クローン
概要:Twitterでお題をもらって書いたものです
最新科学の結晶だと、皆が私を賞賛した。
博士は私の頭を撫でて、微笑んだ。
けたたましく降り注ぐフラッシュの中、私はぼんやりとしていた。
まだ、自分自身の存在を理解していなかったからだ。
ふと、隣を見ると、私と同じくらいの少女が座っている。
彼女は私によく似ていて、背格好も、亜麻色の髪も、ターコイズブルーの瞳も、そばかすの位置さえもそっくりだった。
ただ、ぽかんと彼女を見つめる私に対し、彼女は頑なに私から視線を反らしていた。
様々な質問がレンズの向こうから飛んできては、博士が意気揚々に答えている。
自慢気に博士は私を紹介していた。
隣の彼女はその度に口を歪ませて俯いた。
その顔が、机にめり込んでしまうのではないかと思うほどに深くなった頃、一つの質問が投げかけられた。
「娘さんは、本当にそちらでしょうか」
その人は、彼女を手のひらで指していた。
その質問に、博士は答えられなかった。
彼女が机を強く叩き、飛び起き、怒涛の勢いで返答をしたからだ。
「どうして私が偽物なの?」
肩を震わせ、涙ぐみ、彼女はたくさんのレンズを睨みつけていた。
数秒の後、その目は私に向けられ、顔を酷く歪ませた。
それは、嫌悪というものだろうと、私は理解した。
逃げるように部屋を飛び出した彼女を博士は追わなかった。
「突然自分と同じ人間が現れたら混乱もするでしょう。じきに打ち解けますよ」
そう言って、笑うのだ。
博士が笑うのならば、問題はないだろうと、私は判断する。
私の背に添えられている博士の手は温かく、私の鼓動を落ち着かせた。
たくさんの視線からようやく解放され、私と博士は私の部屋に戻る。
たくさんの本と、たくさんの写真、たくさんの映像がこの部屋に詰まっている。
どれも同じ少女が登場するそれを、私は毎日見ている。
ソファーに座った私の頭を博士が撫でる。
「どうしても、同じものが欲しかったんだ」
博士が私を抱きしめる。
私の目に、写真が写る。
亜麻色の髪を編んで、真ん丸のターコイズブルーの瞳を向けたそばかすの少女が満面の笑みで花束を向けている。
幼い少女の隣には、私の知らない女性がいる。
博士は“おかーさん”といった女性が、少女を愛おしそうに抱きしめている。
私は、その人に会ったことがない。
博士は会えないといった。
少女は彼女の物だから、私は博士の物らしい。
「全部覚えるんだよ。同じになるまで、何度も、何度も見るんだ」
博士が動画を画面に映す。
簡素な服に、管を引きずった少女が女の人に連れていかれる様子が見える。
女性にしがみつく少女の表情は衰弱し、ひどく怯えている。
カメラに向かって、女性が大きな声を出した。
「「二度とこの子に触らないで。こんなことをして、許されると思ってるの?」」
私は、その部屋を知っている。
それは、私が目を覚ました部屋だからだ。
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