#40 部長のターニングポイント



 抱き着いて来たフジコさんから、コンディショナーなのかフローラルな香りがしている。


 長い髪がわさわさと俺の顔に当たり、ちょっとだけ不快感を感じる。



「フジコさん、どうしたんですか?」


「最近、ノリオくんが急に素っ気無くなった様に思えて、不安になってしまって」



 俺の主人公としての第六感が緊急警報を鳴らす。


 今のフジコさんの言葉だけ聞けば、まるで恋人が寂しくて不安を零すかのような言葉だが、俺とフジコさんは恋人同士では無い。

 そして、今までフジコさんから俺に対して恋愛的な好意を向けてくれたこともない。 ずっと間には壁があった。


 そのフジコさんが、俺に抱き着きまるで恋人かのような言動・・・・ふっ、俺も舐められたものだな。


 この程度で俺が気を許すとでも思ったんだろうか。


 俺は、既に3人ものヒロインを落としたハーレム主人公様だぜ?



 少しばかり方針変更だ。穏便に済ませたかったが、そちらがそう来るなら、コチラも手加減しない。

 俺の真の主人公力、見せてやるぜ!





「ふっ、いったい俺のドコが冷たいって?」



 俺は強気の態度で答えながら、フジコさんの耳にふっと息を吹きかける。


 体をビクッとさせるフジコさん。


「いえ、それはその・・・・今日の朝とかも」


「恋人でも無い俺に抱き着くなんて、フジコさんも意外と大胆なんだな」


 俺はフジコさんの言葉を遮るように囁き、今度は耳をペロリと舐める。


「ひゃん!?」


 自分から抱き着いたクセに体を離そうとするフジコさんの背中に両手を回して、ガッチリホールド。


 逃げようと俺の腕の中で暴れるのがちょっと楽しくなってしまい、耳をレロレロ舐めまくりヨダレ塗れにしてやる。



「ちょ!!!ダメ!このままじゃ私!離して!!!」


 暴れながら顔やお腹をガシガシ殴られて痛いので、ようやく解放する。



 髪は乱れ制服のスカートがはだけたまま床にへたり込み、荒く呼吸を繰り返すフジコさん。


「ハァハァハァ、と、とんだ野獣、ですね、ハァハァ」



 変態教師キョウコちゃんの指導の賜物だな。


 俺はフジコさんと対峙する為、左右の椅子の背もたれに両手を広げるように乗せて、脚を組んでふんぞり返って不遜な態度で言い放つ。


「俺が野獣ならフジコさんはなんだって言うんだ? 君はヒロインなんかじゃなかった。文芸部の他のみんなもそうだ。 俺のことを揶揄からかいおちょくって、何が目的なんだ?」


「そ、それは違います!」


「ああ、ラブコメ症候群だっけ? そんな妄想のことはどうでもいい。 俺を揶揄って楽しんでいるのが気に入らないって言ってるんだ」


「!?」



 俺の言葉を聞いて、フジコさんは「ガーン」って顔をした後、言葉を失ったかのように真っ青な表情になった。



 こちらは大人しく距離を取って徐々にフェードアウトしようと穏便な対応を考えていたっていうのに、たかがメインヒロインの成り損ないが、ハーレム主人公様の俺にちょっかい掛けるからこうなるのだ。


 俺は一気に畳みかけることにした。



「フジコさんの目的はなんだ? 俺をイジって楽しむ理由は何なんだ? 文芸部の他の子たちだって、気も無いのに俺に馴れ馴れしくしたりして、本当は俺のことをオモチャにでもしたつもりで揶揄って裏ではネタにして笑っているんだろ? 先週や今日だって、あからさまに交代で休んで、罰ゲームでやる嘘告みたいに”誰が一番その気にさせるかゲーム”でもしてるんだろ?」


「ち、違います!!!」


「じゃあ、フジコさんは何で先週の水曜と金曜、休んでいたんだ? ドコで何してた? 大方、スマホを通話状態にして別の場所で会話を聞いていたんだろ? 今だってそうなんじゃないのか? フジコさんのスマホ、日比野さんたちと通話状態になってるんじゃないのか?」


「!?」


「その様子だと図星の様だな。 あんまり俺を舐めるなよ? 俺はヒロインにはトロトロに蕩けるまで優しく甘やかすけど、俺のハーレムを邪魔するヤツには容赦しない。 これは警告だから」


 そう言って立ち上がる。


 荷物を持って出口に向かい扉を開く。

 そこで立ち止まり振り向かずに俺は最後に決め台詞を贈る。


「フジコさんほどメインヒロインに相応しい女性は居ないと思ったんだがな。 残念だぜ」





 ふっ 

 決まったな


 カッコイイぜ、俺。






 そう

 俺はなるべく罪は作らない様にするがやる時はやる男、ノリオ。






 フジコさんと抱き合って耳をレロレロしたときにピ――が元気になってしまい中々収まらなくなってた俺は、文芸部教室を出た後も股間のテントを隠すことなく堂々と歩いていると、偶然遭遇したキョウコちゃんに見つかり勘違いされて学校だというのに襲われそうになったのは、また別のお話。













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