。
「はい……なんでしょう⁇」
次の返事が分かっていると言うのに、私はわざわざ
これで、何とか一人だけ仲間をゲットできるのだ。この後はラルフを連れて、モブの前に行ってギャフンと言わせた後、今までの非礼を
今にもあくどい笑みを浮かべそうな顔を必死に抑えて、私は天使のような笑顔を浮かべていた。
「……頑張ってください」
「はい。…………はぁっ⁇」
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