第3話 休憩とジャガイモ

「あ、あのー!」


 となりをあるいているプティーがなにかいいたそうだ。たちどまりますか?


 はい

→いいえ


「ちょ、ちょっと!! 流石に休まなすぎじゃない? 魔物のボクですら、くたくたなんだけど」

「僕は全然疲れてないよ」

「私も」

「アリュは頭の上にいるだけだから、一切歩いてないでしょ?」

 と言ったと同時におでこを根っこでぱしっと叩かれた。


「そうだ! じゃあボクも頭の上に」


 プティーは言葉と同時にドロドロと溶け始める。人の形がジェル状に崩れていく。き、気持ち悪い! そして、最後には雪玉みたいにまんまるになった。水色スライム玉だ。顔? 顔ということにしておいて、顔には目玉だけが張り付いている。大きさとしては両手で手軽に持てる二十センチくらいかな。


「そんなコンパクトになれるなら、早くなってればよかったのに」


 ……。返事がない。


「ねぇ、ルート。もしかしたらその形状になると、口がなくなるから喋れなくなるんじゃないかしら?」

「そんなバカなことあるわけ」


 足元のプティーを見下ろすと、うなずいている。


「蹴ってくか」

「そうね」


 プティーは頭を必死に横に振っている。


「冗談だよ。頭の上はアリュの場所だから、プティーはリュックの中に」


 リュックをおろして、中を開く。ジャガイモが詰まっている。そういえば、そうだった。食料が入っているんだった。と、ジャガイモを少し捨てていこうとしたところで、プティーはそのままリュックに飛び込んだ。ジャガイモがスライムの中に取り込まれていく。ジャガイモのスライムコーティング。


「ねぇ、アリュ。どういうことだと思う?」

「私に聞く?」


 顔を見合わせるふたり。


「どうせ僕には食べられない物だから、実害はないけど」


 僕は静かにリュックを閉じてから背負い、歩き出した。



 シェルターに向けて歩き続けている途中で、プティーが伸ばしたスライムで、僕の肩を叩く。スライムとか、根っことか、変なものに上半身を叩かれることが増えた気がする。仕方なく、リュックをおろすと、プティーが飛び出してきて、徐々に人の形に戻っていく。


「お疲れ様。道は間違ってないかな? ボクの足跡を逆にたどるだけだからね?」

「大丈夫。灰色の雪は降り続けてるけど、旅をはじめてからに比べると、降る量も減ってきたからね。足跡はまだギリギリ確認できるよ」


 よかったよかった。とプティーは笑う。


「そうそう。ジャガイモ。蒸かしておいたから食べなよ」

「「えっ!?」」


 アリュと僕は喜びの声を上げる。久々の食料だ! リュックから急いで温かい二個を取り出して、一個はアリュに、もう一個はそのままかぶりつく。


「本当だ。蒸されてる!」

「ホクホクで、甘くて、美味しいぃ~」


 溶けて落ちてしまいそうな頬を手で押さえながら、アリュはジャガイモを食べていた。もちろん、僕も。


「プティーは? 食べないのかしら?」

「ボクは、もう食べたんだ。生のジャガイモを二個ほど食べたけど、そのエネルギーを少し使って茹でたんだよ。変な体でしょ?」

「変でも何でもいい。助かるよ」


 これでしばらく食料の問題はなくなった。そもそも疲れないし、お腹が空いた感覚は退化しているのか、感じにくいから大きすぎる問題ではなかったけれど、それでもアリュはお腹が空いていたかもしれないし、問題が減るのは良いことだ。


「お腹も満たせたし、今日はここで休みましょう? ルートずっと歩きっぱなしだし、疲れてないとしても休んだほうが良いと思うわ」

「ボクも賛成だよ。ルートくんの疲れの感じなさは異常すぎる。歩く速度がちっとも変わんないんだもの」


 僕は浅くうなずいて、二人の説得を受け入れる。もうちょっと歩けそうだったけど、朝なのか夜なのかもわからない薄暗い雪原をずっと歩いているから、感覚がおかしくなっているのかもしれない。


 溶けたビニール袋を雪の上に敷いて、そこにあぐらをかく。アリュは組んだ足の上にやってくる。


「そ……いえば……」


 急に眠気が襲ってくる。やっぱり、僕は疲れてたのか。どうなってしまったんだろう、僕の体は。やっぱり……。

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