第17話 再会と対面
「待たせたな。こいつらが例の『
すると、立ち止まる気配を感じたところで、変装能力を使った
『――よし、通れ』
機械を通した声だったので、おそらくインターフォン的なものに話しかけたのだろう。
今までは綱くんも逐一「ここ、段差あるから気を付けてね」など、優しい言葉をかけてくれていたけれど、今は一言も言葉を発さない。
きっと、もう私たちは相手の懐に入ったということだろう。
その証拠に、みんなの緊張感が伝わってきて、私もつい萎縮をしてしまう。
だけど、不思議と不安のようなものは一切感じなかった。
今の私には、零さんに綱くんに宗司さん。
こんなに心強い人たちが、近くにいてくれるのだから。
そして、零さんたちは余計な会話をすることなく、再び歩き出す。
先ほど、インターフォンの前で自動ドアが開くような音がしたから、多分、もう建物内には入っているのだろう。
そんな私の考えを肯定するかのように、私たちは(おそらく)エレベーターへと乗り込んだ。
そして、「チンッ」という、全く緊張感のない音がなると、再び誰かの声が私たちに呼びかける。
「こっちだ」
淡泊な返事だったけど、その野太い声は姿が見えない私でも筋骨隆々な男のイメージをすぐに浮かび上がらせた。
それに、気配はその男だけのものだけでなく、少なくとも2、3人は私たちを出迎える為に待っていたと思われる。
なんだか、この前お昼にテレビでやっていた海外の映画のワンシーンを思い出す。
あの映画は、潜入したビルが次々と爆発していったけど、流石にそんなことはないと信じたい。
ひとまず、相手は零さんたちが変装していることには気付いていないようだった。
なので、このまま上手く潜入できると思っていたのだが……。
「お前たちはここまでだ。後は我々が引き受ける」
おそらく長い廊下のようなところを歩いたのち、ある一定のところまで進んだところで急に立ち止まったかと思うと、またしても無機質な声が私に届く。
「……いや、我々も同行を続ける。何せ、この者たちは『
一拍置いたのち、そう返事をしたのは宗司さんだ。
当然、この先にいる黒幕と会う為には、こんなところで引き返すわけにもいかないのだが……。
「ならば尚更だろう。お前たちのような素人より、我々のほうが『
しかし、相手からの返答が変わることはない。
「……そうですか」
そして、宗司さんが口調を崩し、淡泊な声で返事をした、その時だった。
「素人ねぇ……。だったら、お前たちがちゃんと確かめなっ!」
そんな零さんの声が聞こえた瞬間、
「ぐはあっ!?」
男の苦しむ声と、骨が砕けるような音が同時に響く。
「貴様ら、まさか……!」
「残念、もう遅いよ」
すると、綱くんの得意げな声と共に、バチバチッ! と私の周りの空気にも電流が走った。
「――――!!」
今度は悲鳴すら聞こえないまま、代わりに人が倒れる気配を感じた。
「
そして、名前を呼ばれた私は、細工された縛られたロープを解いて、目隠しを外す。
「…………うわぁ」
すると、予想通りというか、黒服を着た恰幅のいい男たちが高そうな絨毯の上で倒れていた。
ただ、私が思わず声を出してしまったのは、その人たちを見たからではなく、仮面を外し素顔を晒した零さんが、およそ100kgはあろうかという巨漢の男の頭を右手一本で掴んでいたからだ。
確か、アイアンクローっていうんだっけ? 詳しくは知らないけど……。
ともかく、男は既に気絶しているのか、腕が力なくだらんと下がってしまっている。
そして、その光景に若干引き気味になっているのは私だけではないようで、隣にいた
「2人とも、やりすぎです」
「……チッ」
窘めるようにそう言われた宗司さんは、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔を浮かべると、持っていた巨漢の男から手を放した。
ドサッ、と鈍い音がしただけで、全くそちらには興味を示さない零さんは1人ぼやく。
「……これで、俺たちのことはバレちまったな」
「うん、あの監視カメラでちゃーんと見られてるだろうからね」
そう言った綱くんの視線を追うと、廊下の天井端に半球体型の防犯カメラが、こちらをじっと見つめているように感じた。
「でも、僕としては嬉しいかも。この趣味の悪い狐のお面も外せるしね」
綱くんは、もう必要ないといわんばかりに、手に持っていた狐面を適当に放り投げる。
「全く……あなたたちは……」
そんな2人の態度に、また宗司さんが呆れるのかと思ったが、彼は特に2人に注意をすることなく、代わりに私たちにこんなことを告げてくる。
「ですが、紫苑さんと桐壺燈架さんを解放してあげることができたのは良かったかもしれません。いくら仕方のないことだとはいっても、やはり女性にこのようなことをして頂くのは、心苦しかったですから」
そして、宗司さんは少し妖艶さを滲ませた微笑みを私たちに向けた。
もし、私が日ごろから宗司さんと接していなければ、危うくその笑顔に心を惑わされていたかもしれない。
一応、心配になって燈架さんを見たけれど、彼女は自分の右手の『封陰具(偽)』を解いていたところなので、丁度宗司さんとは目が合っていなかったらしく「えっ? 何か言いました?」という感じで首を傾げているだけだった。
ただ、私がもう一つ気になっていたのは、別人に成りすましていた宗司さんが、既に自分の顔に戻していたことだった。
つまり、もう私たちの正体を隠す必要もなくなったところまで踏み込んでしまったということだろう。
「ふっ、これで、堂々とご対面できるってもんだ」
しかし、零さんは困るどころが、むしろ楽しくなってきたといわんばかりに不敵な笑みを浮かべている。
さっきの行動も合わさってしまって、なんだか零さんのほうが悪者に見えてしまうから不思議なものだ。
「そんじゃ行くぞ、お前ら」
そして、零さんは目の前の豪華な装飾で飾られた扉のドアノブに手を掛ける……ことはなく、
「おらよっ!!」
綺麗な回し蹴りをぶつけると、ドアは勢いよく開かれた。
当然、そんな乱暴な開け方をするものだから、扉は見事に吹っ飛ばされ、部屋の中の様子が露わになる。
広さだけなら、私たち澪標探偵事務所のワンフロアくらいだろうか。
部屋の奥は全面がガラス張りになっていて、そこから見える景色は、ネオン街の光が夜の闇に点々と輝く。
「へぇ、新しい友達は、随分と乱暴な人たちみたいだね。でも、こんなところまで来るなんて……」
そして、その部屋の中で私たちを待ち構えていたのは――。
「よっぽどボクに会いたかったんだ、燈架」
黒いパーカーとカーキー色の長ズボン姿の、
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