第11話料理の上手い陽キャは優しい
聞いて驚け見て笑え。
現在時刻は午後一時。
横では真剣にテレビ画面を見つめてゲームに熱中している小幡がいた。
......。
「なにぼーっとしてんの!」
「あ」
意識を画面に戻すと、ちょうど俺のキャラクターがカブトムシ型のボスキャラになぎ倒されるところだった。
気づいたのが遅すぎたので回避することもできず、なすすべもなく攻撃を食らいHPが0になる。
テレビ画面にでかでかとGAMEOVERの文字が表示された。
「うーん、やっぱりこのレベルじゃ無理なのかなぁ......」
ぷくりと頬を膨らませながら小幡がそう言った。
マルチプレイであまりにサクサク進みすぎた結果だろう。そろそろ一度しっかりレベル上げをしなくてはならないタイミングだ。
幸いいいレベル上げスポットもあることだし、そこでじっくり雑魚狩りをしてから次に行くのが無難だろう。
......。
......いや、そうじゃなくて。
小幡はリスポーンするとまっすぐ一番近い狩り場に直行し、すぐさまレベル上げを開始する。
そして俺がその様子をじっと見ていると、
「なに?」
「......なんでもない」
そう返すと小幡は「そっか」と短く答えすぐ画面に視線を戻してレベル上げを再開する。
――小幡がやってきてからはや三時間、俺はいまだにゲームを続行していた。
「はあ......」
俺がため息を吐くと、それを俺がうんざりしていると取ったのか小幡が反応する。
「まあ仕方ないよ。レベル上げもこのゲームのだいご味だってネットに書いてあったし、ゆっくり行こっ」
「そう、だな......」
違う、違うんだ小幡。
......俺は初めになんていった?
一時間だけって言ってなかったっけ?
それでいま何時間やったよ。
すがるように時計を見ても、その針が指し示す時間は変わらない。
小幡がやってきてゲームを始めたのが十時過ぎ。そして現在時刻は午後一時。もうすこししたら三時間はこうして並んでゲームをやっていたことになるらしい。
あれ、おかしいな。一時間のはずだったんだけどなあ......。
「はあ......」
「もうっ、ため息ついても仕方ないでしょ! ほら! ちゃんと背筋伸ばして!」
そう言って強引に俺の姿勢を直させようとしてくるのをかいくぐり、すこし距離を取った位置で胡坐を組みなおした。
すると小幡はなぜか不満そうに鼻を鳴らし、近くにほっぽり出していたクッションを投げつけてくる。
「なんだよ」
「べつに、なんでもない」
なんでもないのにもの投げてくるのかよこいつ......。
と、どこからともなく「ぐぅ」とかわいらしい音が聞こえてきた。
「ん?」
画面に向きかけてきた視線を横に戻せば、あっけらかんとした顔で小幡が自分のお腹を押さえている。
「そういえばお腹空いたね、なんか食べるものある?」
こういう時は顔の一つでも赤らめるのが女子の甲斐性ってもんだろうに。
しかしまあ、何気に起きてから何も口にしていなかったのでそろそろなにか食べないと健康的にもまずいだろう。
「買い置きしてあるカップ麺があるから、それ食べるか?」
「え、もしかしていつもそんなので済ませてるの?」
「いや、平日はわりと自炊するけど、土日はまあ、こんな感じだな」
「普通逆じゃない?」
どこの基準の普通かはわからないが、とにかくカップ麺ではダメのようだ。
そうなると俺の手料理を振る舞うしかないんだが、うーん、材料あったかな?
今日は普通にカップ麺ですませて明日食料を買いに行く予定だったので、多分大した材料は残っていない。となると近場のコンビニとかで適当にパスタ麺とかを買ってきてそれでなんとか......。
......いや待て。ていうか普通に、このタイミングで小幡を帰らせればいいんじゃないか?
なぜ初めからこの結論に至らなかったのか。
あまりに身近に答えが転がっていたものだから見逃してしまっていたようだ。
俺はその決定を伝えるべく小幡のほうへ向き直り、
「――じゃあちょっとキッチン借りるね」
そう言って手早くゲームをセーブすると小幡はすくりと立ち上がった。
そのまままっすぐ小型冷蔵庫の前に行き無造作に開け中を確認する。
......ん?
なにしてんだあいつ? キッチン借りるとか言ってた?
「ご飯は冷凍のがあるのか......うん。オッケー」
何がオッケーなのだろうかと見守っていると、不意に小幡の目線が俺とかち合う。
「いいよね?」
すでにやる気満々な状態でそう言われるとちょっと断りづらかった。
そして気づけば俺は言われるがままに首を縦に振ってしまっていたのだった。
ほんと意志弱いな俺。
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