第3話 探偵・須磨ノ浦綱、登場
「えーっと、確かこの辺りだよね」
電車に揺られること数十分。
高級住宅が立ち並ぶ街へと降り立った私は、早速、
ただ、大まかな目的地は教えて貰っているものの、正確な場所までは分かってはいない。
一応、零さんから貰っているケータイ(子供用ケータイ、防犯ブザー付き)で電話もしてみたんだけど、予想通りというか、案の定、返ってきたのは機械的な音声で「只今、電話に出ることは出来ません」というものだった。
となれば、地道に足で捜査をするしかない。
「よし、頑張ろう!」
そう気合いを入れて、歩道の真ん中でガッツポーズをしたときだった。
「ワンワンワンッ!!」
「ふぎゃあ!?」
後ろから元気に吠える泣き声が聞こえたかと思った瞬間、背中から衝撃を受けて倒れてしまう。
なんだ、なんだ!?
私、もしかして誰かからの襲撃を受けたりした!?
「わああ! ごめんなさい!」
すると、歩道に倒れ込んだ私の姿を見て、慌てて誰かが駆けつけてくる足音が近づいてきた。
「大丈夫ですか!? って、
そして、私の顔を確認したその子は、驚いたように私の名前を呼ぶ。
ただ、そう言ってくれたその人は、私の数少ない知り合いだった。
「
というか、私が捜している人物の1人だった。
「紫苑ちゃん? こんなところで何してるの?」
そして、彼は屈んで私の顔を見ながら、そんな質問を投げかけてくる。
「うん、ちょっと零さんに頼まれて、綱くんを呼び戻すように言われたんだ」
私は、まだ幼さの残る彼の顔を見ながら、そう告げた。
「そっか。でも、呼ぶだけなら電話してくれれば良かったのに」
「電話したよ。だけど、電源が入ってないみたいだったから……」
「あっ、ホントだ。ごめんごめん、気づかなかった」
予想通りというか、やっぱり私からの連絡には気付いていなかったようだ。
「……あの、ところで綱くん。お願いがあるんだけど」
「ん? 何かな?」
「……今、私の上に乗ってる子を、なんとかしてくれないかな?」
そう言うと、自分が呼ばれたことが分かったのか、ずっと私の背中に乗っている大きなワンちゃんが「ワンッ!」と、迫力のある返事をして、また私の顔をぺろぺろと舐め始めた。
「あはは、了解。ほら、こっちにおいで」
綱くんが指示を出すと、今度は「くぅーん」と残念そうに喉を鳴らして、私の背中からどいてくれた。
「よしよーし。いい子だねー。じゃあ、もう飼い主さんから逃げちゃ駄目だよ」
そして、綱くんが慣れた手つきで首輪にリードを付けてあげると、また大きなワンちゃんは「ワンッ!」と元気に吠えた。
「はい、紫苑ちゃんも。これで顔拭いて」
そして、私にハンカチを渡してくれた綱くんの手を借りながら、私もようやく立ちあがり、ちゃんと彼の姿を見る。
零さんとは違って、綺麗に切りそろえられた短髪。
少し小柄な体型に、黄色いジャージのような上着に、黒い短パン姿はスポーティな印象を相手に与える。
ただ、本人曰く、やはり子供扱いされてしまうことが多いのが、ちょっと不満らしい。
彼の名前は、
ちなみに、年齢は私より一つ年下の16歳の現役高校生で、澪標探偵事務所に所属している探偵と一人だ。
年齢も近いということや、綱くん自身が人懐っこい性格なので、私もすぐに彼と打ち解けることができて、今ではすっかり友達のような関係性になっている。
そんな綱くんだが、ただの居候状態になっている私とは違って、綱くんはこうして学校が終わった後に、しっかりと仕事を零さんから任されているのだ。
「と言っても、殆ど迷子のペット探しとかなんだけどね」
しかし、綱くんはすっかり大人しくなったワンちゃんの頭を撫でながらぼやく。
「それに、今回は紫苑ちゃんがお手柄をあげてくれたしね」
「えっ? 私?」
「うん。だって、僕が『普通』に追いかけても駄目だったから、そろそろマズいかなって思ってたんだけど、紫苑ちゃんがこの子を捕まえてくれたでしょ?」
「いや、捕まえたっていうか、捕まえられてたような気がするんだけど……」
しかも、結構な勢いで体当たりをされたような気がする。
「まぁ、その辺は気にしない、気にしない。とにかく、紫苑ちゃんも僕の仕事を手伝ってくれたってことで、飼い主さんのところへ一緒に行こう」
笑顔で綱くんがそう言うと、便乗するように彼の隣で座るワンちゃんも「ワンッ」と吠える。
「ほら、この子も一緒に行きたいってさ」
というわけで、無事(?)に綱くんと合流できた私は、彼の言われた通り依頼主である飼い主さんのところまでワンちゃんを届けに行くことになった。
ただ、その間にもう一人の捜し人に再び電話を掛けてみたが、やっぱり繋がらない。
どうやら、やっぱり私が直接捜しに行かないといけないようだ。
仕方ない、ならばせめて、次こそは大きなワンちゃんに弄ばれるようなことはないように願う私だった。
ちなみに、この後、無事にワンちゃんを飼い主さんに届けることができたのはいいものの、何故か私が離れようとすると、そのワンちゃんが必死に私のところへ近づこうと追いかけまわされるトラブルが起こってしまい、大幅なロス時間を費やすことになる。
動物に好かれる人間に悪い人はいないよ、という有難い言葉を綱くんから頂いたものの、体力を限界まで減らしてしまっていた私には、自分が褒められているのだと気づく余裕すらなかったのだった。
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