第8話 事情聴取
「焼身死体ですか……。もし、それが本当に
緊迫する空気の中、落ち着いた様子で
「でも、それってまだ
「そうだな……まず、そいつがどれくらい自分の兄が事件に関わっていると考えてるか、聞いてみないとな」
すると、話の矛先を燈架さんへと向け、質問をぶつける。
「核心は……ありません」
すると、弱々しい声で燈架さんが応える。
「ですが……兄がいなくなった日から、先ほどのような事件が多発しているんです」
「えっ? それだけでお兄さんを疑っちゃうの?」
余計なことを言ってしまったことが自分でも分かったのか、
「……分かっています。自分でも考えすぎかもしれないということは。ですが、実際にその連続殺人事件の犯人も兄も見つかっていません。それに……」
「それに、なんだ? 言ってみろ」
「……いなくなる数日前から、兄の様子が可笑しかったんです。用意したご飯も食べずに、私が声をかけても上の空という感じで……」
そして、燈架さんは奥歯を噛みしめるように顔を歪める。
……きっと、燈架さんの中では葛藤があるのだろう。
兄のことを信じたい自分と、兄のことを疑ってしまう自分に。
そんな様子をみていた零さんが、ゆっくりと息を吐いたのち、燈架さんに告げる。
「正直に言うとな、俺たちも証拠は何もない。だが、梅ヶ枝のおっさんから『最近、能力者絡みの事件が起こってないか?』って質問したら、そいつらの写真と事件内容を教えられたよ」
ったく、あのおっさんは……と、またしても梅ヶ枝さんの文句を口にする零さん。
彼は、警視庁に所属する警部さんで、零さんは「おっさん」なんて言い方をするけれど、まだ40代の大人の男性だ。
まぁ、私たちに会うときに、いつも腰が痛いと言ったり肩が凝ったと嘆いていたりするから、おじさん扱いされているんだろうけど……。
「あの人……やっぱりただの刑事さんじゃなかったんですね」
そう呟いた燈架さんの様子を見て、零さんと宗司さんが目を合わせる。
それでアイコンタクトが成立したようで、宗司さんが再び説明役を買って出た。
「梅ヶ枝警部は、この東京で起こる『能力者』の事件を指揮する刑事さんです。ただ、少々人使いが荒いところがありましてね。警察組織の他に動かせる『能力者』とも縁がある人なんですよ」
「で、僕たちはその梅ヶ枝警部の駒ってわけ。特に、零さんは梅ヶ枝さんに数えきれない程の貸しがあるから、僕たちも必然的に逆らえないってわけ」
「おい、綱。余計なことは言わなくていい」
零さんに注意されると、綱くんは「はーい」と間の抜けた返事をする。
実際、零さんは私がここに来てからも、何度か梅ヶ枝警部と協力して、『
だけど、それだけじゃまだ、零さんに溜まった貸しは返し切れていないらしい。
それに、梅ヶ枝警部に貸しがあるのは、零さんだけじゃない。
ここにいるみんなだって、今も普通の人間と同じ生活ができているのは梅ヶ枝警部のお陰だ。
――特に、私の場合は。
「話を戻すぞ。そのおっさんが俺にこの焼身死体の事件について調べろと言ってきやがった。最後まで真相は話さなかったが、お前が『能力者』だとは気づいていたと思うぜ」
その可能性は、十分に考えられることだった。
それも、長年の刑事の勘、という奴なのかもしれない。
「あ、あの。私からも質問、いいですか?」
ただ、私はこの段階で、どうしても気になってしまったことがあった。
「その、燈架さんはどうやって梅ヶ枝警部と知り合ったのでしょうか?」
「それは……私が焼身死体があったという現場に向かったからです」
燈架さん曰く、ネットの情報を数珠繋ぎのようにして集め、なんとか焼身死体があったという現場を突き止めることができたらしい。
ただ、そこには当然燈弥さんの姿はなかったものの、何か兄の行き先が分かる手がかりが見つからないかと捜索していたところ、梅ヶ枝警部に会ったということだった。
「最初は、私が犯人だと疑われているのかと思いました。なので、嘘を吐いて誤魔化そうとはしたのですが、それも怖くなってしまって……」
結局、身元を明かした上で、行方不明になった兄のことや、彼が今回の事件に何か関わってしまっているかもしれないという話までしたそうだ。
「……私は、すぐに両親たちに報告がいくのだろうと覚悟はしていました。ですが、あの刑事さんは、私の両親には連絡をすることなく、私も身柄を拘束されるようなことはありませんでした。ただ……」
「俺のところを訪ねろ……そう言われたんだな?」
「はい……。そこにいる探偵なら、お前の望む形で事件を解決してくれるはずだと……」
「はんっ、随分と買いかぶられたもんだな、俺も」
「僕たちも、でしょ?」
「そうですね、梅ヶ枝警部は、決して零さん個人を指したわけではないでしょう」
そう言ったところで、宗司さんの表情からも笑みが少しずつ消えていく。
「ですが、既に犠牲者が出ている事件です。本当に燈架さんのお兄さんが関わっているのならば、これ以上の犯行を止めるためにも、私たちも全力を尽くしましょう」
「だね。零さん、さっき言ってたのって本当? 居場所はある程度分かってるっていうの」
「ああ、だが、少し数が多くてな。手分けして捜すから手伝ってくれ」
「オッケー。足で捜査するのは、僕の十八番だよ」
それが合図だったかのように、零さんたちは本格的に燈弥さんを捜索する作戦会議を立てようとする。
いつものように、私はただ、黙って彼らの姿を見ているだけだ。
「
そして、これまたいつものように、零さんから言われてしまう。
「お前はもう、自分の部屋に戻ってろ」
その言葉を告げられた瞬間、私の胸の中のざわめきが、私自身を苦しめる。
本当は言いたいことがあるのに、それを口に出来ないもどかしさ。
だけど、それを言ってしまったところで、零さんから返って来る言葉が変わるはずもない。
「…………わかりました」
だから、私は零さんの指示に従うように、事務所から出て行くことにする。
これは、零さんが悪いわけではない。
だけど私は、ぽっかりと穴の空いてしまうような衝動とどう向き合っていけばいいのか、その答えはまだ持ち合わせていなかったのだった。
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