「おかえり」

 僕の乗ったバイクの音が聞こえたのだろうか。アサミは小屋の外に出ていた。

「この辺は何もないんだね」

「昼間はあまり外に出ない方がいい。暑いから」

「そんなに遠くまで行ってないよ」

「何買ってきたの」

 アサミは僕がぶら下げているビニール袋の中をのぞく。

「冷蔵庫があればいいのに」

「電気がきてないんだ」

「でも夜は明るいよ」

「夜だけ発電機をまわす」

「これからカレーを作る」

「ごはんは」

「鍋で焚く」

「今日はごちそうだね。あたしも手伝う」

 アサミはなぜここにいるのかを知っているのだろうか。

 もう日が暮れかかっている。

 僕はエミちゃんとの約束を破ってしまったことを少し後悔していた。ビルの片隅で待っているエミちゃんのことを想像してみる。愚痴を聞いてあげればよかったかな。相手は僕じゃなくてもよかったはずだけど。誰かに電話しただろうか。やっぱりケータイは必要か。

「何考えてるの」

「ケータイってお金かかるのかな」

「持つだけならそんなに。プリペイドもあるし」

「使ってもいいよ」

 どこから出してきたのだろう。アサミが僕にケータイを差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る