#16 荒ぶる幼馴染
「ところで水元、私も水元のことを”ノリオ”って呼んでもいいか、な?」
サクラ先輩の言葉にメグっちが驚いた表情で口をパクパクさせている。
「折角こうして交流を深める機会も増えていることだし、その・・・水元も私を名前で呼んでいるしな・・・まぁ、なんだ、いつまでも他人行儀というのも、な・・・」
サクラ先輩には珍しく言い淀んでハッキリしないが、言いたいことは分った。
「つまり、俺ともっと仲良くなりたいってことですね? 名前呼びはラブコメの定番イベントだし、何より異性同士での名前呼びは特別な間柄を象徴してますからね」
「そ、そう!その通り!」
ここでメグっちが吠えた。
「ちょっと待ったぁぁ!!! そんなのメグは認めないし!!! ノリオをノリオって呼んでいいのはメグだけだし!!!」
「どうしたメグっち?今日はやけに荒ぶるな? そんなにも俺とサクラ先輩が仲良くなるのが気に入らないのか? 嫉妬もあまりしつこいと可愛げがないぞ?」
「ノリオには関係無いから黙ってて!!!メグとサクラ先輩の問題だし!!!」
「いや、俺の名前の話だろ」
俺のツッコミはスルーされ、メグっちは鼻息を荒くしてサクラ先輩を睨み、サクラ先輩は風紀委員の頃を彷彿とさせる毅然とした表情でメグっちを見つめ返した。
この表情、先ほどまでの大人な対応はもう期待出来ないな。
「土田さん、この際だから言わせてもらうわね。 確かにあなたは不動の幼馴染枠よ。 でもね、ヒロインは一人じゃないのよ? 私だってそのヒロインに名乗りを挙げさせて貰ったからには、あなたに負けるつもりは無いわ」
「ぐぬぬぬぬ」
あ、多分口喧嘩だとメグっちじゃサクラ先輩に勝てない。
そんなことを本能的に察していると、遂に真打ちが登場した。
「ちょっとお二人とも、ここは教室ですよ? 皆さんが見てますから落ち着きませんか?」
そう、メインヒロイン候補である月野さんだ。
「フジコちゃんも黙ってて!!! メグいまサクラ先輩に宣戦布告されたんだから、メグだっていっぱい言い返したいんだし!」
「土田さん落ち着いて。 大きな声で騒ぐからノリオくんだって困ってるでしょ?」
「ぐぬぬぬぬ、っていまフジコちゃんどさくさに紛れてノリオくんって呼んだでしょ!?」
「あら?そうだったかしら? でもこの際だから、私もノリオくんって呼びますね。いいですよね?ノリオくん」
「ああ、じゃあ俺もフジコさんって呼ぶようにするよ」
「おいちょっと待て、私の話のが先だっただろ? なぜ後から出て来た君が勝手に話を進めているのだ? ノリオもノリオだぞ? これからは私のことは、先輩を付けずにサクラと呼んでくれ」
「分かりましたよ、じゃあサクラさんって呼びます。 年下の俺に甘えるだなんて、可愛い先輩だぜまったく」
「なにこれもうヤダ、名前で呼んでいいのメグだけだったのに、訳わかんないよぉ」
ご機嫌になったサクラさんとは対照的に、メグっちは半泣きになっていた。
メグっちとは10年以上の付き合いだ。
こういう時の扱いは誰よりも熟知している。
俺はメグっちをハグし、背中をポンポンと心臓と同じリズムで優しくそして軽く叩いく。 そして、メグっちの耳元で優しく囁いた。
「メグっち、ごめんな、俺がハーレム主人公なばかりに色々心労をかけてしまって。 でも最強幼馴染の座はメグっち以外にないからな? あまり周りに振り回されずに、不動の幼馴染としてどっしりと構えているんだぞ? それでこそ俺の可愛い幼馴染だからな?」
「うん・・・わかった」
ふっ
一発で幼馴染を宥めてしまう俺の主人公力
やはり自分で自分が恐ろしいな
そう
俺は罪作りな男、ノリオ。
こうしてヒロイン3人による修羅場イベントは今度こそクリアーした。
まぁ俺は最後にメグっち慰めただけで何もしていなんだがな。
これも俺の日頃の行いと主人公力の賜物だろう。
因みにサクラさんは「明日からもお昼休憩はこちらにお邪魔するな。よろしく頼むぞ、ノリオ♡」とウインクしながら俺の名前だけ妙に熱の籠った声で言い残して3年の校舎へ帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます