風の訪れは事件と共に
思春期の男子にとって、それを表す言葉はいくつもあるだろうが、俺にとっては夢であり、憧れであり、男子の欲望だと思っている。
布一枚向こう、目の前にあるのに覗けない、拝めない、触れられない!
世の男の子は常にこの問題に悩まされているのである。
純粋に、ただ見たい。
悶々として眠れない夜もあっただろう。涙を流した日もあっただろう!
それが今、この瞬間、目の前に奇跡とも言える光景が広がっている。
風の悪戯で舞い上がったスカートから覗くパンツ。
ただのパンツではない。オ・ト・ナのパンツだ。
妹の可愛らしいパンツしか見たことがなかった俺からしたら、紫のレースの付いた黒パンツ、しかも同年代の女子が履いているのを目にしているという現実は今までの人生で一番衝撃を受けている。
だから、目が離せないのは仕方のないことだと思うのですよ。
スカートが落ちる最後の瞬間まで、心に刻み、脳に記憶し、感謝するのが紳士としての努めだと思うのですよ。はい。
「ねぇ、もういいかしら。」
抑揚のない冷たい声が俺の心臓を突き刺す。
こちらを軽蔑し、蔑むような冷たい目が俺を見下ろしていた。
今までの興奮は消え去り、真っ白になった頭を必死に回転させ、どう切り抜けようか考える。
血眼になって覗いてしまった事実は変わらないのだから、ここは言い訳せず、ちゃんと謝るべきだろうか。
いや、全面的に認めてしまうのは良くないのでは?
いやいや、そもそも俺悪い?…うん、悪いな。
「何も弁明がないのなら、行くわ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
謝る前に行かれては、それこそ最悪の状況に成りかねない。
「い、今のは事故なんです。見ようと思ってたわけじゃ、、。
風でスカートが捲れて、と、突然のことで驚いていて目が離せなかっただけなんです。」
「あれだけ見ておいて、酷い言い訳ね。見苦しい。
もう少し誠心誠意謝ってほしいのだけれど、あなたのような汚れた心の人には無理かもしれないわね。」
うん、それは…そうだね。自分でも今のはないと思うよ。
明日から陰で三度の飯より覗き好きと噂されて、あだ名は歩く変態送風機とかになるんだ。
さようなら俺の三年間。楽しい学園生活。
「ところで、あなた名前は?」
「えーと、神風とおるだけど。」
「ふぅん、そう。」
と、名前を聞いて一言そう呟くと、校舎の中へ消えてしまった。
「え、何?」
姫野美織の反応に戸惑いつつ、しばらく待ってみたが、彼女が校舎から出てくることはなく、教室も見に行ってみたが、鞄も姿も見当たらなかった。
置いて行かれた、のだろうか。何とも言えない悲しみが胸をつく。
仕方なく、俺は帰ることにしたが、明日から不安しかない…。
時刻は23時を過ぎ、色々ありすぎたせいかまだ寝るには早いが、吸い込まれるように自然とベッドに倒れ込む。
柔らかい衝撃が体を伝う。
自分だけの時間、自分だけの空間、今までは誰かが家にいて、笑い声や話し声が聞こえていて、夜がこんなに静かなものだったとは思わなかった。
不意にスマホの着信音が部屋に響き、画面を確認する。
「母さんか、何の用だろ。」
電話に出ると、わいわいと賑やかな声が聞こえてくる。
「あ、とおる?元気にしてる?ご飯はちゃんと食べたの?」
「まだ一週間も経ってないだろ。ご飯もちゃんと食べてるから大丈夫だよ。
それより何?なんか用事?」
家では
こんなこと、直接は言えないけど。
「とおる、聞いてるの?」
「ごめん、聞いてなかった。」
「もう、週末に
ちゃんと妹サービスするのよ。」
「妹サービスってなんだよ。わかったから、もう切るよ。」
「母さん達もできるだけすぐ行くから、一人だからってあんまりハメ外さないようにね。じゃあね。」
含みのある言い方をして切られたが、ハメを外すような相手がいないのを知ってて言ってるだろ。俺の感謝の気持ちを返して欲しい。
週末か…羨ましいほど良くできる妹だけど、あいつ東京から一人でこっちに来るのか。
まぁ、何もないし心配することでもないか。
色々あったせいか
暖かい陽気が心地よく、眠気を誘ってくる。
大きなあくびをして、伸びをする。
目に溜まった涙を拭い、のどかな景色を眺めながら、学校への道のりをとぼとぼと歩いていく。
何もない平和な光景なのに、心が曇っていき、不安で胸が詰まる。
大丈夫だ!今朝ものんちゃんに起こしてもらったし、ばあちゃんとじいちゃんに挨拶もしてきた。
今日はいい日になるはずだ。何より天気がいい。こんな日に悪いことが起こるわけがない。と、思いつつも昨日のことが思い返される。
変わり者の教師に失敗した自己紹介、そして姫野美織のパンツ…。
何を言われるのか不安でたまらない。
「はぁ…。」ため息と共に風が通り抜ける。
気が付くと、風ノ宮高校まで続く坂道の前まで来ていたらしく、先程まではチラホラとしかいなかった学生が今は坂の上まで流れができていた。
とおるはその流れに続いて、坂を登っていく。
昨日と変わらず、風に乗って桜は舞い、辺りは鮮やかな桜色に染まっている。
それは突然の出来事で、何が起こったのか状況が飲み込めず、彼女達の動きが止まる。
風が嵐のように吹き荒れ、舞い落ちていた桜は舞い上がり、目の前の景色は一変する。
時間にして数秒、俺の視界は風で
またしても不思議なことに目が自然とパンツに釘付けにされてしまい、俺も金縛りにあったように動けない。
少女達は状況を理解し、恥ずかしさから頬は赤く染まり、辺りに叫び声が轟く。
そして、一斉に鋭い視線が俺に突き刺さる。
まさに天国から地獄…彼に逃げ場所はなかった。
って、他人事のように現実から逃げるな俺!
いやいやいや、今のは完全に事故じゃん!
俺のせいみたいになってるけど、どっちかって言うと被害者側なんだけどこれ!
周りに助けを求めようにも、他の男子は危険を感じ取ったのか、いつの間にか逃げていて、後には女子に囲まれている俺だけが残されていた。
「ちょっと何見てんの!信じられない!」
「ホント男って。」
「あんたがやったんじゃないでしょうね!」
浴びせられる
これには俺も文句を言ってやらなければ。
「ちょっと待ってくれ。確かに見てしまったのは悪いと思うけど、今のは風のせいで、誰がどう見ても俺は何もやってない!」の、強い一言で再び吹き荒れる一陣の風。舞い上がる桜色タイフーン。
美しく花開くパンツ!パンツ!パンツ!
その時の俺はどんな顔をしていたのか分からないがニヤついて変な声が出たのは覚えている。「アヒャ。」みたいなキモいやつ。
叫びと奇声を受け、俺は女子の間を抜けて走り出す。
「これは言い訳できないやつ!!!」
後ろで何か叫んでるようだけど、聞いてられない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ〜い!」
あんなの謝ってどうにかなることじゃないのは目に見えてるが声が続く限り謝り続ける。
昨日から一体何なんだよもう!!
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