ミチコは僕の顔を見てニヤリと笑っている。少しやつれた感じはしたけど、ミチコはやっぱりミチコだった。

「あの子は元気なの」

「元気だよ」

「どこにいるの」

「場所は教えられない」

「そう。でも安心しているの。あなたと一緒なら」

 ミチコは僕だとわかっていたのだろうか。取り乱しもせず、やけに落ち着いていた。

「ねえ、時間あるの」ミチコが僕にきく。

「あるでしょう。仕事してないみたいだし」

 ミチコはそう言って席を立つ。喫茶店を出ると、ミチコは駐車場にある自分の車に僕を乗せた。

「ママに会った」

 アサミが僕に近づいてきてこう言う。

「わかるんだね」

「わかるよ。ママの香水のにおいがするもん」

「またママに会うの」

 アサミが僕の顔をじっと見ている。

「もう会わないと思う」

 僕がポツリと言う。僕はベッドにも使っているソファーにすわった。アサミはニヤニヤしながら僕のとなりにすわる。

「ねえ、あたしずっとここにいてもいいよね。ママはお金くれたの」

「少しだけね」

 ファミレスの窓際にすわって、僕は外の様子をうかがっている。ファミレスの前の大きな通りは、僕たちのいる山のほうまでのびている。街灯のあかり以外は、ポツリポツリと通る車のライトが光るだけ。アサミは自分の前に置かれたアイスレモンティをストローですすっている。

「ハンバーガーはないのかな」僕はメニューを見ながらそうつぶやく。

「あるわけないじゃん。ファミレスだよ。マックじゃないんだから」

「ファミレスだってあってもいいのに」

 人気のないレストランの窓際で、どこまでも続くハイウェイを眺めながら、大きなハンバーガーにかじりついている男。

 男の向かいには疲れ切った表情をした彼の恋人がすわっていた。

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壊れた朝 阿紋 @amon-1968

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