第19話 異変


 屋上へと続く階段を上っていく中、私たちを捕まえようと、武装した男たちが次々と襲い掛かってくるが、それは全て、れいさんが撃退していき、今では私たちを追ってくるような人は誰一人としていなかった。


燈弥とうや……燈弥とうや……!」


 ただ、階段を上っている間も、燈架とうかさんはずっと自分の兄である燈弥さんの名前を呟いていた。


 それは、燈弥さんに向けた感情なのか、はたまた自分自身に問いかけているのかは、私には判断できない。


 それでも、私が――私たちがやるべきことは変わらない。


「はぁ……はぁ……!」


 そう意気込んでいたものの、心と身体は乖離してしまっていることを自覚させられる。


 ああ、こんなことなら、毎朝ランニングくらいはしておけば良かった!


「……ここか」


 しかし、私の不満が神様に届いてくれたのか、ようやく長い階段を上り切った私たちの前に屋上へと続く扉が、ようやく姿を現す。


「……いくぞ!」


 そして、れいさんは燈弥さんがいた部屋に入ったときと同じように、扉を手加減なしで蹴り飛ばす。


 扉が破壊され、エアポートで立ち止まっている燈弥さんの姿があった。


「……燈弥!!」


 彼の姿を見つけ、そう叫ぶ燈架さん。


 そして、燈弥さんもその声に反応して、振り返る。


「……しつこいよ、燈架」


 少し声を落とした後に、睨みつけるようにこちらに視線を向ける燈弥さんだったが、取り巻きと思われる両端の男たちが、私たちに銃口を向ける。


「待て」


 だが、意外にも燈弥さんは、それを制止する。


「そんなにボクを止めたいっていうなら、迎えが来るまで相手をしてあげてもいいよ」


 そう告げて、自信に満ちた顔でこちらに近づいてくる。


「へぇ、逃げ腰かと思ったが、別にそんなことはねえって感じだな」


「当然だよ。今のボクは『特別』だからね」


 燈弥さんは、わざとらしく手を広げて、自己をアピールした。


「いいぜ。子供に説教するってのは性に合わねえんだが、目ぇ覚ますくらいの手伝いはしてやるよ」


「うん、暇つぶしくらいにはなってよね」


 そう言って、燈弥さんは右手を零さんにかざしたときだった。


 上空から、プロペラが回るような音が聞こえて来たのだ。


「……なんだ、もう来たんだ」


 つまらなそうにそう呟いた燈弥さんは、そのまま上げていた右手を下ろしてしまう。


「もう少し、遊びたかったんだけどな」


 そして、待機していた男たちに向かって、彼は告げる。


「じゃあ、ボクはもう行くから。そいつらの始末は、やっぱりお前たちに任せるよ」


 そう命令されて、すぐに燈弥さんの元へと駆けつけた男たちは、1人は零さんに武器を向けたまま、そしてもう1人は、燈弥さんの前に立ち、彼に告げる。



『――桐壺きりつぼ燈弥とうや




 ――ドクンっ。


 ――私の心臓が、止まったような感覚に襲われる。




「零さんッッ!!」


 気づいたときには、私は零さんの名前を大声で叫ぶ。


 だが、もう遅かった。



『お前の処分は、我々が行うことになった』



「……は?」


 そんな燈弥さんの声が漏れた瞬間。


 彼の首に、注射のようなものが差し込まれた。


「なっ……おま……えっ!!」


『それが、ボスからお前への最後の土産だ』


「う、うあああああああああっっっ!!!」


 燈弥さんの絶叫が響いた瞬間、彼の全身が燃え上がった。


「下がれっ! 紫音しおん!!」


 そして、私と燈架さんを無理やり押した零さんは、燈弥さんに向かって一気に駆けていく。


 だが。


「くるなぁ……くるなあああああああああああああっっっっ!!」


 燈弥さんは、喉が張り裂けそうな声を出したまま、零さんに向かって『異能』の炎を振りかざす。


「零さん!!」



 私は、再び零さんの名前を叫ぶ。


 だけど、無慈悲にも燈弥さんが放った炎は、零さんの身体を包みこんでしまう。



 ――その光景は、私がつい先ほど視てしまった、澪標零が死亡する瞬間と、寸分も違わないものだった。


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