第5話 ここで子作りをしてくれてもいいんだよ?
フローラは熱のこもった瞳で俺を見つめ、そして、ぽんと手を打った。
そして、密着した状態の俺から離れ、一歩後ろに下がり、いたずらっぽく人差し指を立ててみせた。
「イチャイチャするまえに、これからのことを説明しないとね?」
「そうだね。俺は何をすればいい?」
「何もしなくていいんだよ?」
フローラは微笑んだ。
そうだった。
俺は何もする義務を負わず、フローラの夫として子作りに専念すればいい。
政治はフローラ自身が行うのだろう。だが、形だけとはいえ、男の皇帝が必要なのだ。
それが俺だ。俺は存在するだけでフローラを救うことになる。
一方の俺は、何もせずにだらだらのんびり暮せばいい。
とはいえ、まったく何もしなくていいということは無いと思う。
「結婚式みたいなのは無いの?」
「あ、カズキさん。結婚式したいんだ? わたしも憧れなの。ウェディングドレスを着て、好きな人といつまでも一緒にいるのを誓うのって、ロマンチックだよね」
どうやら、この世界も、地球と似たような結婚式の文化があるようだった。
でも、「好きな人」という部分だけは、俺では期待に応えられないな、と思う。
恋愛結婚の自由があれば、フローラみたいな可愛くて明るい少女なら、誰だって好きになってくれただろう。
本当に好きな人と結婚することもできたかもしれない。
フローラは、そんな俺の内心に気づいたのか、優しく微笑んだ。
「これから好きになっていけばいいんだよ」
「……そうだね。そのとおりだ」
「それに、わたし、カズキさんのこと、きっと大好きになれる気がしているの」
フローラはふふっと楽しそうに、青い瞳を輝かせた。
そうなればいいのだけれど。
俺にとっても、フローラという少女のことを大事な存在となっていく気がする。
フローラは見た目がストライク直球で好みの美少女だし、それ以上に、そのまっすぐな明るさが俺にはまぶしく、そして心地よく思えた。
フローラは言葉を続ける。
「結婚式はね、来週に行う予定」
「来週!? それはまたずいぶん……早いね」
「そうなの。普通だったら、皇女の結婚式は招待客も多いし、準備に時間をかけないといけないんだけど……」
「急がないといけない理由があるんだ」
フローラは少し表情を暗くして、うつむいた。
そして、言いづらそうに、小声で言う。
「時間が経つとね、カズキさんが皇帝になるのを、貴族や他の国が反対するかもしれないから。その前に、話を進めてしまいたいの」
「ああ、なるほど……」
「それに……そうしないと……わたしやわたしの妹をさらって……その……無理やり子どもを作らせようって貴族もいるかもしれないし」
「え?」
「皇女と既成事実を作って、結婚してしまえば、自分が皇帝になれるって考える貴族もいるの。実際、そうされたら……わたしは……」
フローラは消え入るような声になった。
そうなれば、打つ手がなくなるということなんだろう。
ここは現代日本ではなく、中世に近い世界だ。
フローラを手篭めにして妊娠させてしまえば、その子どもが皇位継承権を持つ。
そして、無理やりフローラと結婚すれば、大貴族なら、その立場を利用して権力を握ることも可能なのだろう。
俺は戦慄した。
「……そんなことには絶対にさせない」
俺が言うと、フローラはびっくりしたように俺を見つめた。
そして、フローラはちょっと嬉しそうな顔をする。
「守ってくれるつもりなんだ? ありがとう。でも、わたしにも親衛隊がいるから、少なくともすぐに襲われたりはしないから、安心してほしいな」
裏を返せば、今後の状況の変化次第では、フローラが誘拐され、手篭めにされる可能性もあるということだ。
だからこそ結婚式を急ぐ必要がある。
「わたしを守ってくれるなら、いい方法があるの」
「それは?」
「わたしを妊娠させることだよ」
フローラはさらりとそう言った。
たしかに俺が妊娠させてしまえば、他の貴族たちもフローラをさらって既成事実を作るなんてことはできなくなる。
フローラは上目遣いに俺を見つめた。
そして、顔を耳まで赤くする。
「だからね、今ここでわたしを押し倒して……子どもを作ってくれてもいいんだよ?」
<あとがき>
皇女の妹もそのうち登場予定です。ちなみにヒロインたちが寝取られることはないのでご安心ください。
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