第8話 仲間を探して三千里(1)
「えっ??」
私・名川松子は、驚きにあまり声を
「執務に追われていてな。すまないが、同行はできかねる」
「私もこれから視察があるので、無理です」
まずは王子と思い、リクルンの執務室に来たのだ。そうしたら、運よくリクルンとスペアードが居たのだ。
リクルンは、この国の王子として戦うとか言っちゃうタイプだ。嫌だと言っても着いてきそうな男だ。それなのに、かなりの塩対応でお断りをされた。
スペアードにも声をかけたが、ぶっちゃけスペアードは戦力外だ。特殊イベントをこなすと連れて行けるレアキャラだが、レベル一の主人公よりも
だが、モブにギャフンと言わせるためにも、
「えっ??えぇっ!?だって、魔王退治ですよ??勇者誕生ですよ??
「いいや、まったく」
リクルンは冷たい目でこちらを見ながら、ニコリと笑った。
いつも優しく品行方正、国と民を愛し、異界から来た主人公を誰よりも愛する設定のリクルン。そんな彼のイメージとはかけ離れた存在が、ここにいる。そもそも、
本当にこれはリクルンなのだろうか。まさかリクルンはもう死亡していて、別の人が座っているんじゃないかと疑ってしまう。
私はリクルンの顔、横顔、後ろ姿、足元すべてを
リクルンから、先程よりも冷たい空気を感じてきた。
困った私は、助け
「そんなことより、書庫の整理をしたほうが有意義でしょう」
コイツは一回、黙らせたほうがいい気がする。書庫はスペアードの特殊イベントが発生する場所だ。
スペアードを探して、主人公が書庫へ
そこには、本に埋もれたスペアードがいるのだ。
書庫は何十年も掃除や整理整頓がされていない場所で、
そして、スペアードの代で本らは限界を迎え、スペアード
それほど汚い場所なのに、わざわざ整理なんて言う時点で、コイツは行く気なんて皆無だ。
そう思うと、更に怒りが込み上げてくる。だが、
しかし、コイツらにはガッカリだ。
「はぁ……確か、入り口の前に見張りがいたと思うが⁇」
リクルンはため息をついて、下を向きながら言った。
リクルンがため息をつくのは、主人公がスペアードルート、つまり一人で旅立とうとしている時にだけ見れる貴重なものだ。そこで抱きしめられて、一人で行かせたくないと引き止めるイベントが発生する。君を危険な目に合わせたくないと、リクルンは目を
そんな
なんだろう……もしかしてリクルンは、入り口を見張っていた二人組のどちらかに抱きつきに行くのだろうか。
ジトッとした目でリクルンを見ていると、リクルンがこちらを
「あー、なんか最初は扉の前に立って
実際は開けてくれなかった。だから、王子と私の仲なのだよと課長風に言って、肩をポンポンと
肩を叩いた瞬間、二人して肩を抑えながら崩れ落ちたのだ。肩がと奇声を上げる二人を
「はぁ……まぁよい。もう用が済んだなら、出ていってくれるか⁇」
思った以上に冷たいリクルンの対応に、私は心が折れてしまいそうだ。しっしと追い払うジェスチャーをされて、私は苦虫を
リクルンは氷のような顔で無表情、スペアードは太陽のような優しい笑顔を浮かべていた。
ゲームとは真逆の二人に、私は
トボトボと執務室から出た私は、落ち込んだ心を
そう、向かう先は騎士団の演習場だ。そこには、騎士団副団長のラルフがいる。ラルフは騎士達の訓練を指示し、自身も鍛錬しているのだ。
ラルフとは魔の森の時、良い雰囲気だった。誰よりも好感度の高い男だったのを覚えている。
そう言えば、山賊達の後処理に追われて忘れていたが、ラルフはちゃんと城に帰ってきているだろうか。
まぁ、誰一人としてラルフを探していないところを見ると、無事に戻れているのだろう。
ふと、足を止めた。
「もし……ラルフの腰がまだ駄目な状態だったら、演習場にいないんじゃね??……そしたら、ラルフは……どこにいるの??」
ラルフとは演習場以外、会うことはなかった。ゲームでラルフを探し回ったことがあるのだが、その時も影一つ無かったのだ。
ラルフが演習場以外の場所にいるのは、ファーストコンタクトの場所である主人公の部屋と、魔の森から帰還した際の王の間だけだ。
もし……万が一いなかった場合、私はどうすればよいだろうか。
不吉な思いを抱えながら、ゆっくりと演習場へ向かった。
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