#21 文芸部の洗礼
キョウコちゃんの強引な勧誘とフジコさんのお願いで文芸部に入部してから、2週間が経過した。
文芸部って、読書したり小説やポエムなんかを書いたりするのが活動だと思っていたが、なんかちょっと違う。
確かに読書するんだけど、読みたい本があっても選ばせて貰えないんだよな。
しかも俺だけ。
みんな自分で好きな本選んでいるのに、俺だけ何故かラノベ渡されるの。
最初に渡されたのが
『髪切って眼鏡外したらモテ期が来たけど、直ぐにメッキがはがれた』というタイトル。 フジコさんに真剣な顔で渡された。
そして本だけ渡されて「読み終わったら教えて下さい」と言われ放置されてたのに、いざ読み終わると文芸部のみんなが手を止めて、何故か俺一人だけの感想発表会に。
「そもそも主人公は、容姿のみでモテただけの話ですよね。正直言って駄作だと思いました。 真のハーレム主人公は、容姿だけでなく内面、そして行動があってこそモテるんだと改めて思いました。そういう意味では反面教師としては多少は意味のある作品だったかと」
俺は、自分の信じるハーレム主人公としての信念を元に、この作品の主人公をディスったのだが、部員のみんなはウンウン頷きながら何かメモを取っていた。 こんな駄作の感想をみんな興味深そうにメモを取る光景は、一見モチベの高い部活動に見えるが、実際のところは駄作にケチ付けてるだけなんだよな。
ソレを思うと、なんかこの文芸部が胡散臭く見えた。
次に日比野さんから渡されたラノベは
『毎朝幼馴染が起こしに来るから悪いと思って先に起きるようにしたら、幼馴染と疎遠になって幼馴染に彼氏が出来た。失意のどん底の俺は忘れる為に街でナンパしたけど誰にも相手にされずに更に落ち込んだ』というタイトル。
タイトルだけでおなか一杯。
「あの・・・日比野さん? コレ読まなくても内容分るんだけど、それでも読まないとダメ?」
「もちろんだよ~水元くんの感想是非聞かせてよ~」
「はぁ、解りました・・・・」
で、読み終わると先回と同じく俺一人だけの感想発表会に。
「えーっと、中身読まなくてもタイトルで内容分かるじゃん!って思いながら読んでみましたが、やっぱりタイトル通りでした。とにかく主人公に全く共感出来ないゴミの様な作品だと思います。 先回のハーレム物も駄作でしたが、あれ以上に酷かったです。 酷すぎて反面教師にすら出来ません。「もう遅い系」のつもりだと思うんですが、結局この作者さんは何が言いたかったのか、全く読み取ることが出来ない内容で、作者さんは敢えて作品批判を受けたくてこんな物を書くドMなんじゃないかと思いました」
「なるほど~それで水元くんは幼馴染さんとどうなんですか~?」
「え?俺ですか? 何故俺の幼馴染の話に? この糞ラノベと関係ないのでは・・・」
質問の意図を掴めずに俺が戸惑っていると、フジコさんが説明してくれた。
「スズちゃんは今小説を書いてまして、幼馴染を題材にしてるんです。 ノリオくんと土田さんが幼馴染同士なのは有名な話だから、リアルな体験談を聞きたかったのよね?スズちゃん」
「そーそー水元くんって幼馴染さんのことどんな風に思ってるのとか~」
「なるほど・・・俺とメグっちは、絵にかいたような幼馴染だと思いますよ。 お互い遠慮は無いし、困ったときは助け合うし。あと、やっぱりなんだかんだ言って可愛いヤツだと思いますね。 なんかされても「可愛いヤツめ」って許せちゃうと言いますか」
俺がメグっちとの関係や思いを話すと、みんな興味深そうにメモを取っていた。
「いや、俺の体験談知りたいの、日比野さんだけじゃなかったのかよ!なんで他の人もメモってるの!?」と思ったけど、なんかみんな一生懸命っぽかったから、黙っていた。
でも相変わらず、胡散臭さはぬぐえなかった。
次に、金田ツインズのミカンさんから渡されたのは
『ナンパに困ってると思って女の子を助けたら、同じクラスの一番美人の女の子だったけど、実は逆ナンパで俺はただ邪魔しただけだった。 次の日カースト底辺に落ちた俺』というタイトル。
「なんだかタイトル読むだけで、胃が痛くなるんだけど・・・」
「大丈夫っすよ! ミカンはこの作品読んでないんで、是非先輩の感想聞かせて下さいね!」
「読んでねーのかよ! はぁ、解りましたよ。読めば良いんでしょ!」
段々俺もヤケ気味になっていた。
確か在籍するだけで良いって言ってたと思うんだけどなぁ
何だか、運動部で言うシゴキの様な気がしてきた。
文芸部伝統の駄作ラノベをひたすら読ませる洗礼、とかそんな感じ。
で、感想会。
「えーっと・・・これってラブコメなの?っていうのが最初の感想でした。 読んでてただただ気分が落ち込む内容です。 甘いシーンとか皆無だし、ざまぁしてスカッとするような場面もありませんし。 なんていうか、共感とかそういうレベルじゃなくて、作者の心理状態が心配になるような作品です」
「なるほど! やっぱりミカン読まなくて正解でした!ってことっすね」
「・・・・・・・こ、こいつ(ちょっと可愛い後輩だからって、調子に乗ってやがるな?)」
思わずそう言いそうになったが、フジコさんの手前、俺は怒りの感情を表に出すことなく、黙っていた。
そして次は、金田ツインズのもう一人、レモンさんからは
『僕の乳首を守って』というタイトル。
「何ですかこれ・・・? ドコかで見た事ある様なタイトルだけど、学校で18禁は不味いのでは???」
「大丈夫っす!これBLだし!」
「いや、BLだから大丈夫ってことないでしょ! むしろBLだからこそヤベーでしょ!」
「大丈夫大丈夫!火野先生もコッチ側の人間なんで!」
「えええ!!!???」
マジか・・・全然気が付かなかった。
文芸部に入部して一番の衝撃だったかも。
で、感想会。
「キョウコちゃんが腐女子だという衝撃が強すぎて、小説の内容が全く頭に入って来ませんでした。以上、終わり」
「ってことは、水元先輩はBLの素質は無しってことですかね?」
「いや、そもそもオレ男だし!普通男で素質あったらヤベーでしょ!」
なんかもう文芸部辞めたくなってきたんだけど・・・
結局、読書して感想述べるっていうのは文芸部らしいといえばそうなんだけど、俺的には不信感しか残らなかった。
そして、こんな不毛な活動とは別に、1週間の活動日誌も提出させられた。
てっきり部活動に関する報告かと思って書いて出したら、フジコさんにダメ出しされた。
「ノリオくんに報告して欲しいのは、文芸部のことじゃなくて普段の日常生活の方です。 普段自分がどう考えてどの様に行動したか、それを報告して欲しいんです」
「なぜそんな物を知りたいんです? は!まさか・・・そんなに俺の私生活を知りたいんだなんて、やっぱりフジコさんは俺の事を・・・」
「ソーデス!ソーデス!ダカラデキルダケクワシクホウコクシテクダサイネ!」
ということで、毎週金曜日の部活では、俺は1週間の活動報告書を書くハメになった。
因みに、これ書いてるの俺だけなの。他の部員は書いて無いの。
一度「何故俺だけ?他のみんなは書かないの?」と尋ねたら、「この活動報告書を書く作業は、文芸部員として文章力の訓練でもあるの!まだ新人のノリオくんの為だけのスペシャルメニューですからね!」とやっぱりドコか胡散臭そうな理由を説明された。
この文芸部、どうも怪しい。
俺に何か隠している様な気がしてならない。
やはり、これもハーレム主人公様の宿命ってやつなんだろうか。
(主人公のハーレムを妨害しようとする魔の手、的ななにか)
そう
俺は罪作りな男、ノリオ。
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