第2話 『勇気が出せるようになるかもしれないゲーム』って?

学校からの帰り道。

僕の目の前を、ものすごいスピードで黒いものが横切って行った。

びっくりして立ち止まっていると、その直ぐあとから、神野君達が走ってソレを追いかけて行った。

ボクは何だかイヤな予感がした。

だって、神野君達が走って行った先にあるのは、行き止まりだ。


もしかして、あの黒いのって・・・・


急いで追いかけると、やっぱりボクの思ったとおりの事が起こっていた。


フーッ!!


壁際まで追い詰められたミーちゃんが、全身の毛を思い切り逆立てて、神野君達を威嚇していた。

神野君達は、手に石を持ったり棒を持ったり、鞄を振り回したりして、威嚇しているミーちゃんを見て笑っている。

ミーちゃんは、ここら辺をよくブラブラしている真っ黒な野良猫。

ボクと仲良しの黒猫だ。

その、仲良しのミーちゃんが、神野君達に苛められている。


「ミーちゃんっ!」


思わず、声が出ていた。


「なんだ、亀山?」


僕の声に、神野君達が一斉に僕の方を振り返る。

その隙を見て、ミーちゃんは素早く逃げ出すことに成功していた。


良かった、ミーちゃん・・・・


ホッとしたのもつかの間。

気付けばボクは、神野君の子分達に周りを囲まれていた。


「亀山のくせに、何してくれてんだよ?」

「えっ」

「お前が逃がしたんだからな?代わりになるってことだよなぁ?」


いやだ・・・・いやだ、怖いよ・・・・

その石、ボクにぶつけるの?

その棒で、ボクを殴るの?

その鞄を振り回して、ボクをボコボコにするの?


怖くて怖くて足が震え始めた時。


「帰ろーぜ」


神野君が、手に持っていた石を高々と放り上げながら歩き出した。


「えっ?なんでだよ、こいつがあの猫・・・・」

「こいつ揶揄っても、全然面白くないし」


そう言って、神野君はボクの横を素通りして行く。

神野君の子分達も、舌打ちしてボクを睨みながら、神野君の後に続いてその場から去って行った。


あー、助かった・・・・


ホッと胸をなで下ろした時。

上から降って来た石が、ボクの頭に当たった。


「いてっ!」


神野君が放り上げた石だった。


・・・・痛いよ、神野君。危ないじゃないか・・・・



痛む頭を押さえながら、俯きがちに家に向かって歩いていると。

突然、誰かがボクの前に立ち塞がった。

本当に、突然。

驚いて顔を上げると。

見た事も無いような綺麗な女の人が、優しい笑顔を浮かべてボクの前に立っていた。

長い髪の毛は眩しいくらいの金髪で、吸い込まれそうなほど大きな目は瞳の色がエメラルドグリーン。

ゆったりとした長くて白いワンピースのようなドレスのような、そんなものを着ていて、よくマンガなんかで見る女神さまのような姿だった。


「亀山ゆうき君」

「えっ?」


突然名前を呼ばれて、戸惑ってしまう。

だってボクは、この人の事を知らないのに。

何でこの人は、ボクの名前を知っているんだろう?


「これをあなたにあげる」


そう言って、その人は手に持っていたものを僕に差し出した。

それはどう見ても、ゲームソフト。


え?なに?

なんか、怖い。

この人は悪い人には見えないけど、知らない人から突然物を貰うなんて、怖すぎる。

それになんで、ゲームソフト?

ボク、ゲームってあんまり、やらないんだけど。


黙ったまま立ちすくんでいると、その人はそっとボクの手を取って、ゲームソフトをボクに持たせた。

もちろん、断るつもりだったのだけど。

どういう訳か、体がまったく言う事を聞かない。

ボクの手はまるで、ボクの意志であるかのように、すんなりとそのゲームソフトを手に取っていたんだ。


なになに?

なにこの現象?!

怖すぎるっ!


「頑張ってね」


そう言ってニッコリ笑うと。

その人は、そのまま消えた。


ええっ?!


慌てて周りを見てみたけれども、その人の姿はどこにも無かった。


なにっ?

今の、夢っ?!

それとも・・・・幽霊っ?!


怖さのあまり、体が震え始める。

でも、ふと手に持っていたままのゲームソフトのタイトルを見て、ボクはポカンと口を開けた。


【勇気が出せるようになるかもしれないゲーム】


「なに、これ?」

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