#15 修羅場イベント、待った無し




 サクラ先輩とマックで放課後デートをした翌週、そのサクラ先輩が意外な行動に出た。




 お昼休憩


 いつもの様に自分の席で弁当を広げて食べようとすると、いつもは感じない視線を感じた。



 むむ?

 主人公としての第六感が感じるこの視線は・・・ヒロインからの熱い眼差しだ、きっとそうだ!


 箸を置いて周囲を見渡すと、教室の入り口から顔を覗かせ、なんだかモジモジしているサクラ先輩の姿が。 

 ほらやっぱりだ。

 サクラ先輩は俺と目が合うと、パァと笑顔になってヒョイヒョイと手招きした。



 サクラ先輩がコチラの教室まで来るなんて珍しいな。 今日の放課後もデートに行きたいとかのお誘いだろうか。



 俺は食事を中断して廊下のサクラ先輩の元まで行き、用件を尋ねた。


「サクラ先輩、こんにちは。 食事の時間なのに急にどうしたんです? そんなにも俺に会いたかったんですか? 可愛い子猫ちゃんだぜ、まったく」


「あぁ、そ、そうだな、会いたかったのには違いないのだが・・・実は・・・一緒に食事しようかと思ってな・・・」


「へ?」


 ちょっとビックリしてサクラ先輩を見つめ直すと、珍しくテレた表情でモジモジしているその手にはお弁当らしきものを持っている。


「いやな、先日も話したが私は教室ではどうせ一人だからな・・・折角だし水元を誘ってみようと思ってな・・・」モジモジ


「はぁ・・・」


 何この可愛い先輩

 モジモジしながら、顔をうつむかせての上目使い


「ダメか・・・? そうだよな、水元にも色々付き合いがあるよな」しゅん


「いえ、それは大丈夫なんですけど・・・」



 確かに俺も教室では食事はいつも一人だ。


 しかし、だからと言って簡単な話では無い。


 何故ならこの教室には、最強幼馴染のメグっちとメインヒロイン候補の月野さんが居る。 そこに、モジモジきゅんきゅんモードのサクラ先輩が襲来してしまったら・・・ラブコメ定番の修羅場が起きてしまうんじゃーないのか?



 ちらりと横目で教室を見ると、メグっちはギャル軍団と楽しそうにお喋りしながら食事をしている。月野さんも同様に、仲良しグループとニコニコ談笑しながら食事中。



 どうする!?


 遂にやって来たか、ハーレム主人公心臓バクバクのピンチ不可避イベント!?


 しかし、俺はこの程度のことで動揺などしてはいけないと自分に言い聞かせて、即決した。俺は、難聴系や鈍感系の軟弱主人公どもとは違う。 それにメグっちも月野さんもお喋りに夢中で、周りのことは気にして無いようだしな。



「やれやれ、可愛い可愛いサクラ先輩のお願い、主人公の俺が聞かないわけないじゃないですか、まったくもう」


「おぉそうか!良かった~。 もし断られたら、きっと一人で泣きながらお弁当を食べるハメになっていたぞ」


 俺の返事を聞いた途端、100点満点の笑顔で喜ぶサクラ先輩。


「ヒロイン泣かせたりしたら主人公失格ですよ。 俺がそんなヘマすると思ってるんですか? サクラ先輩もまだまだですね。 じゃあ俺の席で食べましょうか」


「うん♪」


 いまサクラ先輩、「うん♪」って言ったぞ???

 今までだったら「ああ」とか「そうだな」とかだったはずだ。

 風紀委員辞めた途端、変わりすぎじゃーないか???






 前の席のイスを後ろに向けてサクラ先輩は座り、俺の机で向き合うようにして二人でお弁当を食べ始めた。


 教室内では、クラスメイト達からチラチラ視線を感じたが、マックでも似たような物だったし、気にしなければどうってことは無い。


 それに何より、目の前のサクラ先輩が、とにかくニコニコご機嫌で楽しそうなのだ。 こんなに楽しそうにしているのに水を差すわけにはいかないしな。


 ふっ

 あの鬼の風紀委員と呼ばれたサクラ先輩を、こんなにも可愛いらしいきゅんきゅんヒロインに変えてしまうとは、自分で自分の主人公力が恐ろしいぜ。




 そう

 俺は罪作りな男、ノリオ。






 しかし、やはりと言うべきか、そうは問屋が卸さない。


 狭い教室に、主人公の俺とヒロインが3人も集まっているのだ。




 サクラ先輩にも是非スク水を装備して貰おうと俺がスク水の魅力と機能性を熱く語っていると、俺たちの横に一人の女子が仁王立ちしていた。


 そう、最強幼馴染ことメグっちだ。

 メグっちは腰に手を当て、俺の事を無言で見下ろしている。

 因みに今日もスク水を装備して来た。


「そうそうサクラ先輩、制服の下にスク水着ると丁度こんな感じです。 最強だと思いませんか?」


「ええ? まぁどうだろうね・・・」


 サクラ先輩は、毎朝校門で見ていたから俺とメグっちが幼馴染なことは知っている。 そのメグっちが無言で仁王立ちしていることに、不安げな表情を浮かべていた。


「ところでメグっち、どうした?そんなに怖い顔して。 俺とサクラ先輩が楽しく食事していることに焼き餅焼くなんて、まったく困った幼馴染だぜ」


「はぁぁぁ??? 別に焼き餅なんて焼いてねーし!!! ノリオとサクラ先輩がどんな話してるかなんて、メグ全然興味ねーし!!!」


「メグっち、それ、興味あるって言ってるのと同じだぞ?」


「う、うるさい!ノリオのバカ!」


 メグっちがこんなにご機嫌斜めなのも珍しい。

 月野さんと絡むときは全然そんなことないのにな。


 ちらりと月野さんの方へ視線を向けると、なんだか興味深々といった表情でコチラを見ていた。


 あ、月野さん、完全に他人事で野次馬気分で面白がってるな。



「はぁ、困った幼馴染だぜ。 サクラ先輩、メグっちも一緒で良いですか?」


「え、ええ、勿論。 この教室では私の方が邪魔しているわけだしな」


「ほらメグっち、突っ立ってないでイスに座れよ。 そんなとこに立ったままだと俺もサクラ先輩も落ち着いて食事が出来ないだろ?」


「うう・・・わかった」


 ようやくメグっちが大人しく座ると、サクラ先輩は


「急に押しかけてごめんなさい、土田さん。 3年の教室だと私はぼっち飯だから、大目に見てくれると助かるんだが」


 サクラ先輩が大人の対応でメグっちに頭を下げると、メグっちは怒っているような恥ずかしがっているようなよくわからない表情のまま無言で頷いた。



 どうやら、なんとか修羅場イベントはクリアー出来たようだな。

 と言っても、メグっちが一人怒ってただけで修羅場とは言えないかもしれないが。

 しかし、その原因は俺にあるのは間違いない。




 そう

 俺は罪作りn

「ところで水元、私も水元のことを”ノリオ”って呼んでもいいか、な?」




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