魔法の世界
差し込む春の陽光に照らされて、僕は目を覚ました。綺麗にかけられた制服、感じたことのない四肢の感覚、聞いたことのない穏やかな音色、その全てが、僕に生を実感させた。僕は生きている、今ここに。
むくりと起き上がって、辺りを見回す。この部屋からはなぜだか懐かしい雰囲気を感じる。意識がはっきりとしてくればしてくるほどに、五感がそれを訴えかけてきた。
今度は立ち上がって、部屋を一通り歩いてみる。なぜだか少し歩きづらい、何度か躓きそうになりながら、僕は歩いた。そうすると、部屋に置いてあった大きな姿見の前で自ずと足が止まる。
…。
鏡の中には、見たことのない僕がいた。だけど、自分がどんな人間だったかはわからない。僕が知っている自分も、今の僕には思い出せないようだ。
鏡の中に目を奪われていると、襖が開く音が聞こえた。
「目が覚めたんですね、良かったです!びっくりしたんですよ、今朝ゴミ捨て場で倒れていたんですもん。体は大丈夫ですか?」
目の前の女性の言うことに心当たりは無かった。というより、よく考えてみればここに来るまでの記憶が一切ない。
何か話さないといけない。そう思った僕は、文脈など考えず言葉を連ねた。
「いえ!あの、僕は、えっと、とりあえず、あ、ありがとうございました。」
感謝の気持ちを込めて、できるだけ深く頭を下げた。
返答はない。恐る恐る顔を上げる僕だったが、そんな僕とは対象的に、彼女は頬を緩ませながら、こう微笑んだ。
「おかしな人。」
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