『勇気が出せるようになるかもしれないゲーム』をやってみた~これは、ゲーム世界と現実世界を行き来しつつ、ヘタレ勇者の僕が大事な仲間に守られながらこのゲームのクリアを目指し、仲間とともに成長してゆく物語~

平 遊

序章

第1話 何でボクは勇気が出せないんだろう

「ほら、とっとと買いに行けよ。売り切れてたらお前の弁当食うからな」


クラスの男子カーストトップに君臨する神野 光洋かんのみつひろ君に、何故だかボクはいつもパシリにされている。

さすがにお金までは巻き上げられる事は無いけど、神野君はいつもボクに色々命令するんだ。


「う、うん・・・・」


神野君は切れ長の涼しげな目元が特徴の、女子も羨むようなサラサラ黒髪のイケメンの上に、運動神経も抜群で、力も強い。

子分みたいな人も、周りにたくさんいる。

だからボクは、本当はパシリなんてイヤなんだけど、『イヤだ』って、言えないんだ。

だって、怖いから。

ボクは全然、勇気を出す事が出来ないでいる。


購買まで全速力で走って行って、神野君お気に入りのパンを2種類買って。また全速力で教室に戻る。


「神野くんっ、買ってきた、よっ!」

「はい、ご苦労さん・・・・って、なんだよこれ」


ボクからお釣りとパンを受け取った神野君は、パンの1つを見て顔をしかめた。


「オレ、今日の気分はカレーパンだったんだぞ。ったく・・・・使えねぇなぁ、お前は」


そう言って、神野君はボクの頭をポカッと殴った。

神野君は軽く殴ったつもりだったんだろうけど、もともとの力が強いから、ボクにとってはかなり痛い。

けど、言えない。

『やめて』って言う、勇気が出せなくて。


「ごめん・・・・」


小さく謝ると、ボクは急いで自分の席に戻って、母さんが作ってくれた弁当を食べた。

母さんがボクのために作ってくれた弁当だ。

良かった、神野君に取られなくて。


って、思ってたのに。


「おっ、唐揚げあんじゃんっ。もーらいっ!」

「あっ!」


いつの間にか側に来ていた神野君に、大好きな唐揚げを取られてしまった。


「うまっ!お前のかーちゃん、すげー料理上手いよな、ほんと」


・・・・ボクの大好きな唐揚げが、今日も神野君の胃の中に・・・・


いつも、そうなんだ。

いつもいつも、ボクの好物は、神野君が食べてしまう。

それもこれも、ボクが『やめて』って言う勇気が出せないせいなんだ。



ボクは、亀山ゆうき。中学2年生。

まだ成長期が来てないみたいで、背は低いままだし、声変わりもしてない。

日焼けしてもすぐ白く戻っちゃうから、制服着てないと時々女の子に間違われることもあるくらい。

母さん譲りの大きめな目のせいも、あるかもしれないけど、『可愛い』って言われるのが、ちょっと嫌だったりする。

小さい頃からずっと、男子よりは女子と一緒に遊ぶことが多かったせいか、今でも男子より女子と話す事の方が多いんだけど。

良く女子から『可愛い』って言われるんだよね。

ほんとは、あんまり嬉しくないんだけどな。

神野君とは、中学校で一緒の学校になり、2年のクラス替えで同じクラスになってしまった。

1年生の時から、色々と怖い噂を聞いていたから、一緒のクラスになるのは嫌だなって思ってたのに。

それでも、クラスの中で目立たないようにしていれば、放っておいてくれるかと思っていたら、クラスで1人浮いているボクは逆に目立ってしまったらしく。

神野君に、目を付けられてしまった。

最悪だ。

毎日が、憂鬱だ。

神野君は、なんだかんだとボクに絡んでくる。

ボクは何もしていないのに。

放っておいて欲しいのに。

『イヤだ』『やめて』って言えないばかりに、毎日パシリにされて、お弁当の好物のおかずまで食べられて。

機嫌が悪いと、八つ当たりみたいに殴られるし。

・・・・殴る、と言っても、神野君にしてみれば軽く殴ってる程度なんだろうけどね。

でも、神野君は力が強いから、ボクにとっては結構痛いんだ。


ボクの名前は『ゆうき』なのに。

何でボクは、勇気が出せないんだろう。


たった一回だけ。

ボクは、担任の先生に相談したことがあった。

神野君の事を告げ口した訳じゃなくて、どうしたらイヤなことを『イヤだ』って言えるようになりますか?って。

そうしたら、先生は。


「そりゃお前、強くなるしか無いだろ」


だって。


・・・・先生、そんなことくらい、ボクだって分かってるよ。

もう、中学生なんだから。


そう言いたかったけど。

その頃、先生自身も重大な局面に立たされていたらしくて。

家庭の事情、ってやつ?

離婚の危機。息子との不仲。

なんだか、どこからともなく流れて来るんだよね、そんな個人情報までも。

だからね。

ボク、それ以上先生に聞けなかったんだ。

先生も大変なんだな、って思って。

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