第4話:何を言っていらっしゃいますの?
私はクリス様へと視線を戻し、さらに言葉を続けます。
「それからミューア家がアーウィン家にしている借金ですが、利子まで含めてちゃんと返してもらうことになりますので、ゆめゆめお忘れなきように。あなた個人が私にしている借金のほうは、利子は勘弁して差し上げますから、なるべく早く返済してくださいましね」
何しろクリス様からの借金のみでも金額がだいぶ膨れ上がっておりますので、利子だけをちょこちょこと返されていては、いつまで経っても彼との付き合いが絶てません。家同士の借金についてまでは、私個人の裁量ではどうにもできませんけれど。
「なッ!? どういうことだ! 借金は帳消しになったはずだろうッ!?」
「ちょちょちょッ、ちょっと待ってくださいぃ! このドレスはレイチェル様の物なんですかぁ!? それに借金って何ですかぁ!?」
予想はしておりましたが、ミア嬢はミューア家の借金について知らなかったようです。クリス様のほうも、やはりというか勘違いをしているようですね。
「借金がなくなるというのは、私がクリス様と結婚して、ミューア家の権利をすべてお譲り頂いた場合の話ですわよ。あなたのお父様であるミューア家当主が私のお父様に泣きついてきたから、仕方なく結んで差し上げた契約でしょうに」
婚約は破棄されたのですから、当然その契約も白紙です。
私自身、クリス様のお人柄を知る前まででならばともかくとして、何度も彼にお金を貸しているうちに、今ではすっかり嫌気がさしてしまっております。今回のことはちょうどいい機会だったのかもしれませんね。
だから私はミア・モートン嬢に、なぜクリス様などをお選びになったのかと尋ねたのでした。
彼がどんな人間かを知っていてもなお結婚したいだなんて、なぜなのだろうと本当に不思議だったのです。
「そんなぁ、聞いてないですぅ……。俺と結婚して伯爵夫人になったら、贅沢な暮らしをさせてやるってクリス様は言っていたじゃないですかぁ……」
でもそれは、どうやら騙されていただけのようですね。
クリス様が今している”贅沢”は、すべて私のお金によるものです。重ねて言いますが、甲斐性なしのクズの不良債権ですのよ、この男。
「ふざけるな! そんな話、俺は父上から聞いていないぞッ!! この俺がお前と婚約してやったから、それに対する感謝として借金を帳消しにしたという話ではないのかッ!!」
「何を仰っておりますの? 感謝と言われても意味が分かりませんわ。あなたとの結婚は、ミューア家を私に譲るための手続きのようなものでしょうに。それをしないというのであれば、借金の帳消しなど当然ありませんわよ。担保を頂いておりませんもの」
唾を飛ばしてクリス様が大声をあげるので、私はそれを浴びぬよう三歩ほど後ろに退がりながら冷静に答えました。まだ私を盾にしようというのか、一緒になってミア嬢までくっ付いてきます。いい加減離れて欲しいのですけど。
「なッ!? ちがっ、そうではなくッ! ああもう、ふざけるなふざけるなふざけるなッ!!」
「ふざけてなどおりませんわよ。至極まっとうな、契約破棄の結果をお伝えしているだけです。唾が飛んでいるので近づかないでくださいまし」
「それにッ! 俺がお前に借金だと!」
興奮したクリス様が距離を詰めてきましたので、それ以上近寄らないでくださいと私は右手を前へ出しました。
するとその腕をガッと掴み上げ、クリス様は目を吊り上げて怒鳴ります。
「あの金は、お前が俺に惚れているから渡していた金だろうがッ!!」
……借用書まであるのですけど、彼はいったい何を仰っているのでしょうか?
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