50年後の世界

——2149年——

戦争が終結して50年の月日が流れた。驚いたものだ。早々に戦争が行われると予想していたが50年ももつとは‥‥。

いや、行わなかった‥‥ともいうべきか‥‥。今まで行う必要がなかった‥‥というべきか‥‥。まぁそれはどうでもいいことだ。

50年もあれば、世界はがらりと変化を遂げた。20年前には世界は完全に修復を終了させ、世界中の協力により、医療の発展で平均寿命はなんと123.6歳となった。

50年前に戦争があったとは嘘のように国を渡り、輸入輸出し、経済の発展にもなった。

50年前の世界人口はたった40億人しかいなかったのだ。

しかしそれもまた変わり、なんとこの50年で40億人だった人口が270億人に増加したのだ。


少しずつ平和だった日常‥‥の亀裂が生じ始めた‥‥。


270億人というこの異常なほどの人口増加により問題が発生した。それは土地不足と食糧不足だ。人口増加で住む場所、家を建てる土地、食糧を作る農場、すべてが足りず人口分の衣食住が追い付かないのだ。

国によっては食糧が高騰し、食料を独占する金持ちが増え、それにより飢餓で苦しむ者が現れ始めた。

「お母さん。ご飯は?」

「ごめん。我慢してね」

食糧も住むところ、金さえない者は、少しずつ飢餓や病気で死んでいった。しかし人口は減ることなく、270億人という膨大な人口はそう簡単に減少することがなかった。

「俺が先に並んでいたんだぞ!?」

「離せ!」

道中で喧嘩が始まった。喧嘩の始まったところはスーパーの扉の前。久しぶりにスーパーに食糧が並ぶと聞きつけて多くの者が並んでいた。そろそろ開店時間になるのだがどうやら片方の男が割り込みをしたらしい。いつスーパーに食糧が並ぶかわからないこの状況下。そのためこういった喧嘩はよく怒るのだ。

ひったくりの事件も多くなった。金のある者、食糧を持っている者を襲い、奪っているのだ。そのために手段を択ばず殺してまで奪い取ることも少なくはなかった。

この人口爆発は世界中で問題視されている。



——アメリカ——

「大統領。各地で暴動が起こっています」

さすがに50年の平和な月日が流れたため大統領は代替わりした。しかし今後の戦争が行われると予想してコリーとのつながりは途絶えていない。寿命が驚くほど伸びたため、コリーは大統領の椅子からは退いたが、まだ政府関係で働いていた。

コリーは50年前の世界会議に出席し戦争を終結させたという特別な存在だ。大統領を代替わりしたもののコリーを無下に扱うこともできず、政府の特別官僚として席を置かせている。

そして現在コリーの年齢は85歳。医療の発展がなかったらすでに寿命は尽きている。しかし今の平均寿命は3桁の123.6歳。85歳などまだ年老いている方にはならないだろう。

「コリー官吏を呼んでくれ。それと戦争終結時にアレス基地にいた指揮官9人も‥‥彼らの力が必要だ」


数時間後‥‥コリーを含めた10人が大統領執務室に集められた。

「集まってくれてありがとうございます。コリー官吏。それとアレス基地の元指揮官たち」

そうアレス基地はもともと戦争のために建てられた臨時基地、戦争が終結したために解体されクーパーやウォリックたち皆、は昇進を果たし他の基地に派遣された。

クーパーは大将から元帥にウォリックは大佐から大将になり、他の者も少佐や大佐に昇進を果たした。

「あなたたちは戦争時、多く活躍を果たしてくれました。そして今、人口爆発により問題が生じている」

「食糧不足、土地不足などですね?」

「そうです。この問題は深刻です。どうすれば良いかあなた方の意見を聞きたいのです」

「簡単な話だ。再び戦争を行い、他国から食糧を奪えばいい」

戦争が終結して皆、バラバラの基地に、仕事が与えられた。大佐から昇進を果たしたウォリックはしばらくの間、クーパーと顔を合わせずに済んだ。年も取りクーパーの性格も少しは丸くなったかと思ったが50年たってもなお相変わらず、性格はそう簡単に変わらないようだ。

ウォリックは、怒りを覚える。噂によれば少年兵を——もう少年たちではないが——開放していないという話だ。洗脳を受け元の生活には戻れないかもしれないが治療やリハビリを行えば改善できると同期の軍医が言っていた。ウォリックは政府に少年兵開放の提案をしたがクーパーやコリーの仕業なのか提案は受理されなかった。



戦争終結から半年が経ち、復興などが落ち着いた頃、ウォリックは政府や軍の会議に少年兵開放を申し出た。もちろんちゃんと準備も整えた。少年兵治療改善計画書には洗脳の治療方法、リハビリ計画などが記載されている。

うまくいくと思っていた。しかし大統領含めた政府群は首を縦には振らなかった。

「君の功績は実に素晴らしいものだ。しかしこの計画は受理できない」

「なぜです!?戦争は終結した。もうあの子たちを戦場に行かせずに済むのですよ」

「では聞こうじゃないか。バード大佐。洗脳された少年兵を治療するのはいいが、その後はどうする?もともと孤児だっただ。君は全員の世話や介抱ができるのか?」

答えは明白、そう“無理”なのだ。洗脳された子供を養うことはできない。それに治療が成功したとしても子供たちの居場所がない。

貧困であったからと金を引き換えに孤児を戦場に向かわせてしまった負い目を感じて自殺するシスターが後を絶たなかった。そして一時問題になった少年兵洗脳計画。それを聞いていた孤児院は軍を完全敵視している。孤児院に戻すことはできない。

独り立ちも視野に入れていたが、普通の生活が送れない子供を自由にしたところで生きていくのは難しいだろう。

そしてウォリック1人では全員の世話や介抱もできない。治療やリハビリのための金もない。結婚している身で一般人まで巻き込むわけにはいかない。これは軍と政府の問題だ。

「どうなんだね?」

「無理です。私1人にあの子たちの世話も介抱も援助も、居場所を与えることもできません」

自分の無力さに怒りを感じている。政府や軍に力を借りることができたとして恐ろしい2人がいる。あの2人なら簡単に少年兵を使う計画を立て、それが受理され、子供たちは奴隷のように死ぬまでこき使われるだろう。

それを考えて、クーパーに渡してはならないとこの計画書を立てた。しかしどうやら腐っているのはクーパーやコリーだけではないようだ。

「まぁ君がこれ以上の案を提供してきたとしてもこちらは少年兵を手放すつもりはなかったがな」

「え?」

どうやら政府も軍もせっかく洗脳した少年兵を手放すつもりはないらしい。ウォリックの提案はそもそも通らない話だったのだ。時間だけが無駄に経過しただけ、初めから無理だった話に絶望した。

「それと君には別の部隊に移動してもらう」

半年前に異動してきたばかりだったのに、また異動。ウォリックにこれ以上少年兵とのかかわりを絶ちたいようだ。

「新たに立ち上げた復旧活動部隊の指揮官になってもらいたい。もちろん昇格付きでだ。これから君は少将から中将に昇格だ。おめでとう。

「半年で昇格できる者は少ない、君は優秀だよ」

うれしくない昇格だ。これはクーパーとコリーの陰謀ではないのかと思ってしまう。そうなのかもしれない。しかし政府の決定にも逆らうことはできない。

子供を戦場に送り込んでしまった罪、シスターを自殺に追い込んでしまった罪のある自分が軍を離れ普通の生活などできるはずがない。

「‥‥ありがとうございます」

少年兵とは一切かかわれない仕事になってしまったが、せめてもの罪滅ぼしのため仕事を全力で行おうそう思った。

「君には全世界を飛び回ってもらうぞ。下がってよし」

「失礼します」

ウォリックは敬礼をして会議室を後にした。

「行ったか。コリー官吏の言った通りになったな。今、彼に動かれても困る」

「彼がこの計画を知った時何をしでかすかわからない。警戒は怠らないことだ」

「わかっているさ」

「さて、予定の時間は過ぎたが始めようじゃないか。人間強化計画を‥‥」

ウォリックは知らなかった。まさか自分がアメリカを離れている間にとんでもない計画が進行しているとも知らずに‥‥‥‥。



話は戻り、クーパーの戦争再戦を提案。ウォリックはそれに異議を申し立てた。

「待ってください。戦争を行わなくとも他国に、他国に申請をして食糧の援助をしてもらうのはいかがでしょう!」

「‥‥残念ながらバード大将殿。もうすでに援助の申請をしていたんだ。しかしどの国も同じ状況のようで申請は通らなかった」

「‥‥そんな‥‥」

何か良い方法はないのか。ウォリックは模索しているとクーパーは戦争再戦の後押しをしている。

「やはり、他国から食糧を奪えばいい。俺は戦争再戦を提案します」

「いったい何のための戦争終結‥‥世界会議だったんですか!?」

「‥‥それでもお前は大将か?あんなの戦争を行うための準備期間だ。人員、資源、資金すべてを回復させるためのな‥‥」

戦争、戦争、戦争、戦争‥‥クーパーの頭には戦争、争うことしかないのか?

「大統領。戦争以外に他の道はないのですか!?」

「貴様、いい加減にしろ。では考えてみろ。戦争も行わず食糧や土地問題を解決する方法を‥‥」

「‥‥」

いろんな方法を考えても、良い案が浮かばない。人口を少なくする。いわば選別‥‥そんな非人道的なことができるか?できるわけがない。選別など戦争より残酷だ。

「‥‥まともに考え付かないなら意見を出すな。それでよく大将まで昇格できたな」

こぶしを強く握りしめる。大将になってもこの男クーパーには逆らうことはできないのか?

「私は‥‥アレス基地の指揮官になる前は戦争の最前線にいました。私も含め皆、祖国のためにと最前線で戦ってきました。私は同期や部下の死を無駄にはしたくないと戦争が終結して復旧活動を懸命に行ってきました。私はこれ以上戦争で人々を死なせたくないのです!」

「それを平和ボケと言うのだ。現在、食糧不足で餓死している者どもは死んでもいいというのか?」

「違います。戦争のほかに良い方法がないのかと言っているのです!」

「いい加減にしろ!貴様の意見などバカすぎるのだ。これ以上戦争で部下たちを死なせたくないだと?ふざけるのもたいがいにしろ。犠牲がなくてどうやって勝利を収めるのだ?」

クーパーが今にでも殴りかかろうとしている。止めるべきなのだろうが、相手は元帥のクーパー、部下たちは飛び火がかかるのでないかと恐れ見ていることしかできない。

「2人ともいい加減にしろ。大統領の御前だぞ」

コリーが2人の言い争いを止めた。そうここはアレス基地ではない。大統領執務室、そして目の前に大統領がいるのだ。

こんなところでクーパーが手を出したら大統領の御前だろうとウォリックを殺してしまう。ここでこの2人の言い争いを止められるのは大統領とコリーだけだろう。

ウォリックは今ここにいる立場を思い出し、大統領に謝罪をした。

「大統領。申し訳ありません」

「クーパー。お前もだぞ」

「‥‥申し訳ありません」

渋々、クーパーも頭を下げた。元帥にもなってみっともない、相変わらずの短気さをコリーは頭を抱えていた。

「私も止めなかったのですから気にしないでください」

確かにここまで止めに入らなかった大統領も大統領だ。なぜここで一番の地位がある大統領が2人の言い争いを見ているだけだったのか?

大統領の魂胆はここに呼んだ10人を自分の計画のために利用しようと考えているのだ。とある計画に10人は知らずのうちに巻き込まれている。それはコリーもクーパーも知らないことだ。

「さて話を進めましょうか。皆さんに集まっていただいたのは今後の方針についてともう1つあるのです」

「もう1つ?」

これはクーパーもコリーも知らないようだ。

「これを見てください」

大統領は空中に何やら手を動かした。そうすると操作している手元にモニターが現れた。

この50年でテクノロジーも発展を遂げた。車もそうだ。戦争などで使用された石油などは少なくなり、水素や電池、ソーラーを使った車が多くなった。それだけでなく道の渋滞を避けるために普通の自動車と飛行自動車が出来上がりそれぞれ毎回自動運転と手動運転の2つを選択できる。運転したくないときは自動運転、運転したいときは手動運転と好きに選べるのだ。流石にレーサーのような運転はAIでは難しいが‥‥。

世界中が協力すれば医療やテクノロジーの発展も可能だったというわけだ。しかしその協力がいつしか独占へと変わる。

大統領がモニターに表示し10人に見せたのは十数枚の写真だ。十数枚の写真が宙に浮き前後左右に少し動いている。

モニターに映っているのは、戦車や戦闘ヘリ、無人攻撃ヘリ、強化スーツ、爆弾など様々な新型兵器がそこにあった。

「な、なんですか‥‥これは?」

これはクーパーの言っていた通り戦争を行うための準備期間なのかもしれないと思ってしまう。これだけの新型兵器を見せられては‥‥ウォリックは恐怖と困惑に襲われる。

「‥‥実を言うと復旧活動部隊をさせている間にスパイを数人各国に送り込んでいました。復旧部隊はスパイを隠すカモフラージュです。そしてこの情報を手に入れました。これはロシアで撮影されたものです」

「ロシア。世界会議を提案してきて戦争終結を訴えた国ですか?」

「そうです。50年前の世界会議の主催国‥‥どうやら今の問題を事前に予想していたのか。戦争の準備をしているようです」

とおっしゃいましたか?」

兵器の製造に戦争の準備。ロシアのほかにも兵器を開発し、戦争の準備をしている国があるのだろうか?

「はい。他の国にも動きがありました。隠しているようでしたが、軍の廃棄基地で兵器製造を行っていたようです」

大統領はモニターを再び操作をして映像を切り替えた。

「ロシアのほかに‥‥フランス、カナダ、ブラジル、中国、インド、ドイツにアフリカなど‥‥ほぼ全世界というべきですかね」

映像にはほとんど新型兵器、テクノロジーの進化でこれまでの兵器が大量に生産された。これではいつ戦争が起きるかわかったもんじゃない。

「大統領。質問なんですが日本の映像はないのですか?」

「また弱小国家の話か‥‥くだらない」

クーパーは日本を驚異的ではないと思っている。無理もないだろう。戦争中は日本を警戒するほどの国でもなかった。皆と弱小国家をあざ笑っていた。コリーもその1人だった。しかしコリーは世界会議で変わった。今まで警戒してこなかった日本を50年も警戒をする羽目になった。だ。

それがクーパーにとって気に食わないことなのだろう。

日本と聞いて大統領は顔色を変えた。とても深刻そうな顔だ。

「コリー官吏が大統領から退く際、日本には警戒を怠らないようにと、50年間日本を監視していました。そして他国同様スパイを送り込み、順調に工作員3名が日本の情報を報告してきました。しかし3日後‥‥工作員からの連絡が途絶えたのです。日本で行方不明になったと言ってしまえばスパイを送り込んだことがばれてしまうと思い、それ以上の捜索を断念しました」

「森義典がまだ政府関連の仕事をしていればこちらがスパイを送り込んできたのはわかっているでしょう」

スパイがばれたということは義典が関連しているだろう。そして工作員はすでに殺されている。

日本の動きが読めない。スパイのことがわかってしまっているならそれを理由にアメリカを責め立てることもできる。しかし日本はそれをしてきてはいない。

日本の現状をつかめていないため何を考えているのか予想がつかない。それにこの状況下だ。確実に義典が絡んでいるはずだ。

「コリー官吏。なぜその義典とかいう男にこだわるんですか?俺にはその男のどこが驚異的かわからないのですが‥‥」

なぜここまで日本に、義典にこだわるのかクーパーにはわからないようだ。本人に会ったことがない者にとって驚異的だといわれてもそうは思わないかもしれない。

「お前は見てないからわからないのだ」

クーパーは納得していないが、コリーは恐れていた。世界会議で見た義典の鋭い目、あの殺気、あの笑み、クーパーとは違う狂気を感じていた。

「アメリカのスパイと見破って、何もしてこない日本に警戒すべきです」

「‥‥‥‥」

コリーの言った通りに50年間、日本を監視及び警戒をしてきた。しかしコリーがここまで警戒しているのがおかしいくらいに日本に怪しい動きや戦争の動きはまったくなかった。それのせいで現大統領も警戒に疑問を抱くようになった。「(本当に日本は驚異的なのか?)」と。

「‥‥わかりました。引き続き日本の監視は怠らないよう指示いたします」

日本ばかりに気を取られ他国が戦争を仕掛けてきたとき対応が遅れるとアメリカの存亡にかかわる。大統領は日本の警戒人数を少し減らそうと考えた。こうすれば日本を警戒していることになる。コリー官吏の警告を無視しているわけでもない。

「人口爆発、食糧問題に他国の戦争準備‥‥問題は尽きません‥‥では児童集団失踪事件はいかがしますか?」

全世界で問題視されている人口爆発に食糧問題、戦争準備。実はこれだけではなくもう1つ問題視されているものがあった。

それは児童集団失踪事件。孤児を狙った誘拐ではなく必ず子供だけだった。母親と主に公園を訪れ少し目を離したすきに行方不明や「遊んでくる」といった子供の自転車が不造作に放置されていたり、学校からの帰り道に靴一足だけが残されていたりなど失踪が相次いだ。

誘拐事件としてアメリカの警察組織が調べているうちに37年前の2112年から少しずつ増加していたのがわかった。最初は少数だったのでわからなかったがここ5~10年でただならぬ人数となった。さらに捜索していると世界中、196か国で児童失踪が相次いでいるのがわかった。

「失踪している児童は6~20歳。男女性別国籍問わず、足がつかないように世界中で誘拐しているようだ。犯人の特定は難しい」

犯人の足取りもつかめず、子供ばかりを狙う意味もわからず、児童の失踪は増加する一方だ。

「この規模だと国で誘拐を行っていると思われますが‥‥臓器目的だとしても今の医療で臓器移植手術もほとんどなくなりましたし、いったい何が目的で児童を誘拐しているのか‥‥」

「その国がわかれば攻撃の対象にできるのに‥‥大統領この件児童集団失踪事件はひとまず保留でいいんじゃないですか?」

ウォリックは驚愕した。子供を早く探し出し親の元へと返してあげたい。そのためには警察組織だけでなく我々も動いたほうが良いと考えた。

それなのにクーパーはそれを保留にするといった。許せなかった。ウォリックには18歳になる子供がいる。自分の娘は失踪児童の年齢に入っている。下手をしたら自分の子供が誘拐されていたかもしれない。子供を誘拐など許される行為ではない。それなのにクーパーは児童捜索をあきらめさせるような発言をした。なぜそんなことを言うのだろうか?

「保留ですか。理由をうかがっても?」

「簡単なことです。世界各国で戦争の準備が行われているのに軍が失踪事件に首を突っ込んでいるとどこかの国が攻めてきたとき対応が遅れてしまいます。引き続き児童捜索は軍ではなく警察組織に任せといたらよいと思います」

「確かにキャンベル元帥殿のおっしゃる通りかもしれません。これから政府が検討していることをお話いたします」

他の映像に切り替えたと思ったら同じような兵器の映像だ。しかしその中の数枚にウォリックが最も恐れていたものが映っていた。

「これは我々アメリカの兵器映像です」

「(は?大統領は今なんて言った?)」

「ロシアや他国が攻めてきたときの対応として新型兵器を開発してきました。アメリカは戦争が行えるように準備をしています」

驚愕しているのはウォリック1人だけだ。部下は真剣な表情で聞き、クーパーとコリーは笑みを浮かべていた。

この状況を知らなかったのはウォリックだけだったようだ。そう、政府と軍がウォリックをアメリカから遠ざけたのもこのためだ。

「洗脳した少年兵は強化兵として。完璧といったところです」

大統領の言葉が頭に入ってこない。強化兵?何のことだかわからない。

クーパーとコリーの助言で進めていた強化兵計画。洗脳した少年兵が余っていたため、薬とさらなる洗脳で強くしただ。少年兵の時は自爆という洗脳を行っていたが、今回は50年の月日があったために隠密特化や超人な力、尋常な動体視力など改造を施した。そしてこちら起爆操作できる小型爆弾を体内に入れている。小型だが直径10mという威力だ。

「それは上々で何よりだ。戦争が楽しみだ。早くを使いたい」

「あくまで我々アメリカは戦争再戦を予想した戦争準備です。もしアメリカに攻撃を仕掛けてくる国があればそれは、宣戦布告とみなして徹底的に戦います。そこで皆さんの出番というわけです。あなた方は50年前、アレス基地の指揮官として、全軍を取りまとめる指揮官として活躍していただきました。そこでです。アレス基地を再建させ、コリー官吏も含め再び指揮官として役目を果たしていただきたいのです」

まだウォリックは混乱していた。新型兵器、強化兵、戦争再戦‥‥たくさんのことを一気に知ったために頭が追い付かない。

「‥‥バード大将殿、顔色がよろしくありませんが大丈夫ですか?」

「‥‥‥‥あ‥‥‥‥」

「こいつはまだ平和ボケが治っていないんですよ。しかし大統領命だ。その命令に背くはまずないよなぁ?バード大将」

ウォリックはクーパーを睨みつける。そんなことをしたって意味がないのはわかっていても、クーパーの睨まずにはいられなかった。

しかしここで反対意見を出したら、再び戦争に、強化兵に関係のないところへ、もしかしたら前線に派遣され逆戻りかもしれない。それだけは決して避けなければならない。一度息を整えて冷静になりクーパーの言葉に答える。

「‥‥もちろんです。命令に背くなどしませんよ。キャンベル元帥」

嫌味のように笑顔を添えて。あまり面白くなかったのか、クーパーはあからさまに嫌な顔をした。

「ちっ」

「ここにいる10名をアレス基地指揮官に命じる。コリー官吏とクーパー元帥を指揮官長とし、他の者も職務を全うするように」

「「はっ」」

10人は敬礼でその意を示し大統領も、10人に向かって敬礼をした。

「それでは行動を開始せよ!」

ウォリックたちはアレス基地へと向かうため、大統領府を後にした。

「はぁ」

ため息をしながら勢いよく椅子に座り込む。しばらく天井を見ていると扉がノックされた。

「入れ」

「失礼します」

入ってきたのは他の部屋で待機していた部下と秘書だ。

「どうでしたか?大統領」

「‥‥簡単すぎたな。あれほど戦争バカだとは思わなかったよ。まぁそれのおかげでの計画にも気づいていないようだし、うまくいったようだ」

先ほどのクーパーたちに敬語を使っていた大統領とは別人格のようだ。いや、これが大統領の本性なのだ。今までクーパーたちと会話していたのが偽りの人格だ。

「はぁ、芝居も大変だな。肩が凝った」

大統領は両手を上に伸ばし、肩を回した。

「お疲れ様です。大統領」

「あんな戦闘狂の話を聞くのも大変ですね」

「だが、これのおかげで俺らの計画は守られる。もしこの計画が漏洩したとしてもあの10人に罪をなすりつければ良いことだ」

俺らの計画?クーパーたちと会話していた時は、戦争準備のことを話していた。俺らの計画ということはクーパーやコリーはこの計画に絡んでいないということか?わからない。

大統領は何を計画しているのか?

「ですが‥‥戦争終結を提案したロシアが宣戦布告し戦争再戦。まったくどうやったらそんな計画が思いつくのか‥‥恐ろしいものですね。という人物は」

「日本がうらやましいよ。横島紘平とかいう研究者が強化兵を新たな道具を作ったのだろ?横島紘平をアメリカの手の内にできないものか‥‥」

「まさかアメリカと日本が協定関係にあるなんて誰も気づかないですよね」

戦争再戦をもくろんでいたのはロシアではない。アメリカと日本だ。つまりクーパーたちに見せていたロシアの新型兵器はアメリカと日本が作り上げた偽の映像だ。

アメリカに協定を持ち掛けたのは日本の総理大臣ではあるがそこの裏には義典が関与していた。関与していたというより義典が協定を計画したのだ。

やはり義典も内閣総理大臣の椅子からは降りていた。しかし裏社会で、キメラの製造、戦争再戦の準備、ロシアの情報漏洩など自分の駒を使って政府や経済を動かしていた。

現在の内閣総理大臣は義典の部下だ。そのため自分のやりたいことは義典の一言ですべてできてしまう。

「日本も面白いことをする。強化兵だの、キメラだのだのよく考えつくことだ」

もちろん義典の提案してくるものはすべてにおいて素晴らしいものだ。しかしそれ以上に横島紘平という人物が大統領にとって何としても欲しいものである。

義典の話ではキメラを研究して製造まで行い、また新たな物を作り上げていると聞いている。新型兵器だけではなくこの人口爆発を解決する手段を持っているという。これを欲しくないという者はいないだろう。

そんな優秀な人材を義典がそう簡単に手放すはずがないと大統領もわかってはいるのだ。しかしそれをどうしても欲してしまうのも事実。どうしても、義典を殺してまで欲しいと考えてしまう。そんなことをすればアメリカはひとたまりもない。日本に簡単に滅ぼされてしまうだろう。日本には義典のがたくさんいるのだから。

「それで、義典の計画はどうなっている?」

秘書に聞くが、なぜか暗い顔をする。何か日本に不適合なことをしてしまったのだろうか?不安が大統領を襲う。

映像ではあるが、日本の戦力を義典に見せてもらった。恐ろしいものだった。日本を敵に回したくない。そう強く思ったぐらいだ。

「日本からの返事では‥‥“それはこれからのお楽しみ”‥‥だそうです」

「フフフ‥‥ハハハハハ‥‥お楽しみか。面白いではないか。森義典‥‥見せてもらうぞ。日本の実力を‥‥」



——日本——

立派な門構えには似つかない監視カメラが数台設置されている。中に入ると広い和風の屋敷。庭には鯉池があり大きな鯉が優雅に泳いでいる。

「計画はうまくいっているようだな」

これまた広い応接間に2人の男がいた。1人はスーツを着ているが、もう1人は高級そうな袴を着用している。

髪は完全に白髪と化しているが、変わらない何を考えているかわからない瞳をしている。そう、袴を着ているのは元内閣総理大臣の森義典だ。そしてスーツを着ている者は現在の内閣総理大臣、義典の駒の1つだ。

「はい。順調に進んでおります」

「アメリカもずいぶんと警戒もせずに情報をくれるものだな。‥‥コリー前大統領はもう少し警戒をさせているかと思ったが‥‥俺が慎重しすぎていたのか?」

「いいえ。もしかしたら現在の大統領はコリー前大統領の言葉をあまり強く受け止めていないのではないかと思います。自分の有利になることしか頭になさそうな腑抜けた男でしたから」

アメリカと日本の代表が直接会うと、何かと面倒だ。50年の平和があったとしても会うとなれば、あることないことを報道され、もしかしたら協定関係がばれてしまうかもしれない。それを恐れて、モニターでの顔合わせしか行っていないが会話をしているとどこか腑抜けているような感じだった。

「そうか。俺は現大統領と顔を合わせたことはないがそんな面白くない男なのか。がっかりだよ。協定をアメリカに持ち込んだのは間違いだったか?」

「しかしアメリカは何かと利用するのには便利だと思います。義典さんの計画に間違いはないと断言できます」

「そういってくれると嬉しいよ。俺に隠居生活は似合わないようだ。こうして表社会と裏社会を操っているほうがかえって生き生きする」

流石、裏社会を牛耳っている男だけある。裏社会で一番の地位を取ってしまえば、そして金さえあれば表社会でさえ操ることができてしまう。まったく恐ろしい男だ。

「そうだ。例の件はどうなっている?政府から引退した俺はなかなかあそこには行けなくなってしまったからな」

部下は笑みを浮かべ端末を取り出し、スクリーンを映し出した。

「すべて順調です。キメラ‥‥そして能力者の製造はうまくいっています」

「それはよかった。これまでの投資は無駄ではなかったというわけだな」


皆は何のことだかわからないだろう。キメラ製造は聞いたことがあっても“能力者”はないだろう。


‥‥‥‥そうそれは50年前にさかのぼる‥‥‥‥。

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