輝かしい過去

概要:Twitterでお題をもらって書いたものです



「あなたの人生は、きっと素晴らしいものだったのね」

彼女はそう言って、私の指を振り払った。

遠のく彼女を見下ろして、汚れた手を付いた。

彼女が愛用していたラメ入りのパウダーがささやかに光り、甘いミルクの香りがした。

いつから、私の人生は、こんなにも嘘で塗り固められてしまっただろうか。

蘇える過去のページは、どこまでが本物なのだろうか。


しんしんと雪が降り積もる田舎町で私は育った。

学校へは片道一時間もかけて歩かなくてはならず、ゲームセンターもなければ、子供の買い物は村で一件の駄菓子屋のみだった。

遊びはもっぱら野山や川原で、虫や蛇を捕まえたり、魚を採ったり、野苺やアケビを皆で頬張った。

現代技術の恩恵など何一つない田舎町であったが、僅かな瞬間が煌びやかで、目に映る全てに照明が当たっているようだった。

そして、何よりも、私は人に恵まれた。

恩師との出会いは、私を夢へと駆り立て、両親は私の意志を尊重し、いつだって支えてくれた。

「いつか大物になろう」と夢を語り合った友と、起業という大きな夢を成功させるまで、本当にたくさんの人に救われてきた。

もちろん、平坦な道ではなかった。

失敗や挫折、不安に呑まれそうになることも一度や二度の事ではない。

それでも、その後掴んだ大きな光に比べれば、些細な事のように思える。


湧き上がる記憶が、ぐるりと一転したのは、友の手を切り離したあの時からだ。

代表取締役として目まぐるしくも華やかな世界を駆けまわっていた私を、いつでも裏で支えてくれていた友の行為は、私に対する侮辱であった。

仕事を支えてくれた友が、私の心を支えていた妻を奪ったのだ。

突然の裏切りは根深く、掘れば掘る程に、友の裏切りが露呈する。

嘘だと喚いた私に叩きつけられた現実は、到底許せるものではなかった。


彼女の皮肉に満ちた言葉が反響する。

素晴らしい人生とは、何を指していたのだろう。

運に恵まれた若き日か、それとも…

「君がいたから、世界は輝いていた」

甘い言葉も、崖の底には届かない。

立ち上がり、土を払う私は、彼女に別れを告げる。

踵を返し、車へと戻る私を、部下たちが見守っている。

漆黒に染められた車に身を乗せ、私は煙草をくわえた。

「行こうか」

後は彼らが全て上手くやってくれるだろう。

「社長、西で捕まった奴がいるらしいです」

「あぁ、西なら問題ない。あそこの署は、私のシマだよ。どうとでもできるさ」

開いた手帳に書連ねられた細かな文字を見つめ私はほくそ笑む。

まだ、この光を過去のものになどしない。

手帳に書かれた数字を見つめて、目を細める。

今月の売り上げも、上々のようだ。

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