番外編 妹とココア

 バレンタインスペシャルで、急遽殴り書きしたショートストーリーです。 本編のストーリーとはリンクしていませんので、ご注意下さい。

 ________________



 今日はバレンタイン。


 そう

 ヒロイン達からの愛の込められたチョコレートが貰える日である。

 主人公様にとって、素晴らしい一日となるだろう。



「クルミんちーっす! ノリオもおは」


「メグちゃんおはよ」


「メグっちおはよ。 今日も寒い中、俺の為にスク水装備とは、可愛い幼馴染だぜ」


「はいはい、可愛いとか聞き飽きたし」


「とか言いながらテレるところも可愛いぜ」


 そんな毎朝繰り返される朝の挨拶をしながら、3人で歩く。


「ところでメグっち。今日は荷物が多いな?」


「あーそうそう、ノリオにもコレあげるし」


 そう言って、メグっちは持っていた手提げ袋から、ラッピングされた袋を取り出して、俺にくれた。


「クルミんの分もあるし」


 クルミには俺が貰ったのより小さい袋が渡された。


「あ!バレンタインだっけ! 私、マジで忘れてた!」


「やれやれ、そんなんじゃ主人公の妹、失格だぜ?って、こら止めろ!お兄ちゃんのお尻を無言で蹴るんじゃない!」


 ったく、クルミのやつ、たまにはメグっちを見習って欲しいものだ



「ところでメグっち、これってチョコなの?」


「んとね、チョコのマフィン作ったし」


「へぇ、なかなかやるなメグっち。流石俺の幼馴染だ」


「でしょ?ノリオには特別に10個入れといた」


「マジか!? じゃぁあとで一緒に食べるか」


「いや作ったのメグだし。メグが食べたら意味なくね?」


「いいんだよ。メグっちと一緒に食べたいんだぜ?」


「なんか今日のノリオ、キモイ・・・・さてはバレンタインで浮かれてんじゃね??? メグ以外にノリオにチョコくれる人なんて居ないし!期待してるノリオ、ちょー恥ずいし!」


「うわぁジジイのくせに自意識過剰だ。ちょーうぜぇ」


 ふっ

 主人公の俺にそんな口きいて、浮かれてるのはお前たちだろうに。

 もう絶対マフィン分けてやらん!



 そう

 俺は罪作りな男、ノリオ。






 そして放課後


 教室で下校限界時間まで粘ってみたが、メグっちの予言通り、メグっち以外からはチョコが貰えなかった。



「きっとみんな、俺の主人公オーラが畏れ多くて、俺に渡したくても渡せなかったんだな。主人公っていうのも罪な存在だぜ、やれやれ」


 下校を促すアナウンスが流れたので、俺は教室をあとにした。

 下駄箱も念入りにチェックしたが、何も無かった。


「もしかしたら・・・子猫ちゃんたちがチョコ入れてくれてたのに、妬んだ男子生徒が盗んだか!? ちっくしょー!誰だよ俺のチョコ盗んだの!!!」


「こら水元!さっさと下校しろ!」


 昇降口で一人悔しがっていると、見回りに来たキョウコちゃんに怒られた。


「キョウコちゃん、まだ今年の分、貰ってないぜ?」


「お前は何を言ってるんだ?」


「チョコの話ですよ。今日バレンタインですよ? そんなことも知らないんですか?やれやれ、そんなんだから嫁の貰い手が現れないんですよ?」


「お前ってヤツわ!!!!」


 キョウコちゃんはチョコの代わりに、俺にヘッドロックをプレゼントしてくれた。






 いつもより遅い時間に帰宅


「ジジイ遅い!おなか空いて死にそうなんだけど!」


「お兄ちゃんはな、今ちょっと主人公としてのプライドが傷ついてて、夕飯どころじゃないんだよ」


「は?何言ってるの?」


「メグっちしかチョコくれなかったんだよ! こんなハズじゃなかったんだよ! おかしいだろ!こんなの! なんで誰も俺にチョコ用意してないんだよ!」


「うるさいジジイ!黙ってご飯作れ!」


 クルミがマジ切れしたから、大人しく食事の準備を始めた。



 食事中、クルミはバレンタインを廃止するにはどうするればいいかを、結構真面目に語っていた。 最終的に、煙草なんかと同じようにチョコレート税を導入して、更に屋内でチョコレートを食べるのを禁止したり、ファミレスなんかでもチョコレートを食べても良い席を分離させるなどの迫害をするという結論を出していた。








 食事の後、自室でメグっちから貰ったチョコレートマフィンを食べながら宿題をしていると、突然扉がバンと開かれてクルミが仁王立ちしていた。


 クルミの手にはマグカップが握られていて「ジジイ、チョコの代わり。コレあげる」と、そのマグカップを渡された。


 マグカップは温かいココアだった。


 一口飲んだら、砂糖が入ってないのか全然甘くなかった。





 お終い。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る