第13話 脱出の糸口
まず、私が始めたことは現在の状況をしっかりと整理することにした。
「
私たちが監禁されているみたいだけど、近くに見張りがいないことは何となく想像できる。
もし、近くにあの狐面を付けた誰かがいたら、私が騒いでいると真っ先にやって来たはずだ。
だから、私たちを閉じ込めてはいるものの、外から鍵をかけられるタイプの場所にいるか、どこかの部屋に入れられていることが考えられる。
「えっと……多分、どこかの倉庫だと思います。明かりは……天井に近い窓から漏れる光くらいしかありません。結構広い場所みたいですけど……」
「ありがとう。じゃあ、港の近くの倉庫とか、かな?」
「港? どうしてそんなこと分かるんですか?」
「潮の匂いだよ。それに、少しだけ波の音も聴こえるから、そうなんじゃないかと思って」
「波の音……ですか? すみません、私にはそんな音は……。それに、潮の匂いなんて……」
少し困ったような声を出す燈架さんの反応に、私はやや注釈を入れる。
「あ、そっか。ごめん、私、昔から耳とか鼻とかの機能がいいから、多分私にしかわからないんだと思う」
多分、燈架さんが普通で、本来なら匂いも音も気付かないのだろう。
そして、この私の利点は決して先天的なものではないんだけど、今話すと少し長い昔話をしてしまうことになるので、割愛することにする。
「燈架さん、他に何か気付くことはありますか? 例えば、見覚えのあるものや、何か目印になるようなものは……」
「……いえ、見た限り、ここも随分と使われていない倉庫のようで、廃材が残っているくらいしか……」
「……そっか」
「ただ……」
すると、燈架さんは何やら言い淀むように言葉を区切った。
「なんですか? 何か気になることがあったら言ってみてください」
この際、どんな情報でもいいし、視界的なものは燈架さんにしか把握できないものだから遠慮せずに言ってほしかった。
そして、私の気持ちが通じたのか、燈架さんは自信のない声で私に告げる。
「あの、おそらくなのですが、紫苑さんの目の周りに巻かれている包帯の模様と同じものが、私の左腕にも巻かれています」
「私と同じ包帯……」
「はい。暗くて何が書かれているのかは読み取れませんが、多分、草書のような形で書いた文字が記されています」
草書、というのは、いわゆる神社のお守りやおみくじなどで見かける字の形だ。
勿論、そんなものを包帯に書き記すことなんて、本来はない。
だけど、私たちがそんなものを巻かれている理由なんて、一つしかない。
「燈架さん。今、燈架さんの左手の『
「……それが」
私が質問すると、燈架さんがあからさまに動揺した空気になったのが伝わってきた。
そして、案の定彼女の口から、私が予想した答えが返ってくる。
「先ほどから試そうとしているのですが、上手くいかなくて……」
「……やっぱり、『封陰具』が使われているんだ」
「『封陰具』?」
「『
「そんなものが……」
今まで『
「だけど、さっきも言ったように『異能』を抑えられるのは一時的なんだ。どんなに凄い封陰書家が書いた文字だったとしても、せいぜい1日が限界なの」
「……やっぱり、
感心したようにそう言ってくれる燈架さんだけど、私の場合は少し特殊だ。
それよりも、気になることがあったので、続けて燈架さんに問いかける。
「燈架さん。『
「……はい、そのはずです。お父様たちは、とにかく自分たちの特殊な力は口にするなと言っていましたから」
ただ……と、燈架さんは声のトーンを落として、私に告げる。
「私が知らなかっただけで、燈弥は自分なりに何か調べていたのかも知れません。それに、私の知っている燈弥の『
「……つまり、燈架さんが知っている燈弥さんより『
「…………」
私の質問に返事はなかったけれど、その沈黙が肯定の意味だということは私にも分かる。
そして、私が浮かべていた推測が確信に近いものになった。
「おそらく、燈弥さんには『能力者』の知識がある人間が関わっています」
きっと、あの狐面の人たちの数も考えると、組織的なものがあるのだろう。
流石に私の足りない知識だけでは、その組織を動かしている人間が何者かは分からないけれど、これはもう、個人が起こしている事件とは考えないほうが得策だろう。
それに、相手の組織は、私の事まで調べ上げている可能性が高い。
今、『封陰具』が私の眼に巻かれているのが何よりの証拠だ。
そして、私たちを拉致した理由も、何かあるはずなのだ。
とにかく、このままここにいるのが危険なことに変わりはない。
「燈架さん。今すぐここから脱出しましょう」
そう言いながら、私は這いつくばるようにして燈架さんへ近づいていく。
「紫苑さん……」
きっと、今の間抜けな私の姿を、燈架さんは不思議な目で見ていることだろう。
だけど、そんなことはどうでもいい。
私は、燈架さんを助けないといけないのだ。
「燈架さん、少し痛いかもしれないですけど、我慢してくださいね」
そう前置きをして、私は自分の顔に当たるわずかな感覚を頼りに、燈架さんの身体に密着していく。
イメージ的には、木の上に登っていく芋虫に近い。
「し、紫苑さん! く、くすぐったいんです……けど……っ」
ただ、私がモゾモゾと動いてしまうせいなのか、燈架さんは時折笑い声を上げそうになっていたけど、なんとか堪えてくれているようだ。
そして、私もなんとか目的の物がある場所を発見した。
「念のために聞きますけど、今、私の顔の前にあるのが『封陰具』の包帯で間違いありませんか?」
「は、はい。そうですけど……」
不安そうな声で返事をする燈架さんに、私はこれから自分がやろうとしていることを伝える。
「では、今から私がこの包帯を千切ります。そうすれば、燈架さんの『
そうやって、少しでも身体の自由ができれば、何か脱出の糸口が掴めるかもしれない。
結局、燈架さんの『異能』に頼ってしまうところはあったけれど、残念ながら、私の『異能』では、この危機を脱出することはできないのだ。
だが、私の目的を伝えても、燈架さんは不安そうな声をそのままに私に尋ねる。
「ですが、そんなこと……一体どうやって?」
燈架さんの疑問は、至極当然のものだった。
ハサミのような便利なものを持っていないどころか、今の私は手足を拘束されているのだ。
だけど、そんな状態でも、唯一自由に動かせる箇所がある。
「はふっ!」
私は、燈架さんの左腕に、思いっきりかぶりついた。
いや、正確には、左手に巻かれている包帯を噛みちぎろうとした。
「ふぉうかさん……! ふふぉし、ふぁっててくだはいね……!」
当然、包帯に噛みつきながらだと何を言っているのか全く伝わらなかったことだろう。
「紫苑さん……!」
しかし、燈架さんも私がやろうとしていることが分かったのか、黙ってじっとしていてくれた。
こうして、私は一心不乱に、燈架さんに巻かれている『封陰具』を解こうとしたのだった。
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